6/4(日)バルトーク弦楽四重奏曲全6曲(ピアノ独奏版)


by ooi_piano
c0050810_11314916.jpg2016年11月16日(水)18時20分開演(17時50分開場)《美術と音楽の西洋史》
静岡文化芸術大学・講堂(浜松市) 入場無料 /申込不要(直接会場にお越しください)
[レクチャー講師]立入正之(芸術文化学科准教授)、上山典子(芸術文化学科講師)
http://www.suac.ac.jp/news/event/2016/01040/
http://www.suac.ac.jp/news/event/2016/01040/file/8331/bijutuonngakuseiyoushi.pdf


〈演奏曲目〉
●アルノルト・シェーンベルク=米沢典剛:《映画の一場面のための伴奏音楽 Op.34》(1930/2016、ピアノ独奏版・世界初演) 約9分
  〈迫り来る危険 Drohende Gefahr〉 - 〈不安 Angst〉 - 〈破局 Katastrophe〉
●アントン・ウェーベルン=米沢典剛:《交響曲 Op.21(1928/2016、ピアノ独奏版・世界初演)   約8分
  I. 穏やかに、歩むように - II. 主題と7つの変奏
●アルバン・ベルク=米沢典剛:《抒情組曲〔全6楽章〕(1926/2016、ピアノ独奏版・世界初演)   約30分
  I.Allegretto gioviale - II. Andante amoroso - III. Allegro misterioso / Trio estatico - IV. Adagio appassionato - V. Presto delirando / Tenebroso - VI. Largo desolato
  

  ヨーロッパの芸術文化の歴史において文化運動や様式などを特徴づける「ルネサンス」、「バロック」などの用語は美術、音楽、建築などの領域に幅広く使われていますが、分野により地域や年代に差異が認められます。 2016年度は、「後編」として全3回にわたりヨーロッパの美術と音楽について「ロマン主義」、「印象派」、「現代」という3つのキーワードにより解説します。また、各回のセミナー後半では各様式の音楽作品を鑑賞していただきます。

【お問合せ先】 静岡文化芸術大学 地域連携室(担当 冨田) TEL:053-457-6105 E-mail:acrc@suac.ac.jp
【交通アクセス】 駐車場はございませんので、車での来場はご遠慮ください。(公共交通機関又は他の駐車場をご利用ください。) http://www.suac.ac.jp/access.html


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音楽学者の白井史人氏(早稲田大学助手)から、雑誌『音楽学』第61巻(2015)に掲載された論文の転載御許諾を頂きました。
(全文pdf) http://ci.nii.ac.jp/naid/110010050854

【題名】シェーンベルク《映画の一場面のための伴奏音楽》の作曲過程とその背景 ――未発表の構想メモと 1920 年代の映画の伴奏音楽との関連――
【著者】白井史人(早稲田大学演劇博物館演劇映像学連携研究拠点・研究助手)
【要旨】
 アルノルト・シェーンベルク《映画の一場面のための伴奏音楽 Begleitungsmusik zu einer Lichtspielszene》作品 34 は,1929 年秋から 1930 年 2 月にかけて作曲された。全曲が 12 音技法に基づき,「迫りくる危険」「不安」「破局」という 3つの副題が添えられているが,特定の映画のための伴奏音楽ではなく,演奏会用作品として作曲された。
  先行研究では,シェーンベルクは副題間の場面展開を考慮していないとされてきた。しかし,2011年出版のシェーンベルク著作目録で,副題と深い関連を持つ「構想メモ」の存在が発表された。本論文は,この構想メモの記述を手掛かりに,《映画の一場面のための伴奏音楽》と 1920 年代の映画伴奏の言説・実践との関連を明確化することを目的とする。
  第1 節では,ラオホ(Rauch. Die Arbeitsweise Arnold Schönbergs, 2010)の分析方法を参照し,草稿に基づく作曲過程の分析を行った。「構想メモ」の検討を通じてシェーンベルクが 3つの副題の間に場面展開を構想していたことを示し,その場面展開を強調していく推敲過程を明らかにした。第 2 節では、シェーンベルク自身や後妻・ゲルトルートのスケジュール帳,トーキー映画技術者であるグィド・バーギエの遺稿の調査を通じて,1920 年代のシェーンベルクと映画産業との人的交流を示した。無声映画からトーキー映画への移行期に,シェーンベルクがトーキー映画へ高い関心を示した点が明らかになった。第 3 節では,本作の成立の背景となる同時代の映画館での伴奏音楽の実践・言説を,映画音楽専門誌『フィルム・トーン・クンスト』を中心に検討した。同時代の実践・言説が,伴奏項目の恣意的な羅列に対する批判や映画作品全体に即した劇的展開を重視するなど,本作と共通する傾向を持つ点を明らかにした上で,音楽語法や楽曲の抜粋法の面で大きな齟齬がある点も指摘した。



