■2005/07/02(土) クコドンローのK

c0050810_5204199.gif28歳でスイスの音大に入学するまでは、基本的に私は自室の電気ピアノで練習してましたので、よって「音色」だの「タッチ」だのという概念は、無いに等しい状態でした。
それでも楽しくピアノは弾けていたわけですが、ただ例えばメシアン《音価と強度のモード》やブーレーズ《構造》などに現れる、「アタックのセリー」の処理の仕方は全く見当がつきませんでした。アタックとは何か?「音の立ち上がりのことだ」と言われてみても、ピンと来ません。
音色をセリエルにコントロールする、という演奏様式を通過したピアニスト、すなわちブーレーズ《構造第1巻》をマトモに練習した数少ないピアニストの一人であるB.カニーノの意見を私なりにまとめると、以下のようになります。



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【レガート】
音をつなげる、というよりも、音色を揃えること、次の音でブツけないことが重要である。打鍵速度は最も緩やかになる。2音を僅かずつ重ねていく必要は無い(クラリネットのレガートを想起せよ)。2音以上を重ね合わせる奏法は、レガートではなくオーヴァーレガート、あるいはスーパーレガートと呼ばれる。
最初は「完璧なクレッシェンド/デクレシェンド」を、音階などで試してみると良い。ヴォリュームつまみを徐々に回していくようなクレッシェンド。そこに齟齬が発生しなければ、それは「レガート」である。前の音がブツ切れにならず、次の音へ緩やかに移行出来たなら、人間の耳はそれを「レガート」と判断する。極端な例では、親指や小指の連続して使用しても、やりようによってはレガートに聞こえる(音色を優先した運指法となる)。
なお、上を向いたり肘を回転させたり、指をいちいち高々と上げなくてもレガートは可能である。

【スタッカート】
打鍵速度は速く、空中から軽く鍵盤に指を振り落とすイメージ。慣れないうちはこれは「スタッカーティシモ」に聞こえるが、上記の奏法が連続使用時に最も確実(音が抜けない)、かつ遠くへ音が飛ぶ。鍵盤表面から指だけで弾(はじ)くのはチェンバロやオルガンのスタッカートであり、ピアノには向かない。

【テヌート】
打鍵速度は遅め、肩から腕を固めて(すなわち「重く」)、鍵盤を「突く」イメージ。音の形は台形、ノコギリ波である。

【ポルタート】
スタッカート記号のついた音符がレガート線でつながれているもの。打鍵速度と重さについては、ちょうどスタッカートとテヌートの中間にあたる。「ペダルを加えながら」「少し自由なリズムで」「フワフワと浮かせて」弾く感じ。

【ノン・レガート】
上記レガートのパッセージの音と音のスキマに、僅かな空気が挿入されること。ノン・レガートといえば「指だけで弾く」というイメージだが、腕の重みを使うラクな奏法もある。

打鍵速度が速ければ「音の立ち上がり」は速くなり、逆に遅く打鍵すれば音も緩やかに発生します。言うまでもなく、ピアノ演奏では複数の音を連続的に制御しなければならならず、そこに人間の「手」という限定された条件を当てはめるときに、(イメージとして)肩から弾くか手首から弾くか、指先のスピードは速いか遅いか、という組み合わせを色々試すことになります。

メシアン《音価と強度のモード》では、最初にそれぞれの音高に一定の「アタック」が与えられている筈なのにも関わらず、よく見ると途中でノーテーションが変えられている箇所があります。逆にそれらによって、それぞれの「アタック」記号に関するメシアンの奏法イメージをある程度定位してゆくことも可能でしょう。同じ年に作曲されたブーレーズ第2ソナタ、特に終楽章では、ほとんどフォロー不可能なアタック記号の書き込みが見られます。
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Commented by johanna at 2006-03-12 00:10 x
ooi_pianoさま、はじめまして。
メシアン「音価と強度のモード」について知りたくて検索して
ここに辿り着いた者です。
記事を大変興味深く読ませていただきました。
この作品を現在練習しているのですが、アタックに関する
考察、とても参考になります。さまざまな打鍵速度と重さの組み合わせ
によってそれぞれのアタックが実現するというふうに理解して
なるほど~と思ったのですが、
そこにさらに音量の変化をつけたいとき、どうすればいいんだろう?と
いう疑問が出てきました。ふだんは、打鍵速度によって音の強弱が決まると認識して弾いているのですが。。。
記事に書かれていることを単に私が正しく理解していないのであれば
スミマセン。
管理人さまのお考え、演奏の際のアドバイスなどいただければ
うれしいです!
Commented by ooi_piano at 2006-03-12 16:45
Joanna様、
例えば鍵盤を軽く「はたく」ようなタッチだと、打鍵のために使用する重さは「軽い」一方、速度は「速い」です。これで例えば、羽のように軽やかなピアノ(弱音)のスタッカートを行うことが出来ます。
一方、打鍵速度は「遅く」、しかし肩からの重みをずっしりかけると、重厚なフォルテ(特に和音など)が出ます。
私が「打鍵速度」と言っているのは、指が鍵盤にあたる際の「入力」についての「イメージ」を指しております。さまざまに制約のある(人間の)5本の指で、和音や連続パッセージを次々に「入力」するときに、このようなイメージ作りは有用です。打鍵速度が速いと音の「立ち上がり」も速くなり(フォルテとは限らない)、打鍵速度が遅いと音の立ち上がりは遅くなります(ピアノとは限らない)。音の立ち上がりとは、音色を構成する重要な要素です。
Commented by ooi_piano at 2006-03-12 16:46
(cont'd)
この「イメージ作り」については、かつては私も非常に懐疑的でしたが、自然な長めの残響のある部屋でスタインウェイで練習し、そこで自分の音と師匠のお手本をDATレコーダーに録音して何度も聞き返すうち、いつしかこの「イメージ作り」無しにはピアノを演奏出来なくなりました。 「音色」あるいは「タッチ」という言葉は非常に曖昧で、「胡散臭い」とさえ言えるものですが、しかし一方、「音色」あるいは「タッチ」という言い方がもっともぴったりくる音響現象も実在しているのです。

お答えになったでしょうか?
Commented by johanna at 2006-03-13 06:45 x
ooi_pianoさま、 こんばんは!
早速のお返事どうもありがとうございます!
音の立ち上がり。。。
拝見してから再びこのことについて考えています。
恐らく自分の耳で体験するのが最もいいのだろうなと
思いました。
丁寧な解説をどうもありがとうございました!
このブログ今後楽しみに読ませていただきます。
管理人さまのこれからのご活躍もお祈り申し上げます。
by ooi_piano | 2005-07-02 14:08 | プロメテウスへの道 | Comments(4)