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■2006/08/02(火) 備えあればうれしいな

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■2006/08/02(火) 備えあればうれしいな_c0050810_855524.jpg■2006/08/02(火) 備えあればうれしいな_c0050810_885131.jpg

    ↑画像をクリックすると拡大して表示されます(チラシ表面/裏面)

  9月第1週演奏会のチラシpdfが、本日やっと出来上がりました(汗)。このブログを御覧の皆様、告知に御協力賜りますれば幸甚です。
  それにしても《平均律第2巻》全曲というのは、質・量の両面で、10年前にやった「ブーレーズ全ピアノ作品演奏会(約3時間)」以来のキツさです。さすがはバッハ後期、って感じ。

コメント欄にありました御木本澄子氏のトレーニング・ボードと、チェンバロ・タッチの関連等について、思い付いたことを幾つか。このボードは、半円形の板に指先ほどの木片のでっぱりが何個か付いたもので、指をストンと鍵盤に落とす感覚や、指の間の拡張のトレーニングのために考案されたようです。


■2006/08/02(火) 備えあればうれしいな_c0050810_8224284.jpg■「指の間をひろげる」訓練について

バレエや体操選手が両足を180度ストレッチするような柔軟性は望めなくても、隣接する指がせめて直角に交差するポジションを楽にとれるべきでしょう。直角のポジション、というのは、4cmと3cmの2本の指先の距離を5cmに出来るような(ピタゴラスの三角形)、指と手首(手の甲)の位置関係のことです。

指先の距離をラクに最大にするためには、入浴時に深く呼吸しながらストレッチしてみると良いでしょう。手首の力がヌケている(=指先の都合のよい角度に手首がアジャストする)ことが何よりも肝心で、指の間を広げたときにどこかが硬直しているようでは意味がありません

言い換えると、手首(肘ではなく)の角度調整によって、そのときどきの鍵盤にもっとも都合の良い手のポジションを自動的に取るよう心がけることが、結局は「指の間を拡げる」ことにつながります。なんだかんだで、押さえなくて良い鍵盤を押さえ続けたり、手首の(水平方向の)角度が十分に弾力的に変化していなかったりするものですから。ペダル無しでバッハ、というのはその点で、とても良い練習になると思います。

オクターヴが届かない/届きにくいことを嘆く前に、最大にストレッチした時どこまで手が「拡げ」られるかを試してみましょう。5本の指の長さを計り、それを合計したものが、冒頭の「180度のストレッチ」で届く範囲になります。例えば私の場合、白鍵の横側からギリギリ10度をつかむのが精一杯ですけれども、「180度のストレッチ」で尺取虫のように親指から小指まで2本の指ずつ陣取りゲームを行っていけば、最終的に3オクターヴ半ほど離れた地点に到達します。すなわち、片手で3オクターヴ半の音域を「手中に収める」ことが出来るわけです。両手合わせれば7オクターヴ、「ヘルマ」や「エオンタ」の跳躍時に突き指で流血することもなくなるでしょう。


■2006/08/02(火) 備えあればうれしいな_c0050810_823373.jpg■「指先の強化とスピード」の訓練について

拝察した限りでは、上記トレーニングボードで指を「落とす」練習というのは、ヒストリカル・チェンバロのタッチ練習と多分に共通しているように思われました。

ピアノはハンマーで弦を叩いて音を出す一方、チェンバロでは鳥の羽(プレクトラム)で弦をはじくのが発音原理です。いかにはじき、いかに弦の振動を止めるか、によって、チェンバロの「音色」を変えることが出来ます。

チェンバロの基本タッチは、ギターのアポヤンド奏法と同様、まず(i)プレクトラムで弦をたわませ(スタンバイ)、そして(ii)リリースする、という二段階に分かれます。鍵盤のアソビを2mmほど下げたところで(i)の状態になり、その抵抗を指先に感じながら徐々に重みを加えていくと、ある時点でプツンと急激に鍵盤が7~8mmほど下がり((ii))、音が出ます。
この(ii)の状態に至るための適正負荷(重み)は、楽器や調整によってさまざまですが、負荷が大きければ楽器がよく鳴る、というものでは無い点も、ピアノと同様です。