(※クリックすると拡大表示されます。)
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# by ooi_piano | 2016-11-12 11:24 | POC2016 | Comments(0)
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HIROAKI OOI pedal clavichord recital
大井浩明 ペダルクラヴィコード・リサイタル


http://wmusic.jp/concert.html#35kai

●栃木公演 西方音楽館 木洩れ陽ホール
2016年10/23(日)14:30開演(14:00開場)
https://www.facebook.com/events/326810837674056/
●東京公演 東京オペラシティ 近江楽堂
2016年10月31日(月)18:30開演(18:00開場)
https://www.facebook.com/events/296738530710056/

【お問合せ】 
西方音楽館 Tel 0282-92-2815 http://wmusic.jp/
〒322-0601栃木県栃木市西方町金崎342-1
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《プログラム》
J.S.バッハ(1685-1750):トリオ・ソナタ集(全6曲) BWV525-530 (1730)

トリオ・ソナタ第1番 変ホ長調 BWV 525
   (Alla Breve) - Adagio - Allegro
トリオ・ソナタ第2番 ハ短調 BWV 526
  Vivace - Largo - Allegro
トリオ・ソナタ第3番 ニ短調 BWV 527
  Andante - Adagio e dolce - Vivace
  (休憩)
トリオ・ソナタ第4番 ホ短調 BWV 528
  Adagio/Vivace - Andante - Un poc'allegro
トリオ・ソナタ第5番 ハ長調 BWV 529
  Allegro - Largo - Allegro
トリオ・ソナタ第6番 ト長調 BWV 530
  Vivace - Lente - Allegro
パッサカリアとフーガ ハ短調 BWV582 (1712)

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Johann Sebastian Bach: Six Trio Sonatas BWV525-530 (1730)
Trio Sonata No. 1 in E-Flat Major, BWV 525
Trio Sonata No. 2 in C Minor, BWV 526
Trio Sonata No. 3 in D Minor, BWV 527
(intermission)
Trio Sonata No. 4 in E Minor, BWV 528
Trio Sonata No. 5 in C Major, BWV 529
Trio Sonata No. 6 in G Major, BWV 530
Passacaglia in C Minor, BWV 582 (1712)

使用楽器:ヨーハン・ダーフィット・ゲルステンベルク1760年専有弦ペダル・クラヴィコード(ライプツィヒ大学楽器博物館蔵)/小渕晶男によるレプリカ、2016年
  Akio Obuchi 2016 Unfretted Pedal Clavichord after Johan David Gerstenberg, 1760 (Museum für Musikinstrumente der Universität Leipzig)

