人気ブログランキング | 話題のタグを見る

10月30日 第六回公演

・・・



大井浩明 Beethovenfries
16 Dec 1770 - 26 Mar 1827

第六回公演《いと麗しき新世界(とつくに)かな》
O brave new world, That has such people in't!
10月30日 第六回公演_c0050810_4594965.jpg

京都文化博物館 別館ホール
(旧日本銀行京都支店、明治39年竣工/重要文化財)
2008年10月30日(木) 18時30分開演


使用楽器:
Jones-Round & Co., 1805年 ロンドン製 68鍵 イギリス式シングルエスケープメントアクション (修復:山本宣夫)
Muzio Clementi 1800年頃 ロンドン製 68鍵 イギリス式シングルエスケープメントアクション (フォルテピアノ・ヤマモトコレクション提供)


《演奏曲目》

ベートーヴェン:ソナタ第16番ト長調Op.31-1(1802)
Allegro vivace - Adagio grazioso - Rondo; Allegretto

ベートーヴェン:ソナタ第17番ニ短調Op.31-2「テンペスト(Der Sturm)」(1802)
Largo/Allegro - Adagio - Allegretto

清水一徹:フォルテピアノのための《老人の頭と鯨の髭のためのクオドリベット》(2008、世界初演)
Ittetsu Shimizu: “Quodlibet con la testa di persona anziana e la barba di balena” per Fortepiano (2008, commissioned work, world premiere)


(休憩15分)

ベートーヴェン:ソナタ第18番変ホ長調Op.31-3(1802)
Allegro - Scherzo: Allegro vivace - Menuetto: Moderato e grazioso - Presto con fuoco

ベートーヴェン:ソナタ第21番ハ長調Op.53「ワルトシュタイン(Waldstein)」(1803/04)
Allegro con brio - Introduzione; Adagio molto - Rondo: Allegretto moderato



10月30日 第六回公演_c0050810_510773.jpg《老人の頭と鯨の髭のためのクオドリベット》
  今回、フォルテピアノの作品を大井浩明氏より委嘱されたが、現代のピアノ・ソロ作品ですら習作以降書いたことのない私にとって、いま思えば極めて無謀なことを引き受けたものだと思う。いざスケッチをしてみると、なかなかモダン・ピアノ的な発想から抜け出せない部分をその都度指摘され、最初の1ページを書き上げるのに1ヶ月以上を要した。フォルテピアノ特有の、個々の音域が持つ音色は非常に魅力的であったが、これに依存するばかりの形は取りたくない−-作曲中はそんな自身との葛藤の日々であった。 結局は、最後までモダン・ピアノ的発想の呪縛から解き放たれることはできなかったようだ。その結果、フォルテピアノにとって「過酷かつ無謀な要求の塊」となってしまったこの作品を、大井氏はどのように表現してくれるであろうか。
  楽曲ノートこの「ふざけた」曲名は、イギリスのツンペ工房で作られたフォルテピアノの部品から取られた。曲中は一つの和音に支配されている。それはベートーヴェンの「ワルトシュタイン」ソナタの各楽章の主題の構成音に加算合成を施し、抽出されたものであるが全く原型をとどめていない。きわめて複雑に分割された拍子や連符と、過去の作品にみられる即興的な装飾法、およびテンポから独立したaccelerandoを要求する部分(これはバロック期の装飾法であるribattutaから発想を得た)など、相反するものが対立することで、この曲は進行してゆく。曲中には、雅楽の合竹(あいたけ)に影響された要素も取り入れられている。「ワルトシュタイン」が書かれたのは、京都では平安時代の雅楽を復元、再演することが試みられていた時期のようである。19世紀―現代―ベートーヴェン、そしてこの曲が初演される京都を、何らかの形で結び付けたいと思い作曲した。 貴重な機会を与えてくださった大井浩明氏に、心より感謝の意を表して。

10月30日 第六回公演_c0050810_5103948.gif清水一徹 Ittetsu SHIMIZU
  1976年横浜生まれ。1998年に専門学校東京コンセルヴァトアール(現ミュージック&メディアアーツ)尚美卒業。同年、日本現代音楽協会作曲新人賞入選、1999年日本音楽コンクール作曲部門、2001年JFC作曲賞入選。2002年ルクセンブルグ国際作曲賞第1位入賞、《Suspiria de Profundis―for chamber orchestra》がLGMNによりCDリリースされる。2005年、武生作曲賞入選。作曲を三界正実、藤井喬梓、久木山直の三氏に師事。現在、東京藝術大学演奏藝術センター教育研究助手。日本作曲家協議会会員。




英国から見るピアノ史
                             明石拓爾


10月30日 第六回公演_c0050810_5132334.jpg  英国は南ドイツ・ウィーンと並んで最初にピアノ文化が花開いた地域だった。その黎明期から1800年ごろまでのピアノ製作史を概観してみたい。

