2/24(土)「知命」作曲家特集/夏田昌和新作+伊藤謙一郎新作

ポック[POC]#36】 2018年2月24日(土)18時開演(17時半開場) 「知命」作曲家特集

大井浩明(ピアノ独奏)

JR渋谷駅徒歩8分、井の頭線神泉駅徒歩3分
3000円(全自由席)

【お問合せ】 合同会社opus55 Tel 050(5849)0302 (10~18時/水木休) Fax 03 (3377)4170 (24時間受付)
チケット予約フォーム http://www.opus55.jp/poc.html
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●原田敬子(1968- ):《NACH BACH》(2004、全24曲・通奏初演
  I.田崎悦子に II.中川賢一に III.ラースロ・シャーリに IV.フェルディナンド・デュボワに V.大宅裕に VI.ル・コルビュジェに VII.ジェームズ・テニーに VIII.稲垣聡に IX.間宮芳生に X.美加理に XI.アントン・ウェーベルンに XII.シュテファン・フッソングに XIII.ニューヨーク市に XIV.鈴木俊哉に XV.〈水のガムラン〉--廻由美子に XVI.吉村七重に XVII.子供時代に XVIII.三善晃に XIX.山根孝司に XX.ジェルジ・リゲティに XXI.ブライアン・ファーニホウに XXII.ジョージ・ヴァン・ダムに XXIII.ジェルジ・クルタークに XXIV.未来に 

 (休憩10分)

●山口恭子(1969- ):《zwölf》(2001、日本初演)
●望月京(1969-):《メビウス・リング》(2003)
●田村文生(1968- ):《きんこんかん》(2011、委嘱作・東京初演
●山路敦司(1968- ):《通俗歌曲と舞曲 第一集》(2011、委嘱作・東京初演

 (休憩10分)

●木下正道(1969- ):《「すべて」の執拗さのなかで、ついに再び「無」になること II 》(2011)
●西風満紀子(1968- ):《wander-piano II (harmony go!) 》(2015、日本初演)
●夏田昌和(1968- ):《ガムラフォニー II》(2009)、《センターポジション》(2018、委嘱新作初演)
●伊藤謙一郎(1968- ):《アエストゥス》(2018、委嘱新作初演)



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原田敬子:《NACH BACH I-XXIV》 (2004)
  突き抜けた個性と創造的スピリットを持ち合わせた音楽家、田崎悦子さん(ピアニスト)との出会いによって、全24曲70分の『NACH BACH』 を作曲することになりました。田崎さんとは2001年頃から、草津、ニューヨーク、東京、八ヶ岳などあちこちで、折に触れて濃い時間を共にしました。
  田崎さんは J.S. Bachの『平均律クラヴィーア集』を敬愛し、2004年のリサイタルシリーズでプログラミングするにあたり日々アイデアを練っておられて、ある日 「『平均律・・』に関係する作品を作ってほしい」、とリクエストを受けました。
  私は『平均律…』第一巻の各曲の、プレリュードかフーガのいずれかを任意で選び、各主題の音組織を全く自由に並び替えることで、各曲に対応する全24曲を作曲することにしました。特殊奏法を予め禁止されたので、ピアノという楽器は、当然ながら「12の音高」から逃れられない、いわば古典楽器となりました。そこで様々考え抜いた末、音高から逃れられないなら、敢えて音高を主役に作曲しようではないかと決めました(それで『平均律・・』の各曲の主題音列を並び替えるという手段をとった)。私にとっては、幼少期から10代を除き、音高が支配的ポジションを占める楽器での独奏曲作曲は難関です。いくら組み合わせが無限にあるとしても、音高から逃げられずに音楽の中身そのものを新たに創造することは至難で、逃げ場は一切ありませんでした。
  各曲は、私が影響を受けてきた、主に芸術関係者へのオマージュとして作られていて、演奏者と聴衆が、それらオマージュの人々と間接的に出会うことを意図しました。オマージュの人々の個性が、私に与えてくれたインスピレーションは計り知れなかったからです。そしてありったけの力で、真剣に、とことん遊んだ作品となりました。 (平均律クラヴィーア集第1巻の、どの曲がどのオマージュに関連しているかは非公表。)
  今回、音楽家として同期の大井浩明さんに取り上げて頂けるご縁に驚き感謝しています。そして今回が全24曲通奏としては初めての機会となります。(田崎さんは12曲ずつ2夜に分けて世界初演)。 (原田敬子)