チラシ表面 pdf    ・チラシ裏面 pdf


大井浩明(ペダル・クラヴィコード)  Hiroaki OOI, pedal clavichord
c0050810_2114370.jpg  京都市出身。スイス連邦政府給費留学生ならびに文化庁派遣芸術家在外研修員としてベルン芸術大学(スイス)に留学、同芸大大学院ソリストディプロマ課程修了。チェンバロと通奏低音をディルク・ベルナーに、オルガンをハインツ・バッリ、ダニエル・モレの両氏に師事。ミクローシュ・シュパーニ、ルイジ・フェルディナンド・タリアヴィーニ、ヤン・ヴィレム・ヤンセン等の講習会を受講。
  ヒストリカル・クラヴィコードにおいて世界的に最も意欲的な活動を行う奏者の一人であり、NHK-BS「クラシック倶楽部」にてベートーヴェン:《選帝侯ソナタWoO47》が放映された他、リサイタルではJ.S.バッハ:《平均律クラヴィア曲集第1巻》(全曲)、《同第2集》(全曲)、《6つのパルティータ》、《ゴルトベルク変奏曲》《フランス序曲》《イタリア協奏曲》、《イギリス組曲》(全6曲)、C.P.E.バッハ:《ヴュルテンベルク・ソナタ集》(全6曲)、ハイドン:《エステルハージ・ソナタ集》(全6曲、レクチャー/伊東信宏)、モーツァルト:連弾ソナタ集K.19d/K. 381/K.358/K. 501/K. 521 (共演/上尾直毅)等を取り上げている。J.S.バッハ:《フーガの技法》(全曲)のヒストリカル・クラヴィコード(ヨリス・ポトフリーヘ製作ザクセン様式専有弦モデル)による世界初録音CDは、国際的に高い評価を得た(2008年9月/ベルギー・聖セルヴァティウス修道院)。また、バッハのクラヴィコード教授法に関するフリードリヒ・コンラート・グリーペンケルの記述(1819)ならびにミクローシュ・シュパーニによる注釈(2001)を邦訳し(2004年6月)、雑誌《ムジカ・ノーヴァ》等やウェブ上で奏法論についての考察も発表している。2014年3月には、クラヴィコード独奏のための福島康晴《楽興の時》(全3楽章)の委嘱新作初演を行なった。
  オルガン奏者としては、クセナキス:《グメーオール》日本初演(川口リリアホール)がTV(CX系「とくダネ!」)・雑誌(週刊新潮他)で広く紹介され、サンサーンス:交響曲第3番《オルガン付き》独奏(大阪、ザ・シンフォニー・ホール)、ジャン・ギューらと参加したデュドゥランジュ大聖堂オルガンフェスティヴァルでのリサイタル(ルクセンブルク)、京都大学創立記念行事音楽会でのリサイタル(ヴィドール:《オルガン交響曲第6番ト短調》他、京都コンサートホール大ホール)、オムロン・パイプオルガン・コンサートシリーズでのリサイタル(J.S.バッハ:《ドイツ・オルガン・ミサ》全曲、京都コンサートホール大ホール)、委嘱新作初演を中心としたリサイタル(シェーンベルク:《レチタティーヴォ主題による変奏曲Op.40》他、淀橋教会小原記念聖堂)、中全音律バロック・オルガンによるフレスコバルディ:《音楽の花束》全曲公演(日本基督教団本郷教会)等を行っている。 公式ブログ: http://ooipiano.exblog.jp/


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(西方音楽館・会報より)
10月23日、31日にペダルクラヴィコード・リサイタルを行っていただく大井浩明氏へ、ペダルクラヴィコードについてご質問しました。

---練習楽器としてはどう思われますか?

c0050810_21151559.jpg  ペダルクラヴィコードは、響きがやや異なる通常のクラヴィコード(手鍵盤)2台が積み重ねられ、その下に足鍵盤による低音クラヴィコードを合体したものです。ゆえに、鍵盤間の連結装置(カプラー)はありません。足鍵盤は通常より横幅が広く、下鍵(白鍵)に比べ上鍵(黒鍵)の位置が高目で、足の縦方向の稼動域も狭いため、どのみち踵(かかと)を使うのは困難に思えます。足鍵盤も手鍵盤と同様に繊細なタッチが求められます。もしこれがオルガン用の練習楽器であるなら、「最上度の鍛錬になる」ことは確かです。手鍵盤部は分離しても使用可能ですので、そのまま《平均律》や《フーガの技法》も演奏出来ますね。西洋音楽史の根幹に位置する、伝説の楽器を目の当たりにするのは、私にとっても素晴らしい体験です。現代のピアニストがチェンバロやクラヴィコードに面食らうのに喩えれば、(言い方は変ですが)ペダルクラヴィコードはあたかも「古楽器のオルガン」に触れたかのような衝撃でした。

---演奏楽器としてはどう思われますか?

c0050810_2116796.jpg  パイプオルガンが教会の豊かな残響の彼方で高らかに吹き鳴らされているのに対して、ペダルクラヴィコードでは耳元でヒソヒソと内緒話をささやく感じで、二者には大きな時空間的なへだたりがあります。どちらでも成立するように書かれているのが、バッハの譜面の面白いところです。オリジナル楽器を精査なさった小渕晶男氏によるレプリカは、ペダルクラヴィコード独特のニュアンス、アーティキュレーション、音色など、弾き手・聴き手ともに想像力をかきたてられる、多様な可能性を秘めていると思います。