■2006/08/02(火) 備えあればうれしいな_c0050810_825298.jpgチェンバロのタッチをより良くコントロールするためには、

(1) 音を出す前に、たとえそれが0.01秒間であっても、必ず鍵盤上で指が(i)の「スタンバイ」状態を取ること。
(2) 弦をリリースするための負荷(加える重み)は最小限である時が、演奏も楽であり、また音色も美しい。肩からの重みを効率良く鍵盤に加えるため(=重力奏法)、指先は立っており(特に高音域の小指)、手は丸くする。 (1)の原則がある上に、鍵盤がそもそも非常に軽いため、バックスィングを取るような「ハイフィンガー」には成り得ない。
(3) 離鍵の仕方はピアノと同様である。プレクトラムのノイズ成分を意図的に音色に取り込むやり方も頻用される。プレクトラムが弦の振動をシパッと快適に止めるためには、ある種の速度と連続性が必要ではある(さもないと音がビビる)。

・・・というあたりでしょうか。 「スタンバイ」「最小限の重み」というのは、要するにピアノと一緒ですけれども、チェンバロでは上手くいったかどうかの成否が指先の感覚ではっきり判別出来ますし、また結果にも明瞭に反映されます。 なお、椅子の高さはピアノもチェンバロも同じです(低めが良い)。

誤解を招きやすいことですが、チェンバリストの指先は、(ii)の段階で一瞬カクンとスピードをあげているように「見え」ますけれども、実際にかかっている力は一定、かつ緩やかなものです。 ポイントは、とにかく「(それがどんなに軽くても)抵抗を指先で感じる」こと。 最終的には、ギターやリュートに於ける「アポヤンドのような音色が出るアルアイレ奏法」のように、まるで大きな綿飴を上から柔らかく持ち上げるがごとく、鍵盤から鍵盤へと指が渡り歩いてゆく感覚に至るでしょう。

指の訓練としては、モダン・チェンバロは不可、ヒストリカルでも、イタリアンよりは非常に柔らかく調整されたフレンチあたり、しかも8フィートだけでやるのが良いと思います。ピアニストにとっては、軽いチェンバロのタッチはほとんど「無抵抗」に思えるほど微細なものですが(よって腱鞘炎にはなりえません!)、しかし慣れてしまえば、適正な重みを加えられたかどうかも指先ではっきり判別出来ますし、もちろんそれは直ちに音色に反映されます。

適正な重みを指先へ伝えるためには、まず指・手の甲・手首がベスト・ポジションを取る必要があります。手首は凹ませずに鍵盤に対して最適な角度/高さを保ち、上鍵/下鍵(白鍵/黒鍵)のどの部分(手前か奥か)に指先があたるかを吟味しなければなりません。また、体のどこかに力が入っていると、鍵盤がプツンとリリースしてくれなくなります。

「どこに余計な力が入っているのか」を自分で見出すのは至難ですが、まずは視覚情報(使用していない親指や小指、あるいは手首や肘などが強張っていないか。指の根元や手首が凹んでいないか)、それから別の手でプニョプニョさわって柔軟性の確認、あるいは太極拳やヨガの方法論を活用するのも良いかもしれません。


■2006/08/02(火) 備えあればうれしいな_c0050810_82646.jpg非常に軽く調整されたチェンバロの鍵盤を、最小の重みでプツンとリリースして発音すること。これはピアノ演奏に於いて、指の形を保ちながら指の根元を脱力させることによって、ストンと指先が鍵盤の底へ落ちてゆく、その「ストンって感じ」を体得するにはベストの訓練法だと思います。 ピアノやトレーニング・ボードでも全く同じ訓練は可能でしょうが、チェンバロでは負荷が遥かに軽く「脱力」に集中出来ること、きちんと脱力が出来たかどうかが指先の感覚と音色の結果でただちに判別できること、そして何より、指が弦をプツンとはじく快感――プチプチ(エアーキャップ)潰しに夢中になれるが如く(オンライン用)――のため、ここで敢えてお勧め申し上げる次第です。もちろん、ビニールのプチプチ潰しと違って、チェンバロでは爪先でブチッと踏み潰すのではなく、肩からの重み(を加減しながら)でプニュリンと押し潰す感じになります。お試し下さい。
by ooi_piano | 2006-08-02 20:03 | プロメテウスへの道 | Comments(0)

3/22(金) シューベルト:ソナタ第21番/楽興の時 + M.フィニッシー献呈作/近藤譲初演


by ooi_piano