原田敬子 Keiko Harada, composer   
  1990年代半ばより「演奏家の演奏に際する内的状況」に着目し、主に音楽的身振り、時間構造、音楽的テンションにおいて独自の作曲語法を追求している。作品は国内外の主要な音楽祭や放送局、アンサンブル、管弦楽団やソリストの指名により委嘱を受け、演奏の国際コンクール課題曲にも選定されている。日本音楽コンクール第1位、安田賞、Eナカミチ賞、山口県知事賞、芥川作曲賞、中島健蔵音楽賞、尾高賞ほかを受賞。国内外で異分野とのコラボレーション多数。作曲を川井學、三善晃、Brian Ferneyhoughに、ピアノと室内楽を間宮芳生、Gyorgy Kurtag に師事した。
  '15年 サントリー芸術財団主催、管弦楽作品による「作曲家の個展」、'16年 ISCM台湾支部の招聘で「臺北国際現代音楽祭」のテーマ作曲家として「室内楽曲の個展」に加え、新作の舞台作品が初演された。また日本の各地域で育まれた楽器や声のフィールドワークを行い、日本独自の美学や表現を、新たな響きと身体表現によって再発見する「伝統の身体・創造の呼吸」を開始('15)、第1回は鹿児島伝統の薩摩琵琶にとって約130年ぶりとなる新曲を作曲(西行法師 句)、鹿児島本土の人々の協力と支援の元、鹿児島市で初演。3枚目の自作品集CD「F.フラグメンツ」(ドイツWERGO、キングインターナショナル出版)は、レコード芸術「特選盤」となり、同アカデミー賞のファイナリスト、朝日新聞 推薦盤('14) 。'17年には4枚目の自作品集CD「ミッド・ストリーム」(WERGO)がブレーメン放送局の最後の現代音楽プロジェクトとして収録、リリースされた。
  ’18年以降は「伝統の身体・創造の呼吸」vol.2 として、世界自然遺産登録を目指す日本の南西地域の音楽(島唄・三線)をフォーカス、第1回は「喜界島」を特集。その他、日本とロシア主催「シアター・オリンピックス」委嘱を受け、振付家の金森穣氏と組み世界初演作品(舞踊 x 音楽)を発表予定。
  現在 東京音楽大学 (作曲芸術) 准教授、桐朋学園大学 非常勤講師。また桐朋学園大学附属音楽教室や静岡音楽館(AOI)などで毎年70名以上の子どもたち(小1〜高3)への作曲体験クラスや楽曲分析、楽曲解釈講座を担当している。作品は (株)全音楽譜出版社、(株)東京コンサーツ、Edition Wunn (ドイツ)が出版、管理。 https://www.keikoharada-music.com/



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山口恭子:《zwölf 》(2001)
  オランダ人ピアニスト、Marcel Wormsより「ブルースにインスパイアされた作品を」との依頼を受け、作曲。それまであまりジャズやブルースを聴き込んだことのなかった私にとっては難題であったが、それ以降、意識的に様々なジャンルの音楽を聴くようになる節目となった作品でもある。典型的なブルースの中核は、12小節から構成される。この作品もいわゆる12小節のテーマとその変奏で作られている。それ以外にも「zwölf(ドイツ語で12)」は重要な数字である。曲中ほぼすべての音は完全12度、完全5度、または完全4度に由来する。(山口恭子)

山口恭子 Yasuko Yamaguchi, composer
  1969年長崎県生まれ。1991年東京芸術大学作曲科卒業。2000年ロベルト・シューマン音楽大学作曲専攻修了。1989年第13回神奈川県芸術祭合唱曲作曲コンクール、1992年第8回現音作曲新人賞入選。2005年デュッセルドルフ市奨励賞(音楽部門)受賞。2016年ニーダーザクセン州・シュライヤーン村の芸術家の家にレジデンス、2018年にはドイツ文化省より奨学金を得て、イタリア・ヴェネツィアのドイツ研究センターにおけるレジデンスが決まっている。ノルトラインウェストファーレン芸術財団、デュッセルドルフ音楽堂等より委嘱多数。多くの作品がStudio Musikfabrik(ドイツ)、De Ereprijs(オランダ)、Ensemble Espai Sonor(スペイン)、新日本フィルハーモニー交響楽団、オーケストラ・アンサンブル金沢、東京シンフォニエッタ等の演奏団体により、ガウデアムス音楽週間1999(オランダ)、ミュンヘンビエンナーレ・クランクシュプーレン 2008(ドイツ)、ADEvantgarde 2009(ドイツ)、ミュージック・フロム・ジャパン・フェスティヴァル 2010(アメリカ)、rainy days 2012(ルクセンブルク)、Vertixe Sonora Vigo 2015(スペイン)等のフェスティヴァルで演奏されている。また2007年5月にドルトムントで、2008年9月にはデュッセルドルフで室内楽作品の個展が開かれた。現在フリーの作曲家としてドイツ・デュッセルドルフに在住。 http://www.yasukoyamaguchi.de/


