3月25日(水) 第13回公演

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大井浩明 Beethovenfries
16 Dec 1770 - 26 Mar 1827

第十三回公演《踊れ!ベートーヴェン》
Jogetlah! Beethoven

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京都文化博物館 別館ホール
(旧日本銀行京都支店、明治39年竣工/重要文化財)
2009年3月25日(水) 18時30分開演

【使用楽器】
エラール Erard 1852年 パリ製
85鍵(AAA-a4) イギリス式(エラール)アクション
[フォルテピアノ・ヤマモトコレクション蔵]

【助成】
アサヒビール芸術文化財団  (財)ローム ミュージック ファンデーション 芸術文化振興基金  朝日新聞文化財団

【参加公演】
関西元気文化圏

【協力】
アクティブKEI


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《演奏曲目》

アルカン編曲:弦楽四重奏曲第13番Op.130より「カヴァティーナ(Cavatina, Adagio molto espressivo)」(1825)
ウィンクラー編曲:同Op.133「大フーガ(Große Fuge)」(1825)
野村誠:フォルテピアノのための《ベルハモまつり Pasqua Belhamasca》(2009、委嘱新作・世界初演)

[休憩10分]

リスト編曲:交響曲第9番ニ短調Op.125「合唱(Choral)」(1815/24)
第1楽章 Allegro ma non troppo – un poco maestoso
第2楽章 Molto vivace – Presto
第3楽章 Adagio molto e cantabile – Andante moderato
第4楽章 Presto – Allegro assai – Andante maestoso – Allegro energico, sempre ben marcato – Allegro ma non tanto – Prestissimo



フォルテピアノのための《べルハモまつり Pasqua Belhamasca》 


1)即興演奏について 

 ベートーヴェンは、即興演奏の名手だった。本日のプログラムにある弦楽四重奏や交響曲の中に、ベートーヴェンの即興演奏の痕跡が見てとれると、大井浩明は言う。実際のベートーヴェンの即興演奏を聴くことはできないが、何かベートーヴェンの即興演奏のような体験がきる、ということらしい。
 ぼくも名手ではないが、即興演奏をするし、片岡祐介さんと共著で「即興演奏ってどうやるの」(あおぞら音楽社)というCDブックも書いたこともある即興演奏愛好家だ。即興演奏の魅力は、作曲と違って、書き直しややり直しができない一回性。その場のインスピレーションをダイレクトに音に出せるので、うまくいく場合は、どんなに計算しても到達し得ないような音楽の流れを生み出せる。その代わり、悪循環に陥ると脱出するのに苦労したりもするスリリングなものだ。
 「べルハモまつり」の中にも、即興演奏の痕跡が非常に多く残っている。いや、意図的に即興演奏の痕跡が残るように作曲したのだった。この作品の中に現れるほとんどのフレーズは、世田谷区立烏山小学校つくし学級で行ったワークショップで、子ども達とぼくによる即興演奏の記録ビデオから抽出されたものなのだ。ぼくは、障害児学級の子どもたち一人ひとりを巨匠(ベートーヴェン)だと思って、即興演奏を教わるつもりで小学校を訪ねた。子どもたちは半ばデタラメに、自由奔放にハンドベル、鍵盤ハーモニカ、打楽器類を演奏した。彼らの多くは明らかに即興の名手で、デタラメに楽器を演奏することに躊躇がない。また、デタラメのように思えた演奏も、ビデオで注意深く見ていくと、宝の山だったりする。
 ビデオから抽出したフレーズを用いながら、この作品を書くにあたって心がけたことは、オリジナルの即興演奏のイメージを捨て去ることだ。今度はそのフレーズを与えられて新たに即興演奏をするつもりで作曲した。だから、オリジナルの即興演奏とは、全く違ったテイストの音楽になっている。でも、そこには微かに痕跡があるかもしれない。
 つまり、ぼくは、架空の即興演奏を作曲した。今ベートーヴェンが生きていたら、こんな即興演奏をするかもしれないと、ぼくは空想する。

2)フォルテピアノについて

 ベートーヴェンが生きていた時代、フォルテピアノはどんどん開発され変化していった。ぼくは、そういうベートーヴェンと親近感を覚える。それは、ぼくが鍵盤ハーモニカの奏者であるからだろう。
 鍵盤ハーモニカは、1959年に誕生した歴史が50年しかない新しい楽器で、メロディカ(ホーナー)、メロディオン(スズキ)、ピアニカ(ヤマハ)、ピアニー(ゼンオン)などの商品名で知られる。主に小学校教材の教育楽器として日本で爆発的に普及したあの楽器だ。ぼくはこの楽器のために数多く作曲し、即興演奏もしている。昨年には、鍵盤ハーモニカとしては最高級品のエレアコモデル「Hammond 44」が鈴木楽器製作所より発売になったし、年内には新しいバスの鍵盤ハーモニカの試作品が誕生するなど、現在も開発途上の楽器である。
 例えば1996年に「神戸のホケット」を作曲した時、当時のソプラノ鍵盤ハーモニカS-32をイメージしていたが、つい最近開発されたS-32Cで演奏してみると、こちらの音色の方が断然良かったりする。もちろん作曲する時に、まだ存在していない楽器をイメージしたりはせず、現存する楽器のために作曲するわけだが、いざ新しい楽器が現れ、そうした楽器で演奏してみると、なるほど、作曲家の頭の中ではイメージされていたが旧来の楽器では表現できなかったところがうまく表現できるケースもある。逆に、最新のHammond 44で演奏しても、作曲した時の効果とは微妙に違ってしまい、現在では製造中止になっているM-36Bで演奏してこそ持ち味が出る、という曲もある。ベートーヴェンにとっても、同じような事情はあったに違いない。
 さて、本日のコンサートで大井浩明が演奏するフォルテピアノは、かなり現代ピアノに近いエラールという楽器だそうだ。作曲のためにこの楽器を詳しく研究したり触ったりせず、頭の中で架空のフォルテピアノを想像しながら作曲した。だから、本日の初演で、どのような音色で響くのか、非常に楽しみだ。また、フォルテピアノだけでなく、現代ピアノで再演される可能性も念頭に置きながら書いた。

