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松平頼曉(1931- ) Yori-Aki MATSUDAIRA, composer
作曲、ピアノを独学。1957~60、総音列主義によって作曲。次の6年間、不確定性に関心をもつ。1967~76、新しい引用音楽を始める。1976以後、旋法による作曲を始める。その後、その延長としてピッチ・インターヴァル技法を開発。1958、67、69、72、75、84、87、91、93、2009、国際現代音楽協会(ISCM)主催の音楽祭に入選。1990、第3回K.セロツキ国際作曲家コンペティションでメック出版社特別賞を受ける。2001、ISCM日本支部委員長として「ISCM世界音楽の日々イン横浜」を主催。2008、ISCM名誉会員となる。
主要作品
・オペラ: The Provocators
・オーケストラ: Kurtosis I、Oscillation(マリンバソロ付)
・室内オーケストラ: Configuration I & II、Recollection(ピアノソロ付)
・吹奏楽: Expansion
・合唱: Requiem(オーケストラ付)、Le Tombeau de Olga Brodsky
・室内楽: Sparkle
・独奏: GALA for piano
・声楽曲: Substitution(ピアノ伴奏付)、Card Game(無伴奏)
・オルガン曲: Prayer
・電子音楽: Transient '64(テープ)、Accumulation(ライヴ)
・シアターピース: What's next?
・エスニックピース: To the Victims of Cain
・コンピュータ音楽: Core
等 150作品
作品解説――――――――松平頼曉
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2009年、舘野泉さんのために作曲。はじめに提示される単旋律が様々に変形される。
■アルロトロピー(同素体)
1970年、高橋アキさんのために作曲。8セクションズから成る。題名は同素異型を意味するもので、すべて連打音が素材となっている。周期の異なる数音の連打はやがてアルペジオになり、アルペジオの集積はクラスターになる。終わり近く、一種のレファレンスとして、連打音による有名な作品が引用される。Ed.S.Zerboni社版。
■ピアノのための練習曲集
“ピアノのための練習曲集”は1970~71年の作品である。内容は10課程23曲から成る。
I. 1個の鍵盤上の練習曲(3曲)
C音のみを使った練習曲である。第1曲のリズムは乱数表によっている。左右1本ずつの指を用いる。鍵盤はCを指定しているが、半音ずつ順次移音して練習するとよい。指も第1指から第5指まで変えて練習する。
第2曲は第1曲のアイデアに、強弱練習を付加したものである。
第3曲は連符が混在する時の練習曲である。右手は32分音符単位で、左手は16分音符単位で。両方の手は強弱・アタック・共に違った指示で4通りの練習法が与えてある。両手同時に演奏する箇所では、スタッカートのあと直ちに音がしないように鍵盤を押さえる(cf.Stockhausen:Klavierstuck XI)。
II. 全音域上の練習曲(拡大カノンを含む音列による)(3曲)
ピアノの鍵盤88個の全部を使う。この曲において鍵盤の出現順に番号をつけると、1 2 2 3 2 4 3 5 2 6 4 7 3 8 9 2 10 ……となるが、これを一つおきにとったものが、原数列と一致する。音高や各音の音価は第I課程から派生したものである。2曲の変奏曲が加わって計3曲一組みになっている。演奏会用練習曲である。
III. せまい音域内の練習曲(1曲)
単音の連打にはじまり、数段階の変化を経て、完全4度幅の半音によるクラスターに至る。各段階とも、その音価は第I課程第1曲に由来している。
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第1曲は4度のための練習曲である。音価は第I課程による。第2曲は3度のための練習曲で、第II課程第1曲のリズムを踏襲している。第3曲は7度のための練習曲で、リズムは第I課程の変形である。