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望月京:《メビウス・リング》(2003)
  オーストリア・クラングシュプーレン音楽祭委嘱。2003年9月13日インスブルックにてニコラス・ホッジスにより初演。
  メビウス・リングとは、帯の一端を180度ひねってもう一方の端と留めた輪のことで、この帯状の輪の表面上を辿ると、常に同じ表面上にありながら、ひねった 帯の裏と表を絶えず行き来するというパラドックスを発見したドイツの数学者アウグスト・フェルディナント・メビウスの名にちなんで名付けられました。
  私の《メビウス・リング》は、冒頭提示される拍動リズムに基づく変奏曲の連なりで、各変奏ごとにその拍動リズムから遠ざかろうとするものの、姿や速度を変えつつ常に原点に戻ってきてしまうというプロセスを繰り返します。(望月京)

望月京 Misato Mochizuki, composer
  1969年東京生まれ。東京藝術大学音楽学部附属音楽高校、同大学を経て1993年同大学院作曲専攻修了。1995年パリ国立高等音楽院作曲科、1998年同科第3課程、2000年同アナリーゼ科修了。1996〜97年IRCAM(フランス国立音響/音楽の探究と調整研究所)研究員。北村昭、尾高惇忠、間宮芳生、ポール・メファノ、エマニュエル・ヌネス、トリスタン・ミュライユの各氏に師事。
  繊細さとダイナミズム、多彩な音色やバランス感覚に優れたユニークな作風が各地で注目を集め、ザルツブルク音楽祭、ウィーン・モデルン、ベルリン・ムジークビエンナーレ、ヴェネツィア・ビエンナーレ、サイトウ・キネン・フェスティバル(松本)など、数多くの主要音楽祭等で作品が初演/再演される。各国のラジオ・テレビによる放送も多い。パリの秋芸術祭、アルス・ムジカ音楽祭(ブリュッセル)、アムステルダム・ムジークヘボウ、サントリーホールなどでは、オーケストラやアンサンブル作品による個展が開催される。現在、主にヨーロッパと日本でもっとも活躍する作曲家のひとりである。
  1995年第64回日本音楽コンクール作曲部門第1位及び安田賞、1998年ダルムシュタット・シュティペンディエン賞、1999年ユネスコ国際作曲家会議推薦曲(パリ)、2000年芥川作曲賞、2002年アルスムジカ音楽祭聴衆賞(ブリュッセル)、2003年芸術選奨文部科学大臣新人賞、出光音楽賞、 2005年尾高賞、2008年ユネスコ国際作曲家会議グランプリ(ダブリン)、2010年ハイデルベルク女性芸術家賞を受賞。作品はBreitkopf&Härtel社より出版されている。
  講演や作曲の講師として招聘されることも多く、社会や芸術に対する幅広い興味や関心、知識に裏付けられた誠実な講義、また2008年より読売新聞に年4回執筆している「音楽季評」も高く評価されている。これまでに、ダルムシュタット国際夏期講習会(ドイツ)、ロワイヨモン国際作曲セミナー、ニース・CIRM(国際音楽研究センター)、パリ・エコール・ノルマル音楽院、ウィーン芸術写真学校、ニューヨーク・コロンビア大学、アムステルダム音楽院、ア・テンポ音楽祭(ベネズエラ)、武生国際音楽祭等で講師を務める。2011~2013年は、ブザンソン国際音楽祭コンポーザー・イン・レジデンスとして、指揮者コンクール課題曲作曲および審査のほか、地域の大学、音楽院、美術学校などでの講演やワークショップ、演奏会を数多く行った。2007年より明治学院大学文学部芸術学科准教授、2014年より教授。 http://www.misato-mochizuki.com/



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田村文生:《Ding Dong Ding - きん こん かん》(2011、委嘱作・東京初演)