パイプオルガンで演奏されることが圧倒的に多いJ.S.バッハのトリオ・ソナタ、パッサカリアが、大井浩明氏の手でどのような音楽に姿を変えるのか、ぜひ聴きにいらしてください。




製作うらばなし───小渕晶男

c0050810_2117143.jpg  クラヴィコードは今まで共有弦型、占有弦型合わせて30台近くを製作してきたが、ペダルクラヴィコードは今回初めてであった。ペダルクラヴィコードの歴史としては14世紀にすでにその存在を示唆する文献が残っている。現在残された歴史的な楽器としては1760年のGerstenberg, 1815年のMarckhert, 1844年のGlück製作によるものなどがいずれもドイツに保存されている。ザクセンのドレスデンとライプツィッヒのちょうど中間にあるゲリングスヴァルデのGerstenbergの楽器は手鍵盤2段と16フィートの付いた足鍵盤を備えたオルガン製作者Gerstenbergならではの作品でその大きさ、構成からひときわ存在感のある楽器である。
  この楽器に関しては近年ヨーロッパを中心に数台の復元楽器が製作されている。ヨーテボリのオルガン研究所のJoel Speerstraの描いた図面には有用な情報が多く含まれており、製作に当たっては大いに参考にさせていただいた。しかしながら、図面に表し切れていないか、あるいは理解しきれない箇所があり、どうしてもオリジナルを見ないと正確な復元は難しいと判断し、以前にサルテリオの採寸などで便宜を図っていただいた、ライプツィッヒのGRASSI博物館のMarkus Brosig氏に再び調査依頼をしたところ、そういう仕事なら、誰にも邪魔されない休館日の月曜日に来ると良いといって休みの日にわざわざ開けていただいた。そればかりでなく、Speerstraが同楽器の調査をしたときの指導教官であるエディンバラ大学のJohn Barnesが独自に書いたこの楽器に関する研究論文とその時に撮影した大量の写真のコピーを取らせていただいた。
c0050810_21174966.jpg  オリジナル楽器に当たらなければなかなかわからないことの一つに弦張力による楽器の変形という問題がある。John Barnesはこのことに関しても研究論文の中で彼が調査した時の変形量を記述している。そして、今回実際の楽器に当たってそれを確かめることが出来た。2台の手鍵盤楽器と16フィートを含む足鍵盤楽器はいずれも1台当たり約100本の弦が張られており、弦による張力の総和は1台当たり500Kgほどになる。クラヴィコードはその構造上弦の張力によって楽器の底板が、下に凸になるように変形する。その変形量がわかっていれば、組み立てる前にあらかじめ底板を反対向き、すなわち底板を下の面がへこむように弓なりに変形させておくことが出来る。足鍵盤楽器については全長が長いので、あらかじめ変形させておくだけでは長い年月のうちに変形が進む可能性を考えて、オリジナルには無い補強を入れた。
  ザクセンの楽器の多くは広葉樹を使っているが、この楽器は針葉樹を用いている。今回の製作に当たっては、近くに住む古民家移築なども手掛ける若い大工の資材置き場に長い間眠っていた十分エージングされた木材を使うことが出来たのは幸運であった。
  最後に今回この復元製作の機会を与えていただいた西方音楽館の中新井紀子さん、横山博さんに感謝します。