V. クラスターによる練習曲(3曲)
第1曲(同音で)はC音上の長7度のクラスターの練習で、第I課程第1曲のリズムを用いている。第2曲(同じ音程の幅で)はクラスターの最低音が移動する。幅は長7度から長2度まで可変である。リズムは第I課程第2曲のものである。第3曲(様々な音程の幅で)は様々な幅のクラスターが混在している。最低音も移動する。第I課程第3曲と同じリズムが用いてある。クラスター奏法においてはアタックの直後にペダルを踏むことによって、多彩な音色がえられる。
VI. 鍵盤演奏のための練習曲(1曲)
第II課程第1曲の3番目の変奏である。これまでに現れた鍵盤奏法上の技法の外に、指や掌によるグリッサンド、無音で押さえるクラスターなどが指定されている。
VII. ピッチカートとミュートのための練習曲(2曲)
ピアノ演奏は現代にといては鍵盤奏法だけとは限らない。第VII、VIII両課程はそのことを考慮して設けられている。
第VII課程第1曲は再びC音のみによっている。しかも第I課程第1曲と同じリズムである。しかしここでは、通常の鍵盤奏法ではなく、弦を右手で押さえ左手で鍵盤を奏するミュート、弦を指先ではじくピッチカート、ミュートしながらはじくピッチカートおよび音を発しないように鍵盤を押さえる奏法が指定されている。最後の奏法はピッチカートと併用される時、ペダルと同じ効果を持つ(cf.Cowell:The Aeolian Harp)。ピッチカートやミュート奏法では運指に関する考慮が重要である。特にミュート奏法は、単音であっても両手を必要とすることを忘れてはならない。この課程では音符の両端に符尾を附してそのことを明示しておいたが、一般の作品ではそのように記していない(cf.Maderna:Piano Concerto)。この練習曲は、音域を変えて練習することが望ましい。鍵盤奏法では一般にオクターヴ移高しても、それ程違ったメカニズムを要しないが、いわゆる内部奏法では、オクターブの移高であっても全く違った訓練を必要とする。第2曲は音程が動く場合の練習曲で、第IV課程第1曲がほとんどそのまま転用されている。
![POC#5 [1月29日(土)] 松平頼暁・作品解説_c0050810_9141388.gif](https://pds.exblog.jp/pds/1/201101/27/10/c0050810_9141388.gif)
第1曲は手を使う奏法のためのもので、グランド・ピアノの上蓋、側面、鍵盤の蓋、前面、下側の5箇所を右手の拳と左手掌で叩く。
第2曲はブリッジとフレームを小太鼓のスティックで叩く練習曲である。
第3曲(J.Cageへの敬意をこめて)はスクリュー、ゴム、ボルトによってプリペアされた鍵盤の演奏である。弦にはさむ材質が同じでも響く音色は毎回異なることに注意してほしい。
IX. アレアトリックな練習曲(6群)
A~Fの6個の群を記譜してあるので720通りの連結法がある。ただしテンポは前の群の末尾の指示に従う、という一種のマルコフ鎖が適用されている(cf.Stockhausen:Klavierstuck XI)。新にあらわれる技法としては、鍵盤の蓋の開閉、スティックによるミュートと打弦、スティックで弦に軽く触れながらそれを弦沿いに滑らす一種のハーモニックス、巻き線の縦こすりがある。
X. 図形楽譜による練習曲(3曲)
第1曲は文字通り図形楽譜によっている。記号についての指定はほとんどないので、各自でそれを決めてから練習してほしい。十分練習したあと、記号の意味を変えて練習をくりかえしてほしい。
第2曲は楽譜がなくインストラクションだけである。これは私の“Why not?”とほとんど同じ文章である。
第3曲は数字の群とインストラクションから成っている。数字を楽譜として解釈する例は数多くあり、またその解釈の仕方も様々である(cf.Feldman:Intersection 3 ; 湯浅:Inter-posi-play-tion 1 ; 松平:Assemblages for Voice)。これらの作品を参考にしながら練習者がこの練習曲に別のインストラクションをつけて練習してもよい。