  私が過去にピアノ独奏のために作曲したものは、1994年に1曲、1996年1曲の僅か2曲と少ない。どちらも、ある種の限定を設定することから作曲が始められた。前者は、ピアノの音域(上半分のみ)と音の出現順を限定(一種の音列作法)、一方後者は、中央の1オクターブのみを用い、常に最高音と最低音で小節を開始する・・・という具合である。
  88個の鍵盤、合計200本近くの弦を持つ楽器が身近にどれだけあるだろうか?ピアノ曲とは「200人までの音楽」という潜在的なものの中からの抽出結果、ということになるかと思うが、良く考えてみると、音を出すための手は2本、指は10本、(クラスターでもなければ)それによって瞬時に発音できる音は、せいぜい15個以下ということになる。それを踏まえると、この楽器は(もちろん鍵盤楽器全般においても)特殊な演奏様式を持つ楽器と言えるかも知れない。しかしそれこそが「ピアニスティック」なものであると言えるだろう。その意味では、例えば、200(弦)対15(指)の関係によってイディオム化される「ピアニスティックなもの」に対して、15(弦)対15(指)で(あるいは200対200で)イディオム化されるそれは全く異なるであろうことは想像に難くない。
  いずれにせよ「作品」とは、楽器や演奏様式などの様々な側面に、ある種の「限定」を設定することによって異化された状態の表出であり、同時に、楽器そのものに対する、また、それを作品としてどのように記してゆくかという作者の見解を反映するものであろう。

 さて、この作品における限定とは何か。明白に音域が限定されているわけでもなく、特定の音階や音列への固執が本来的である訳でもないが、音高素材や展開の限定という意味ではミニマリズムからの、運動の限定という意味では点描主義的なものからの、そして、倍音を部分抽出したかのような響きは音響派からの、どれもある種の限定の要素が顕著に見られる音楽的傾向からの影響があるように思う、それらは以下のような点に要約されるであろう。

・限定された響きからの逸脱、響きの変調
・音響構造と旋律的・身体的運動の限定(あるいは排除)
・音程構造の限定と響きの単純な段階的推移

  木村カエラ「Ring a Ding Dong」を思わせるタイトル(・・・或いは和田アキ子やF.リストでも良いが・・・)は、作品を発想する際のアイデアや部分的な音響構造が、埼玉県川越市の「時の鐘」の音を周波数分析した結果に基づいていることに由来した、いわゆる、「カンパノロジー」的な発想を示している。微分音を含む音響構成を平均律で調律されたピアノによって再現すること自体が殆ど不可能であるが、鐘は、音響構成のヒントとして作品に反映されている。

  今回の作品は、大井浩明氏からの委嘱ということもあり、超絶技巧のネ申を悶絶させたいという誘惑との戦いであった。果たしてその誘惑に勝ったか?負けたか?勝敗はともかく、神のご加護に感謝したいと思う。(田村文生)


田村文生 Fumio Tamura, composer
  東京都杉並区に生まれ、埼玉県川越市に育つ。東京藝術大学大学院およびGuildhall School of Music and Drama, London大学院修了。1995年から97年まで文化庁芸術家在外研修員としてイギリスにて研修。作曲を北村昭、近藤譲、松下功、R,サクストンの各氏に師事。これまでにVallentino Bucchi国際作曲コンクール(ローマ)、安宅賞、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞、朝日作曲賞、国立劇場作曲コンクール、ジェネシスオペラ作曲賞(ロンドン)審査員特別賞などに入選・入賞。作品は、アジア音楽祭、東京の夏音楽祭、Spitalfields音楽祭(ロンドン)、The State of the Nation音楽祭(ロンドン)、アンジェリカ・フェスティバル(ボローニャ)、アジア作曲家協議会音楽祭(ソウル)2003、国際現代音楽協会(ISCM)世界音楽の日々(香港)など、各地で演奏されている。
  日本作曲家協議会、日本電子音楽協会、作曲家グループTEMPUS NOVUM、邦楽器アンサンブル日本音楽集団各団員・会員。現代音楽演奏団体Ensemble Contemporary α代表として現代音楽の演奏会企画・制作に携わる。教員として神戸大学、姫路市立生涯学習大学校、神戸シルバーカレッジ、神戸女学院大学に出没。  http://www.edu.kobe-u.ac.jp/hudev-bunsay/



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山路敦司:《通俗歌曲と舞曲 第一集より From "Popular Songs and Dances Vol.1"》(2011、委嘱作・東京初演)