小渕晶男 Akio OBUCHI
c0050810_21182263.jpg  1969年よりチェンバロの製作を始め、75年にヨーロッパ各地の博物館や製作家を訪ねて以来、歴史的な楽器から学ぶ事を基本に現代に残る歴史的楽器のレプリカ、および時代的地理的に特徴付けられるスタイルの範疇の中で製作を行っている。 復元製作にあたっては、オリジナル楽器の外面的な再現だけでなく、製作者の製作意図を復元することが出来ればそれが理想と考えている。全ての工程において常に最終的な音のイメージを持ちながら作業を進めることを心がけている。 1993年にレオナルド・ダ・ヴィンチの手稿に見られるヴィオラオルガニスタ(ガイゲンヴェルク)の試作を行って以来、音程とダイナミックスを奏者がコントロールできる鍵盤楽器への素質を持ったこの楽器に対する夢を捨てきれずに継続的に擦弦鍵盤楽器の研究と製作を続けている。バロック時代の打弦楽器サルテリオや15世紀に描かれたチェンバロやピアノの源流と考えられる弦を弾く叩くの双方を備えた、クラヴィシンバルムの製作も行っている。
  1971年日本大学大学院理工学研究科修士課程修了。音響メーカーにて電気音響変換機の研究開発、多国籍サービス会社にて石油、天然ガスの音響探査機器開発に従事。その後、携帯電話事業者に勤務の後2004年退職して以降、この間限られた時間を活用して継続してきたピリオド鍵盤楽器の研究および製作に専念。現在はクラヴィコードを中心に製作を行っている。American Musical Instrument Society会員。公式サイト:http://obuchi.music.coocan.jp/


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【関連リンク】
クラヴィコード公演《平均律第1巻》プログラム・ノート [2005.02.01]
クラヴィコード公演《平均律第2巻》プログラム・ノート 「平均律と吉本漫才の比較論」 [2006.08.20]
J.S.バッハのクラヴィコード演奏法・教授法 [2004.06.17]
[再掲] バッハのクラヴィコード教授法 (上)(中)(下)
  ――「バッハ・タッチ」について(ムジカ・ノーヴァ誌2006年1月号)  [2006.01.20]
  ――「バッハ・タッチ」補説  [2006.01.06]
●バッハ:フーガの技法 大井浩明インタビュー(英文)   同・日本語版 [2009.03.31]
同盤:古楽専門誌《アントレ》2009年9月号での神倉健氏による批評文 [2009.12.16]
●クラヴィコード公演ツイート集  J.S.バッハ:《6つのパルティータ》  《イギリス組曲(全6曲)》  《ゴルトベルク変奏曲》  C.P.E.バッハ:《ヴュルテンベルク・ソナタ集(全6曲)》  J.ハイドン《エステルハージ・ソナタ集(全6曲)》
■クラヴィコードによる平均律第2巻公演の感想ブログ集(2006年)
 http://bloomingsound.air-nifty.com/ongei/2006/09/20060906_c58f.html
 http://suralin.blog48.fc2.com/blog-entry-77.html
 http://www.oekfan.com/review/2006/0901.htm
 http://baybranch.exblog.jp/3704211/
 http://blog.goo.ne.jp/kananagano/e/5bdf317dd069f1f2bc8bdd2ddf69a27a
 http://okaka1968.cocolog-nifty.com/1968/2006/09/post_3bd1.html
 http://onkichi.exblog.jp/3735118/
 http://umeokagakki.cocolog-nifty.com/blog/2006/09/post_4a3a.html
 http://blog.nsk.ne.jp/suzu/archive/month200609.html



(続き) ペダルクラヴィコードをめぐって───横山博

    
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# by ooi_piano | 2016-10-18 02:37 | クラヴィコード様への五体投地 | Comments(0)
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承前

ペダルクラヴィコードをめぐって───横山博(西方音楽館副館長)

c0050810_2303498.jpg  クラヴィコードとは、マイナスドライバーの先のような金属片で弦を直接突き上げて音を出す鍵盤楽器で、一音一音適確なコントロールで打鍵しないと弦がうまく振動してくれず、耳障りなノイズが発生してしまうという恐ろしい特徴をもっている。それはオルガンやチェンバロの難しさとは全く異なるもので、ピッチ(音高)は鍵盤の押し加減によって変わってしまい、固定的ではなく、常にわずかに揺らいでいる。また、弦を突き上げた後、同じ重みで鍵盤を押していないと良い音が持続しないという大変繊細な楽器である。音量が非常に小さいという弱点があるにも関わらず、バッハはあらゆる鍵盤楽器の中でクラヴィコードを最も愛奏し、息子たちにも手取り足取り教えていた。
  いま皆様の目の前にある楽器の上部には、通常のクラヴィコード(手鍵盤)2台が積み重ねられている。そしてその下には足鍵盤で演奏できるようにした大型のクラヴィコードが合体している。一つ一つの楽器は連結されること無く完全に独立している。別々の3台のクラヴィコードを使って、独立した3パートを一人で演奏できるように作られたのが、本日使用される小渕晶男氏が復元したヨーハン・ダーフィット・ゲルステンベルク(1760年製作)のペダルクラヴィコードである。