  イギリスに最初にピアノフォルテが登場したのは1740年代と考えられている。音楽家チャールズ・バーニーが記録している一台は、イタリアから輸入されたもので、当時の音楽家、音楽愛好家、製作家の間で話題を呼んだが、まだ小さい動きだった。

  1759年、長年英国音楽界に君臨したヘンデルが亡くなると、音楽界全体がひとつの転機を迎える。新しい趣味を代表する音楽家の一人が1762年にイタリアからやってきた大バッハの末の息子、ヨハン・クリスティアン・バッハである。J.C.バッハの到着を契機にイギリスでピアノフォルテの開発競争が始まった。

  最初に成功を収めたのは、1766年にスクエアピアノを開発発売したヨハン・ツンペである。ごく単純なアクションを持ち、安価でコンパクトながら必要十分な音楽性能を備えたこの楽器は、有力な音楽家たちに支持され、音楽好きの淑女たちの間で爆発的な人気を得る。
  イギリスで出版される鍵盤曲の楽譜では、それまでの「ハープシコードのための」という文言が、10年以内に軒並み「ハープシコードまたはピアノ・フォルテのための」に置き換わった。この場合「ピアノ・フォルテ」は明らかに四角くて小さいスクエアピアノを指しているのである。

10月30日 第六回公演_c0050810_5152899.jpg  一方グランドピアノの分野で最も成功したのはオランダ出身のアメリカス・バッカースである。1770年頃バッカースが新たに開発したエスケープメント付きアクションは、同時代に南ドイツでシュタインが開発した「ウィーン式アクション」と対比して「イギリス式グランドアクション」と呼ばれ、20世紀初頭まで100年以上にわたって愛用されることになる。

  最初期のピアノフォルテ製作は、中小の製作工房による一種のベンチャー産業だった。スクエア型にしろグランド型にしろ、1780年代まで各工房により様々なアクションやストップが試みられ、多様で個性的な楽器が製作された。
  ここにハープシコードのトップメーカー、ジョン・ブロードウッドが参入したのは1780年頃のことである。大工房ブロードウッドはよりシンプルで安価な独自仕様のスクエアピアノを発売し、また1785年頃からはバッカースのピアノベースにしたグランドピアノの生産を始め、大成功を収める。
1790年代に入るとグランドピアノはその仕様が急速に標準化され、各工房からはブロードウッドとほとんど見かけも性能も変わらないピアノが生産されるようになる。1800年頃の仕様は、5.5オクターブの音域、バッカースのアクションと一音あたり3本の弦、ダンパーペダルとウナコルダペダル、というものだった。今回のコンサートで使用されるジョーンズ・ラウンドもそうしたピアノの一つである。

10月30日 第六回公演_c0050810_5164716.jpg  スクエアピアノも標準化が進んだが、速度はより穏やかだった。ロンドン最大の総合音楽商社であったロングマン&ブロドリップ社はヨハン・ガイブ開発のエスケープメントアクション(1786年)など新技術を積極的に取り入れたスクエアピアノを発売し支持される。1800年頃には各工房でエスケープメントアクション、一音当たり2本の弦、5.5オクターブの音域とダンパーペダルという仕様にほぼ標準化される。しかしシンプルなツンペ・アクションも1810年ごろまで使用されていた。
  ロングマン&ブロドリップ社は1798年破産、大ピアニストで作曲家のムツィオ・クレメンティが経営に乗り出し見事に再建し、クレメンティ社として独自の工房でピアノの生産を始める。今回のコンサートで使用されるスクエアピアノは、クレメンティ社初期のものである。

  これまでイギリス、とくに古典派時代は音楽史に登場する機会の少ない地域だった。その独特の音楽文化は19世紀後半のロマン派的音楽観からは評価されず、時代地域ごと忘れ去られた。その結果クレメンティのような大作曲家でさえキャノンの枠からはずれ、今日に至るまでめったに顧みられない。しかし実際は18世紀を通じてイギリスは音楽的に際立ってホットな地域だった。ウィーン・ピアノと共に隆盛を極めたイギリスのピアノは、間違いなく18世紀後半のイギリスの豊かな音楽環境の中で生まれ育てられたものなのである。


Jogetlah!Beethoven - 踊れ!ベートーヴェン                                                野村誠

10月30日 第六回公演_c0050810_492916.jpgガムラン・アンサンブルのための作曲経緯についてのエッセイ
その1その2その3その4その5 (晶文社サイト)
by ooi_piano | 2008-10-23 04:55 | コンサート情報 | Comments(0)

3/22(金) シューベルト:ソナタ第21番/楽興の時 + M.フィニッシー献呈作/近藤譲初演


by ooi_piano