  実は僕は現代音楽から興味を失ってしまっていて、かれこれ10年以上コンサートのための器楽曲を書いてなかったんです。その間何をしていたかというと、コンピュータミュージックやメディアアート、そして情報デザインの分野で作品を作ったり考えたりしていました。現代音楽は遠くから眺めていただけなんですけど、それでも自分が40歳を越えた時にもう一度現代音楽を書こうと、心の中でひっそりと決めていました。そして、40歳を越えてしまったなという時、丁度よいタイミングで大井君から作曲の委嘱を受けたんです。しかもTwitter経由で。かつて僕らが20代だった頃、大井君と初めて会った時に見せてくれた公演企画書というのがあって、当時、企画書を書いてプレゼンする演奏家がいるってことがとても新鮮だったわけですが、初対面の僕に向かって大井君は演奏会の企画意図を力説していたのです。どんな企画かっていうと、同世代というか同級生の作曲家によるオーセンティックな関係を探るということだった。40歳を越えた今、今回はその時と同じというか延長にある企画でした。喫茶店のテーブルの向こうで、すごい勢いで喋る20代の大井君がとっさに思い出された。僕は10年以上の月日を遠く思いながら、この委嘱を引き受けることにしました。ブランクの間に自分の中にあちこち散在しながら溜まってきたものどもを整理するために。そして現代音楽を作曲するリハビリも兼ねて。

  最初に大井君の演奏を聴いた時、その超絶技巧と音楽を読み解く力に圧倒されました。彼の巨体で鳴らされるクラスターが素晴らしく美しい響きだった。その後、彼もヨーロッパに留学し、現代音楽に留まらず古楽演奏にも活動の幅を広めたと聞きました。じゃあ今回の曲はクラスターと装飾音を素材として用いようと単純に考えました。大井君の「音響体」としてのダイナミックレンジと繊細さを引き出そうと考えたわけです。
  実際の作業工程としては、ピアノを初めて触る子供がよくやる即興演奏のような、あえて稚拙で単純なフィジカルなアイデアをスケッチし、それをコンピュータのアルゴリズムを使ったりして、デザインとして音楽をとらえるというスタンスでディテールを詰めていきました。言うまでもなく、僕が机上というかコンピュータの画面上で実際にどんな作業をしたのかなど、演奏の結果には何も関係ないことですけれど。でもそこには僕がこの10年の間にやってきたこと、建築家や現代美術作家とのコラボレーションで経験したことなどの影響もあるかと思います。
  僕の中にある既成的な構成感覚を捨てて突き放す。そしてまた引き戻すことを何度も繰り返しながらこの作品を完成させました。しかし結果的にはライヴでそれをも破壊させてしまうスリリングさと寛容さこそが、同時代における作曲家と演奏家のオーセンティックな関係だと思っているわけです。(山路敦司)


山路敦司 Atsushi Yamaji, composer
  クラシック、現代音楽の作曲家として活動する傍ら、映像音楽からポピュラー音楽まで幅広く手掛ける。特にコンピュータ音楽やノイズ音楽において多くの海外の音楽祭で作品が発表され高く評価されている。Cartier、Panasonic Latin America 等の企業CM音楽の他、クリエイティヴユニット・TOCHKA(トーチカ)とのコラボレーションによる一連のアニメーション作品は上海万国博覧会や世界中の映画祭で入選し上映されている。東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程修了。スタンフォード大学Center for Computer Research in Music and Acoustics(CCRMA)客員研究員、国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)を経て、現在は大阪電気通信大学総合情報学部教授を務める。武満徹のポピュラー・ソングと映画音楽に関する実証研究により京都市立芸術大学にて博士号取得。映画『悲しき天使』(監督:大森一樹)で第2回おおさかシネマフェスティバル音楽賞受賞。デレク・ジャーマン監督の盟友として『カラヴァッジオ』『ラスト・オブ・イングランド』『BLUE』など多くの作品を手掛けた音楽家、サイモン・フィッシャー・ターナーとの協同作業による映像作品『Dies Irae』(監督:若桑江織)でミラノ・ファッションフィルム・フェスティヴァル入選。その他、ビデオゲーム『龍が如く』『けいおん!放課後ライブ!!』ほか長年に渡りゲーム音楽を多数手掛ける等、ニューメディアとしてのサウンド表現の可能性を追求しながら芸術とエンタテインメントの領域を横断する活動は多岐にわたる。 http://sushilab.jp