c0050810_2314351.jpg  当初は、ペダルクラヴィコードなどという特殊な楽器の製作を小渕氏に依頼することになるとは思ってもみなかった。私はバッハの《平均律クラヴィーア曲集》の全ての調を弾けるように4オクターヴの専有弦方式クラヴィコードを手に入れたいと考えていた。私のアパートにある楽器は共有弦方式のクラヴィコードだけで、それではシャープやフラットの多い曲になると出せない音があったのだ。《平均律》に相応しいクラヴィコードとは一体どのようなモデルなのか、私の師である英人音楽学者のジョン・バット氏(グラスゴー大学教授)にメールで問い合わると、彼は「そもそもバッハが専有弦クラヴィコードを所有したことがあるという確証は得られていない。いずれにしても《平均律第1巻》は4オクターヴ内に収まっているが《第2巻》は4オクターヴ以上の音域で書かれているので、歴史的に見合った楽器で全48曲を演奏したいと言うのなら2台のクラヴィコードが必要になるだろう」と教えてくれた。そしてイギリスやアメリカの信頼できるという製作家を何名か紹介しくれた。そのうちの一人、イギリスのピーター・バヴィングトン氏は「私はもう引退してしまったので注文を引き受けることはできないが、《平均律第1巻》に相応しいモデルの一つに、現存する最古の専有弦式クラヴィコードであるミヒャエル・ハイニッツ(1716年製作)が挙げられる」との返事をくれた。小渕氏にハイニッツを製作していただけないかとお願いした時、小渕氏は「それはかなり珍しいモデルと言えますが、興味を持った理由は何でしょう?」との事で、私は《平均律第1巻》との関連とバヴィングトン氏の意見を伝えた。「ハイニッツは確かにバッハと関わる機会があったかもしれない。しかしもう一つ、ハイニッツにとてもよく似た作りのモデルでヨーハン・ダーフィット・ゲルステンベルク(1760年製作)というものがあり、この楽器は2つの手鍵盤と足鍵盤を備え、バッハのトリオ・ソナタを演奏するために作られたと噂されるものです」と、思いがけず《平均律》と《トリオ・ソナタ》が同時に私の前に立ち並んだ。その約2週間後、小渕氏が制作した楽器の一つを所有している方のお宅でジルバーマンモデルの専有弦クラヴィコードを試奏できる機会があったのだが、お宅に上がり、私がジルバーマンを見るよりも先に、小渕氏はペダルクラヴィコードの巨大な図面のコピーを、そのお宅のリビング床一面に広げて見せてくれた。それは楽器の図面というよりも、モダン建築の設計図のように見えた。ジルバーマンの試奏が終わるとそのまま小渕氏の車で移動し、上尾直毅氏所有のホフマンモデルのクラヴィコードも試奏させてもらった。しかしその時の話題の中心もやはり、ゲルステンベルクのペダルクラヴィコードだった。

c0050810_2323768.jpg  西洋音楽史の根幹に位置するとも言える伝説の楽器、ペダルクラヴィコードは多くのオルガニストの間では未だ「無用の長物」と見なされている。17世紀、18世紀の北ヨーロッパのオルガニストたちが実際どのような楽器で、どのような環境で、どのように演奏技術を習得したのかという議論がされるようになったのも、ここ20年位の話である。北ヨーロッパの教会の中は一年の半分はかなり寒く、もちろん電力の無い状況下では楽器に風を送る「ふいご師」たちに決して安くはない労賃を支払う必要があった。つまり17世紀、18世紀のオルガニストが大きなオルガンを心置きなく練習するということは相当に贅沢なものであり金銭的に無理のあることだった。もちろん小さなオルガンもあったが、それは現代の音楽大学の練習室にあるようなペダル(足鍵盤)を備えた楽器ではなく、そのほとんどはペダル無しの一段鍵盤で、とても軽いアクションのものだった。だからこそペダルクラヴィコードは、教会の大きなオルガンでは練習が困難であるという実態を、長きに渡って支えるものであり続けた。J.S.バッハの場合はどうだろう?ペダルテクニックにおいてバッハの右に出る者はいなかった。では彼は常日頃どのようにその技に磨きをかけていたのだろう?バッハのオルガンの練習やレッスンに関しての歴史的資料はまったく残されておらず、謎のままである。

c0050810_23319100.jpg  バッハの息子と交流のあったヨハン・ニコラウス・フォルケルの述べるところによれば、

  「彼はペダルで低音や普通のオルガニストが左手の小指で押える音を弾いただけでなく、多くの人が五本の指をもってしてもなかなか引き出せないような性格の、本格的な低音旋律を演奏したのである」

