6/4(日)バルトーク弦楽四重奏曲全6曲(ピアノ独奏版)


by ooi_piano

一番上がブーブーブーのブツブツ屋

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「現代音楽が好きだと言ってるヤツは、しょせん口先だけだ」
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   数年前、マティアス・シュパーリンガーの大作《エクステンション》を日本初演した際、かなり綿密に書き込まれたスコアであるにも関わらず、作曲家自身からの仔細な注解が無ければ、第1ページ目から演奏不能でした(当時のメモその1その2その3)。
   現代音楽の作曲家は「面白い楽譜を書ける人」に過ぎず、ジョン・ケージの図形楽譜の初演は完全にデイヴィッド・テュードア任せでしたし、マウリツィオ・ポリーニは作曲家と一度も会うこと無くブーレーズ・第2ソナタやシュトックハウゼン・ピアノ曲Xを演奏・録音しました。クセナキス作品の演奏伝統など一切実在しなかったことは、この目で最終確認しました。このあたりの事情は、既にこのブログで何度も触れた通りです。
   私はクセナキスやブーレーズに直接会ったことがありません。会おうと思ったことも無いのが、我ながら不思議でもあります。平安神宮の前を朝夕毎日10年間自転車で通過しながら、中に一度も入ったことが無かったのを思い出します。銀閣寺道は知っていても、いまだに銀閣寺には行ったことが無い。ベルン芸大の斜向かいに立地するアインシュタイン・ハウスの中を覗いたのは、渡欧してから3年目、理学部の友人を案内した際でした。
   ブー《第3ソナタ》は、音楽的にはカスであっても音楽史的には教科書で特筆されている有名作品です。ドミニク・ジャムー著「Pierre Boulez」(原語版英語版)では、第3ソナタの「楽章名」ならびに「演奏順」について、もしそれが事実なら、看過出来ない重大な指摘が見られます。

[1] Constellation と Constellation-Miroir の演奏順序(楽章名について)
   第3フォルマンの楽譜は「Constellation-Miroir」(コンステラシオン、その鏡像形)というタイトルで出版(Universal Edition)されており、「Melange>Point3>Bloc2>Point2>Bloc1>Point1」の順で「左から右へ」印刷されています。楽譜の指示によれば、「Melange から始めて、同種のグループ(les ensembles homogene/the homogeneous groups [pointとblocのこと]を交互に弾く」とあります。これによれば、「Melange>Point3>.....>Point1」が鏡像バージョンであるということになります。
  出版譜序文には書かれていませんが、ブー自身の論文「Sonate, que me veux-tu ?」(ソナタよ、お前は私に何を望むのか?)によれば、このフォルマンは演奏が可逆的であり、オリジナルと鏡像の関係にあるとされています。そして、「Point1>.....>Point3>Melange」がオリジナル(正立形)で、「Melange>Point3>.....>Point1」が鏡像型であるとされる。これは楽譜の指示に一致します。
   これに対して、Dominique Jameuxの「Pierre Boulez」によれば、反対に、「Melange>Point3>.....>Point1」がオリジナル、「Point1>.....>Point3>Melange」が鏡像型であるとされています。
   これは、Jameux の記述が間違っている、ということで宜しかったでしょうか。

[2] 第2・第3フォルマンを続けて演奏する際の、第3フォルマン内の演奏順序
   Jameux によれば、formant2と3を一緒に演奏する場合、formant2 > formant3 の順で演奏するなら、formant3は「Melange>Point3.....>Point1」の順で演奏されなければならないそうです。(Jameuxの言う「オリジナル・バージョン」。ブーの言う「鏡像バージョン」)。一方、formant3 > formant2 の順で演奏されるなら、「Point1>.....>Point3>Melange」>formant2 の順で演奏されなければならないそうな。(Jameuxの言う「鏡像バージョン」。ブーの言う「オリジナル・バージョン」)。
   どちらの場合も、Melangeは「Constellation全体の小宇宙」(Boulez)であると同時に、TropeとConstellation(-Miroir)とを結びつけるものだそうで、してみると、可能な演奏順序は次の二つのみ、となります。

1. Trope > Melange > Point3 > ..... > Point1
2. Point1 > ..... > Point3 > Melange > Trope


   Jameuxは、「このルールは今日ではしばしば無視されている」と述べています。この、楽譜にもなく作曲家エッセイにも見当たらない、しかしその実極めて重大な「ルール」の典拠は、いったいどこにあるのでしょう。口頭でブーがジャムーにそう言ったから、としか思えないのですが。信じるか信じないかは、あなた次第・・・・、ってやかましいわ。