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木下正道:《「すべて」の執拗さのなかで、ついに再び「無」になること II 》(2011)
  この曲は2011年に、クラヴィアーレアからの委嘱で作曲し、同年11月20日に開催された演奏会「claviarea 10 コンテンポラリー・ピアニズム/くりかへす悦び」にて、中村和枝さんによって初演されました。
  タイトルは、エジプト生まれでフランス語で書くユダヤ系詩人である、エドモン・ジャベスの「書物への回帰」所収の詩句によります。
  冒頭の長三度+完全五度によるモチーフ、そしてその残響から、ゆっくりと滲み出すように音が生起して、空間を旋回していきます。また二種類のテンポ (四分音符= 42、63) を用い、それらがある時は漸次的に、またある時は唐突に変化しながら、上昇/下降を繰り返し続ける「時間の螺旋」を描きます。それらが互いに絡み合い、また反発しつつもひたすら進み、ある一つの場所に辿り着いたのもつかの間、音たちの風景は次第に沈黙に (豊穣さをもたらす前段階としての力を溜め込む場としてではなく、あくまでも荒涼、殺伐とした「枯れて、乾いた」寂寥の極致の場として) 支配され始め、全ては無へ向かって消尽して、静止して行きます。 (木下正道)

木下正道 Masamichi Kinoshita, composer
  1969年、福井県大野市生まれ。吹奏楽とハードロックの経験の後、東京学芸大学で音楽を学ぶ。武満徹作曲賞、現音新人賞などに入選。現在は、様々な団体や個人からの委嘱や共同企画による作曲、優れた演奏家の協力のもとでの先鋭的な演奏会の企画、通常とは異なる方法で使用する電気機器による即興演奏、の三つの柱で活動を展開する。武生国際音楽祭で出会った作曲家 (徳永崇、渡辺俊哉、星谷丈生) とともに、作曲家グループ「PATH」を結成、定期的に演奏会を開催。武生国際音楽祭「新しい地平」コーディネイター。
  ここ数年は年間15曲程度を作曲、初演。2018年はフルート四重奏曲、ピアノとエレクトロニクスの曲、オーケストラ曲、雅楽器のための曲等々を初演予定。また来る6月13日には若い世代の演奏家の協力を得て、全曲新作の個展を予定している (東京オペラシティ・近江楽堂)。


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西風満紀子:《wander-piano II (harmony go!) 》(2015、日本初演)
  近年、旋律について考えながら創作を続けている。
  wander - piano II (harmony go!) は和音のみで構成されており、異なる縦の響きの連続で一つの大きな流れ(旋律)を紡ぎあげるよう試みた。
  wander さまよう go 行く
  音の流れがどこへ向かうのか、ピアニストが探しながら歩み行くのを聴衆が寄り添うよう聴くことができればと願う。(西風満紀子)

西風満紀子 Makiko Nishikaze, composer
  和歌山県出身。ベルリン在住。作曲家、ピアニスト、サウンドパフォーマー。愛知県立芸術大学卒業後、ミルズカレッジ大学院(カリフォルニア)を経てベルリン芸術大学大学院修士課程修了。
  これまでドイツ国内をはじめ、カリフォルニア、オーストリア、イタリア、アイスランド、スイスなど各地のアーティスト・イン・レジデンスに招待されている。ベルリンの芸術アカデミー(Akademie der Künste)の奨励賞など様々な賞を受賞。ベルリン市、その他各地の機関から委嘱、助成を受けながら活動を展開中。様々な楽器や声のための作品のほか、最近は特殊な空間で上演する大掛かりなプロジェクトに取り組むことが多い (spatial music/ Räumliche Musik)。ppt (2013), morepianos I, II (2014) wanderlied (2015) など実験的なパフォーマンスを作品の中に取り入れ、通常のコンサートの枠を超えた表現方法を追及している。2018年は朝食をテーマにした新しいミュージックシアター、breakfast operaが実験音楽のアンサンブルDie Maulwerkerによってベルリンで上演される。
  またピアノ、クラヴィコード、チェンバロなど鍵盤楽器の自作自演も活動の中心である。古い鍵盤楽器のために特殊な新しい演奏技術を取り入れるのではなく、楽器そのものの特性を生かしつつ多様な音色を引き出せるような作品作りを試みている。楽器を使わない音のパフォーマーとしての活動も活発に行っており、ドイツ語の“musizieren”- 音楽すること、という言葉をモットーに、作曲と演奏・パフォーマンスを合わせた独自の創作活動を目指している。 http://www.makiko-nishikaze.de/