3)「べルハモまつり」について

 タイトルの「べルハモまつり」は、前述の烏山小学校でのワークショップで、ハンドベル、鍵盤ハーモニカ、打楽器を使ったことに由来する。つまり、ベル(ハンドベル)+ハモ(鍵ハモ)+まつり(打楽器によるお祭り騒ぎ)である。ワークショップは、①鍵ハモ②ベル③打楽器の順で行ったのだが、どの順番で曲を構成して欲しいか子ども達に希望を尋ね、①ベル②鍵ハモ③まつりの順番で構成することにした。
 子どもたちには、その後、ビデオから抽出したフレーズを映像で見てもらうワークショップ、そして、一度、鍵盤ハーモニカ3重奏として構成した「べルハモまつり」鍵ハモトリオ版を聴いてもらうワークショップの2回を経て、作曲の経緯を説明した。
 ハンドベルは、ドレミファソラシのダイアトニックだったので、曲の冒頭しばらくは白鍵しか出てこない。ハンドベルの即興演奏は、非常に静かで余韻を味わえるものだったが、「踊れ!ベートーヴェン」というコンサートのためにフォルテピアノの作品にするのだから、全く違ったスピード感溢れる楽曲として生まれ変わってもらった。そして、いつまでも白鍵ばかりだと黒鍵が寂しそうだったので、「ベル・セクション」の後半では、転調して黒鍵にもご登場願った。
 子ども達には、鍵盤ハーモニカでの即興演奏以外に、和音を作ってもらった。8人の子どもが一つずつ和音を作ってくれたので、それを子どもの並んでいる順番に並べて、8小節の和声進行を作った。「ハモ・セクション」では、この8つの和音を何度も循環させながら、その上に即興演奏で現れたフレーズを散りばめた。
 打楽器での即興演奏は、騒然とした盛り上がりを見せた。そのカオスの中で、ぼくは電子ピアノを弾くと、子どもたちが印象的な踊りを見せる。演奏者の「ほい!」という掛け声とともに始まる「まつり・セクション」は、このフレーズを主題にしている。この騒然としたセッションの場にベートーヴェンが現れて、フォルテピアノを弾き鳴らすことを空想しながら、一気に書いた。
 「Pasqua Belhamasca」というタイトルは、欧文タイトルを考えていた時に、大井浩明から提案があった。「ベルガマスク組曲」の「ベルガモ」と「べルハモ」が似ているところから出てきているのだが、mascaということでマスク(仮面)が出てくる。仮面舞踏か。さらに、Pasquaということで、復活祭である(もうすぐイースターだ)。「べルハモまつり」の中にベートーヴェンが復活する。べルハモの仮面をつけて踊るベートーヴェンの復活祭。踊れ!ベートーヴェン。踊れ、べルハモまつり!


野村誠

 名古屋生まれ。8歳より独学で作曲を始め、90年代初頭に即興ロックバンドpou-fou活動後、ブリティッシュ・カウンシルの招聘で英国ヨーク大学で研修し、フリーの作曲家/即興演奏家として活動。
 作曲作品に、「だるまさん作曲中」(ピアノと管弦楽)、「桃太郎」(ジャワガムラン)、「アートサーカス」(弦楽四重奏)、「オルガンスープ」(オルガン)、「NO NOTES」(任意の楽器アンサンブルのための)などがある。
第1回アサヒビール芸術賞(2003)受賞。JCC ART AWARDS現代音楽部門最優秀賞(1996)、またpou-fouでSony Music EntertainmentのNEW ARTISTS AUDITIONグランプリ受賞(1991) 。「Kontraste Festival」(オーストリア)、「Zommer Jazz Fietstour」(オランダ)、「Lille 2004」(フランス)、「Japan 2001」(イギリス)、「竹山国際芸術祭」(韓国)などのフェスティバルに招待される。また、東京シティ・フィル、Bochumer Symphoniker(ドイツ)、大井浩明、御喜美江、松原勝也、藤原真理、マルガサリ、高橋悠治、高橋アキ、宮田まゆみ、などが野村作品を演奏している。
Charles Hayward、Carl Stone、Soon Kim、大友良英、梅津和時などと即興演奏で共演。
山下残(振付家)、島袋道浩(美術家)、荒井良二(絵本作家)、吉増剛造(詩人)らとコラボレーション。アジアの音楽家を集めた即興プロジェクト「i-picnic」、日英での共同作曲プロジェクト「ホエールトーン・オペラ」などにも取り組む。動物園で動物との即興セッションを行い、映像作品「ズーラシアの音楽」を「横浜トリエンナーレ05」で発表。06年、NHK教育テレビの音楽番組「あいのて」を監修し、自身もレギュラー出演。著書に「音楽ってどうやるの」「即興演奏ってどうやるの」(あおぞら音楽社)、「老人ホームに音楽がひびく」(晶文社)、「音・リズム・からだ」(民衆社)などがあり、楽譜はマザーアース株式会社より出版されている。CDに「せみ」、「INTERMEZZO」、「しょうぎ交響曲の誕生」などがある。


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ちゅーちゃんのバロック・ヴァオリン体験記 (クリックすると拡大表示されます)
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by ooi_piano | 2009-03-22 03:25 | コンサート情報 | Comments(0)