   ブー生誕70周年の1995年に京都で、翌年に東京で全ピアノ作品によるリサイタル(2台ピアノ曲とソナチネを含む)を行って以来、第3ソナタの曲順問題は常に脳裏にありました。ブー周りの演奏家・作曲家・音楽学者に訊いてみると、曰く、「リハーサルでは曲順は全く話題に上らなかった」、「大昔に書いた曲だから、手元に楽譜が無いと答えられないと言われた」、「アタシのことを莫迦だと思ってくれていい」等々、とにかくブー様の逆鱗に触れてはならぬとの自主規制なのか、謎は深まるばかり。ダルムシュタットでの作曲家自身による世界初演を目撃した園田高弘氏によると、初演直後に譜面台を覗いたら、真っ白けの殴り書きの断片しか書き込んで無かったそうだし。
   ここ数十年、ブーに第3ソナタの帰趨を質問するのは、最早「お約束」の恒例行事であり、中性洗剤に「第2ソナタはいつになったら弾いて下さるんですか」「ソナタは長過ぎボクの人生は短い」と愚問愚答するのと同様、各所で馴染みの光景となっています。完成するのか、と訊かれれば、勿論「いつか完成したいと思っている」「やる気が出れば完成する」、と答えるに決まってます。今年に入って増補改訂したとの情報もありますが、プリ・スロン・プリ程度には整理整頓したのでしょうか。

   このジャムー本、入門書として中々コンパクトにまとまった本にも関わらず、英訳は絶版、邦訳の話も出た形跡がありません。ブー20歳時の無理心中やら性的嗜好に触れたペイザー本など、私は退官間際の鴫原教授から譲り受けたものの、今後日の目を見ることも無いでしょう。ブー真理教の発生がIRCAM設立以降であると思われるのは、藤倉大の厚遇ぶりに比べ、それ以前にブーが指揮した松平頼則や松下眞一の不遇っぷりが半端で無いからです。海原はるか・かなたの髪吹きネタを、誰かがブーのバーコード頭へ特攻するわけでもあるまいに、京都では宮内庁記者会見なみの戒厳令との由。ブーを崇め奉ってみせる陣笠連のうち、何人がマルトーを口ずさめるでしょうか。御本人が「怪我のため」指揮をキャンセルした話は先週初めには確定済みなのに、いつまでも告知されないのも不思議です。もう肘から先が上がらない、という噂は本当でしょうか。84歳にして全楽器の高音域はいまだに聞き取れているんでしょうか。70年代のインタビューでは、「鹿威(ししおど)しには一分と我慢出来ない」と明言していたのに、ジャパンマネーに目が眩んだか、今更「日本伝統文化は心から敬意の対象」などとリップサービスされても、京都人としては真に受けられまへんえ。
   音色音色と連呼しているわりには、ウィリアム・クリスティを虚仮にするブーは、正しく前世紀の遺物です。生前のクセナキスの親友であったラドゥ・スタン氏は、痴呆症になったのは京都賞の所為だと言わんばかりに慷慨しておられましたけれども、ブー様の最晩年の御健勝をお祈りする次第です。

   20歳から30歳までオンド・マルトノで喰っていたブーレーズに敬意を表して、ナズィアールによるグリッサンドが挿入されている・・・わけないか。
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Commented by pankomedia at 2009-11-10 06:59 x
こんなところまでお邪魔します。握手しようとしたら「怪我してるんだ」とて、しかたなく左手を握っておいたのですが。指揮、キャンセルですか。Sonata No.3、私には取扱不能の問題でした... レセプションのとき、フランス領事がブーレーズを横に立たせて「日本にも武満徹という偉大な作曲家が..」といきまいていた姿が頭から離れません。
Commented by Yum at 2009-11-10 23:24 x
レセプション60分のうち、領事達の無駄に長い挨拶で20分は経ってたっけなぁ…眼の前のスイーツは食えないブー氏の飲み物は無い、虎の威を借る狐達の尊大な態度の割には段取りが悪かったですねぇ。
Commented by ooi_piano at 2009-11-10 23:49
  稲盛財団寄贈の「京都大学映像アーカイブステーション」という建物は、入ってすぐの「京都賞室」を通らないと、肝心の映像展示室に行けないそうな。
  功成り名遂げた有名人物を顕揚する京都賞に対して、稲盛氏とともに京セラを立ち上げた青山氏が創設したのが、無名の若手音楽家のための青山音楽賞です。94年春の授賞式式典にて、最晩年の車椅子の青山翁にお目にかかった際、京大電気工学科在籍時(戦前!)には京大オケでヴァイオリンを弾き、音楽と将棋が大好きだったこと、4つ下の後輩に朝比奈隆氏がおられたこと等々をお伺いしました。
Commented by ooi_piano at 2009-11-10 23:53
京セラ創立時のエピソード: nippon-shacho.com/search/result.html?did=97
Commented by ooi_piano at 2009-11-11 03:11
両手がまるで指揮の仕草のように宙を舞い始めた。mainichi.jp/select/opinion/hito/news/20091110k0000m070135000c.html
Commented by ooi_piano at 2009-11-11 03:23
>]しかたなく左手を握っておいたのですが。

大量の自筆サインは、右手でしていたわけですよね。

来週月曜パリの公演はキャンセル告知無し:sallepleyel.fr/francais/programme/detail_representation.asp?id_rep=22101
by ooi_piano | 2009-11-09 08:54 | Comments(6)