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夏田昌和:《Gamelaphony II》 (2009)
  この作品は、ピアニストの左右の手を独立した2つのガムラン・アンサンブルと看做し、その同時演奏によって複層的な時間感覚と複調的な旋法感覚による音楽体験を生み出そうと試みたものである。主部においては、リズム転調によって結び合わされる4つの基本テンポ(160、120、90、68)上において、2種の基本パルス(16分音符と8分音符の3連符)の2、3、4、5つというグルーピングによって生み出される、13種のヴァーチャルなテンポ感の26通りの組み合わせを、左右の手による2つのガムランが一つずつ試していく。また音高システムでは、ガムラン音楽にもともと見られるペログとスレンドロに近い2つにその変種3つを加えた計5種の5音音階が、左右のガムランに補完的に(互いの構成音が重複しないように)組み合わされる。
  微分音程によって12平均律の響きを越えることを創作の大きな柱としている私にとって、内部奏法もプリペアードも用いないピアノのために音楽を書くことはかなりの難題である。紛れもなく金属打楽器の一種であるピアノの鍵盤をある種のガムランに見立てることは、ドビュッシー以来珍しいことではない(中でもプーランクの素晴らしい2台ピアノの協奏曲や、リゲティのピアノ・エチュードを特に挙げたいと思う。)が、 私にとってはこの作品が書かれたのが主に夏であったこと、そしてこの季節になるときまってブラームスよりはガムランを聴きたくなることと関係していなくもない。
  飯野明日香さんよりの委嘱作品として書かれ、彼女のリサイタルで2009年に初演された。その後演奏上の困難さから4手連弾や2台ピアノの形でも何度か再演され、そちらは大変好ましい結果を得ている。ソロでこの難曲に大井さんが挑まれるは二度目であり(一度目は関西であったこともあり、私自身は聴けなかった)、その果敢な挑戦の行方を期待をもって見守りたいと思う。(夏田昌和)

夏田昌和:《センターポジション》(2018)
  昨年の夏、新作の構想をまだ全く練ってもいない頃に、大井氏から「”チラシ用の仮タイトル”が欲しい」とのご要望を頂いた。さすがに内容も何も決まっていない時点であったので「とりあえず<新作>にしておいて欲しい」と返したのだが、どうにも許してもらえず、かわりに氏の方から提案してきたタイトル候補の一つが<センターポジション>というものであった。氏曰く「Googleで『なつだ』で検索して、最初の画面から文字列を抽出した」そうである。(因にこの時提案された残りの候補3つは<赤帽急便> <きせつのうた> <全員集合>)
  ということで当初はあくまで”かりそめの”タイトルであったのだが、しかしそのうちに「このタイトルを出発点に音楽を構想してみたらこれ如何に?」と発想を転換し、そこで出来上がった(出来上がりつつある)のがこの楽曲である。ピアノの鍵盤は1オクターヴ内の12音が白鍵7つと黒鍵5つで構成され、レの音を中心に置くと白鍵・黒鍵の並びが左右(上下)対称となる。またこれを弾く人間の手も、鍵盤の上では親指同士が内側、小指が外側という左右対称の形となる。この構造をピアノの広い音域に敷衍し、真ん中付近の一点ニ音(D4)を「センターポジション」として左右(上下)対称の形を保ちつつ、全ての楽想を展開させることにした。(夏田昌和)


夏田昌和 Masakazu Natsuda, composer
  1968年東京生まれ。東京芸術大学及び大学院にて永冨正之、野田暉行、近藤譲の各氏に作曲を、パリ国立高等音楽院にてジェラール・グリゼイに作曲、ジャン・セバスティャン・ベローに指揮を学ぶ。同音楽院作曲科を審査員全員一致による首席一等賞及び音楽院卒業生協会によるEbersold賞を得て卒業。作曲と指揮の両分野において、出光音楽賞や芥川作曲賞をはじめとする様々な賞を国内外にて受賞し、アンサンブル・アンテルコンタンポランやフランス文化省、サントリー音楽財団他より数多くの作品委嘱を受ける。作品はISCM(横浜)やザグレブ・ミュージック・ビエンナーレ、メルツ・ムジーク(ベルリン)、マンカ音楽祭(ニース)、ミュージック・フロム・ジャパン(ニューヨーク)、アヴァンティ夏期音楽祭(フィンランド/ポルヴォ)、大邱国際音楽祭(韓国)、武生国際音楽祭(日本)、プレザンス(パリ)などにおいて紹介され、オランダ放送交響楽団、ベルリン交響楽団、新日本フィルハーモニー、東京交響楽団、アンサンブル2e2m、アンサンブル・アンテルコンタンポラン、アンサンブル・ルシェルシュ、アンサンブル・クール・シルキュイ、ジュリアード・パーカッション・アンサンブル、東京シンフォニエッタをはじめとした著名なオーケストラやアンサンブル、クロード・ドゥラングル(Sax.)やバリー・ウェッブ(Trb.)、セドリック・ティベルギアン(Pn.)などの優れたソリストによって、世界各地で幅広く演奏されている。
  指揮者としてもアンサンブル・コンテンポラリーαやアンサンブル・ヴィーヴォなどの団体と共に、数多くの邦人新作の初演や海外現代作品の紹介に携わり、その数は現在までに合わせて120曲を超えている。なかでもグリゼイの<Vortex Temporum I~III>や<境界を超えるための4つの歌>、ライヒの<Tehillim>といった大作の日本初演は特筆に値しよう。また市民オーケストラへも数多く客演し、若い世代の現代音楽演奏家の育成にも貢献してきた。
  主要な作品に、オーケストラ作品として <アストレーション>、<重力波>、室内オーケストラ作品として <巨石波>、<交差光>、<レ、ファ、ラによるタブロー>、<収斂>、室内楽作品として <西、あるいは秋の夕べの歌>(BIS-CD, Editions Henry Lemoine)、<ギャロップ>、<落下>、<二重にされた古の歌> 、声楽作品として <良寛の二つの詩>(BIS-CD)、<ノヴァーリスによる12声のコラール>、邦楽器作品として <啓蟄の音> などが挙げられる。日仏現代音楽協会事務局長。2015年4月よりアンサンブル室町の正指揮者。 http://imusika.com/musicians/natsuda.html