  現代のオルガニストにとっても《6つのトリオ・ソナタ》(BWV525-530)はバッハの最も重要なオルガン作品の一つであり、主要なオーディションや国際コンクールに必ず課題として課せられている通り、今日でもなお、オルガン音楽の最難曲でありつづけている。互いに全く独立した3つの声部による対位法の綾取りが入念に書き込まれており、時に足鍵盤の動きは手鍵盤の動きにも匹敵する。オルガンでも演奏可能だが、室内楽的な響きにまとめる音色の選択(レジストレーション)の可能性は案外少なく、残響時間の長い教会ではすべての音域でお互いにクリアな関係を設定するのは難しい。一方、音域毎に音色の特徴が異なり、減衰の速いクラヴィコードでは、あたかもヴァイオリンとフルート、通奏低音がトリオ・ソナタを合奏していると錯覚させる瞬間がある。では、3人で演奏すればどうなるかといえば、全員が全員の役割を頭に入れて、その瞬間瞬間に紡ぎ上げる精妙な和声に支えられた音楽全体の流れを失わずに、しかも3人が同時に対話を進めていくことは至難の業である。

c0050810_2341619.jpg  「バッハはこれを長男ヴィルヘルム・フリーデマンのために書いた。フリーデマンは偉大なオルガン奏者となるためにこれらを勉強し、事実のちにそのような存在となった」

  フリーデマン・バッハはトリオ・ソナタを「勉強」した。しかしフリーデマンは卓越したペダルテクニックを習得したというよりも、この曲集のもつ「ギャラント風」な性格を引き継いだように見える。

  「さらに、きわめて技巧的につくられた『パッサカリア』(BWV582)を加えておくが、これはオルガン用というより、むしろ二つの手鍵盤とペダルのためのものである」

  この「二つの手鍵盤とペダルのためのもの」という記述であるが、原文では“fur Zwey Claviere und Pedal”となっている。この“Clavier”はおそらくクラヴィコードのことであろう。「きわめて技巧的」なオルガン曲の演奏を仕上げるには、どんなオルガニストであろうと相当な練習時間が必要だし、ペダルチェンバロではなくペダルクラヴィコードがあれば、美しくデリケートな足さばきへの貴重な示唆を与えたに違いない。パッサカリアの手鍵盤パートには、オルガンには似合わないブロークンコードが含まれており、ギターやリュートのアンサンブルを思わせる。

  1901年、クロード・ドビュッシーはこの様に述べた。

  「バッハの音楽においてひとを感動させるのは、旋律の性格ではない。その曲線である。また往々にして、幾つかの併走する線の運動体だ。それらの線の出会い(アラベスク)が、偶然であるにせよ必然の一致にせよ、胸を打つ。 Dans la musique de Bach, ce n'est pas le caractère de la mélodie qui émeut, c'est sa courbe ; plus souvent même, c'est le mouvement parallèle de plusieurs lignes dont la rencontre, soit fortuite, soit unanime, solicite l'émotion.

c0050810_2351421.jpg  演奏している姿をなかなか生で見ることのできないオルガニストの存在。本日はそのテクニックを音だけでなく間近に目でも楽しんで頂ける。強弱の変化はもちろん、多彩な陰影を表出するクラヴィコードという楽器が、両足、左手、右手のために3台積み重なった。本日のような一つの演奏会でトリオ・ソナタ全6曲がペダルクラヴィコードで公開演奏されるということは我々の知る限り世界で初めてのことである。ついに大井浩明氏の手と足によって、ペダルクラヴィコードがオルガンの完璧な表現力を超え得ることを証明する日がやってきた。


  
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# by ooi_piano | 2016-10-18 02:12 | クラヴィコード様への五体投地 | Comments(0)