c0050810_20145552.png伊藤謙一郎:《アエストゥス》 (2018)
  この曲は、今回の演奏企画「『知命』作曲家特集」のために、大井さんから依頼を受けて書かれたものです。
  企画のお話を伺って、50年という時間、そして自らがその時間を経ようとしている事実を受け止めた際、普段はあまり意識しない、これまでの「自身の生い立ち」を振り返りました。その時間経過があってこそ現在の自分がいるわけで、数々の必然・偶然の出来事の集積(そしてそれはまさに今も現在進行形なわけですが)が私にとって大きな意味を持っていることを改めて強く感じました。それとともに、さまざまな事象や出会いによって常に影響を受けて「変化」した(しつつある)自分と、生来の性格や志向に縛られた変え難い「不変」の自分がいて、「変わるもの」と「変わらないもの」を捉え直す機会ともなりました。
  ところで、大井さんとの最初の出会いは、私が留学していたソウルで1995年の秋に行われた「パン・ミュージック・フェスティヴァル」で、演奏者として来韓された大井さんを空港に迎えに伺った日に始まります。大井さんの滞在先となっていたソウル大学のゲストハウスまでの車中、大柄な体格でありながら(失礼!)、京都弁の軽妙な語り口で矢継ぎ早に初対面の私に話をしてくださる姿に強い印象を受けました。演奏は、さらにその印象を凌駕する衝撃的なものであったのは言うまでもありません。もちろん、大井さんとの出会いも私の中に大きな意味を持つものとして刻まれているのですが、今回このような形で作曲の機会をいただいたことに心から感謝申し上げる次第です。
  曲は50歳にちなみ、50の短い断片をつなぐことで構成されています。その断片には、変化と反復の2つの素材が組み込まれており、それらを織り成すことでさまざまな様相を示しつつ、統一的な流れを創出する試みを行っています。(伊藤謙一郎)


伊藤謙一郎 Ken-ichiro Ito, composer
  東京生まれ。1989年、尚美学園短期大学ピアノ専攻卒業。1994年、国立音楽大学作曲学科首席卒業(有馬賞受賞)。1995年から1998年までソウル大学校音楽大学大学院作曲科に学び、帰国ののち自作に関する修士論文を提出して2001年に修了。作曲をトーマス・マイヤー=フィービッヒ、大村哲弥、姜碩熙の各氏に師事。
  第1回東京国際室内楽作曲コンクール第3位入賞、第13回現音作曲新人賞、’97大田現代音楽祭(韓国)入選。
  主要作品に《Intentionale Figuren》[Fl.](1993年/初演:’97大田現代音楽祭)、《FRACTAL》[Fl. Ob. Cl. Hrn. Bsn.](1995-96年)、《Self-Similar Set》[Pf.](1996年/初演:第13回現音作曲新人賞)、《NOCTURNUM》[Vc.](1998年/初演:ソウル大学校音楽大学大学院修了演奏会)、《Glide-Grade-Grain》[Cl.](2010年/初演:現音・特別音楽展2011)があり、Pan Music Festival、2nd Arts Festival Dimension、アジア音楽祭などでも演奏されている。
  現在、東京工科大学メディア学部准教授。日本作曲家協議会会員。 http://www.teu.ac.jp/info/lab/teacher/index.html?id=1551


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by ooi_piano | 2018-01-13 09:25 | POC2017 | Comments(0)
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