ジョン・ケージ生誕100周年を記念するリサイタル・シリーズを、6月16日(土)から芦屋で開始しますので、ご案内申し上げます。
【6月16日(土)公演について】 (曲目詳説は6月13日(水)頃アップロード予定)
プリペアド・ピアノとは、ピアノの金属弦の間に、ボルトやナット、木、ゴムなどを挿入して、ガムラン・アンサンブルのような玄妙な音色を出す手法です。「ソナタとインタリュード」はその代表作であり、ジョン・ケージの名をアメリカ国内はもとよりヨーロッパでも広く知らしめたものです。
通常は、音楽ホール所蔵の楽器で内部奏法・特殊奏法を行うのは、日本国内では厳禁されております(すなわち、それだけ生演奏に触れる機会が少ない)が、今回、ケージ生誕100周年ということで、山村サロン様の特別の御許可を頂き、実現の運びとなりました。言うまでもなく、ハンブルク・スタインウェイのような銘器をこそプリペアドして、初めて生まれる音色、というものが御座いますので、是非ご期待下さい。(因みに、「易の音楽」にも、幾つかの特殊奏法が突発的に現れます。)
そもそも、プリペアド・ピアノというのは、上記の通り、弦の間に異物を挟みますので、通常の鍵盤奏法よりは音量は抑えた表現となります。この点で、サロンくらいのキャパがちょうど音色の繊細な差異を聞き取るのに適切と言えるでしょう。ジョン・ケージが「ソナタとインタリュード」の解説演奏を、メシアン・ブーレーズをはじめとするパリの音楽家たちの前で行ったのは、芸術擁護者のサロンででした。
「易の音楽」(全4巻)は、4人のピアニストによる分担上演(1992年)以来の全曲演奏、かつ、おそらく一人のピアニストによる演奏としては日本初演になると思われます。この大作は、1951年以降の全ての前衛音楽(ブーレーズ・シュトックハウゼンを含む)に決定的な影響を与えた、ピアノ音楽史上の最重要文献の一つです。11月に東京で取り上げる予定の《34分46.776秒》(プリペアド・ピアノのための)もかなりの難曲ですが、「易の音楽」の比ではありません。
片岡祐介氏の新作《カラス》は、この「ソナタとインタリュード」のプリパレーション状態を前提としつつ、彼独自の創意が発揮されるものです。氏とは、一昨年東京での塩見允枝子個展でパフォーマンスをお願いして以来のコラボレーションです。
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【7月14日(土)+7月17日(火)公演について】
プラネタリウムを仰ぐかのような美しい倍音に満たされたケージの連作《南のエチュード》第1集・第2集(全16曲)に、ケージが愛好するエリック・サティ、ケージの師匠であるヘンリー・カウエル、ならびにケージを師匠と仰ぐ譚盾(タン・ドゥン)のケージ追悼作品を組み合わせました。チラシにあしらったのは、この《南のエチュード》の基となった、南天の星座図です。カウエルの有名な3作と譚盾作品は、内部奏法+特殊奏法の応酬で、いわゆる「楽しいゲンダイ曲」です。
副島猛氏は京大哲学科出身で、1992年に山村サロンで初リサイタルを行った際に新作委嘱をさせて頂いて以来です。バード・ウォッチングが最近の趣味、とのことなので、「小鳥たちのために」書いて下さることになりました(ホオジロザメの事ではありません!)。
ケージと並ぶアメリカ実験主義の巨匠、モートン・フェルドマンの晩年の大作《バニタ・マーカスのために》は、1時間を超えるゴブラン織りのような繊細極まる変容が宗教的な感動を呼び起こす傑作です。東洋人で現代音楽というと、武満・細川・高橋の諸氏のように「小柄」「痩躯」「寡黙」というイメージが強い、と言われがちでしたが、そのたびに、「でもフェルドマンがいるから!」と反論して参りました(フェルドマンは巨躯の肥満体)。ヒストリカル・クラヴィコードで微音の特訓はバッチリ重ねて来ましたので、このたび番外編として敢行する次第です。
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【8月25日(土)公演について】
「Piano Unbiased」の命名は、もちろんケージの作風を前提としておりますが、たとえばこの第3回公演では、北も南も同時に取り上げる、ということで、昨年末の東京公演に引き続き、「有り得ない」構成となっております。
シャリーノのピアノ・ソナタ全5曲中でも饒舌さで知られる第2番・第3番、同じくファーニホウの最も真っ黒な譜面《レンマ・イコン・エピグラム》、それに勝るとも劣らない情熱的な尹伊桑・姜碩煕・陳銀淑の代表作を対比させてみました。
横島浩氏の作品を演奏させて頂くのは、今回が初めてです。これで、個人委嘱的にも、テンプス・ノヴム(作曲家グループ)は同人全員制覇ということになります。プログラミング上の括りとしては、陳銀淑と同様に1961年のお生まれ、という格好です。新作は「パレストリーナのトータル・セリー風」との事ですが、横島さん御自身がピアノの名手でもいらっしゃるので、譜面が届くのが今から戦々恐々です。
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先月、京都御苑のすぐ南(裁判所の裏手)にオープンしたばかりの「カフェ・モンタージュ」(夷川通柳馬場北東角)では、以下の公演も予定しています。全て¥2000(40席限定)です。[予約/お問い合わせ:tel 075-744-1070 montagekyoto@gmail.com]
■6/20(水)20時 F.クープラン:王宮のコンセール(全曲) [w/坂本卓也(バロック・ヴァイオリン)] http://ooipiano.exblog.jp/17938426/
■7/17(火)20時 M.フェルドマン:バニタ・マーカスのために(ピアノ独奏、約70分)
■7/18(水)20時 J.S.バッハ:ヴィオラ・ダ・ガンバのためのソナタ(全曲) BWV1027~1029、M.マレ:《人間の声》《夢見る女》《ロンドー》《スペインのフォリア》 [w/頼田麗(ヴィオラ・ダ・ガンバ)]
■8/29(水)20時 F.ショパン:3つのノクターンOp.9 (1831)、3つのノクターンOp.15 (1832)、2つのノクターンOp.27 (1835)、2つのノクターンOp.48 (1841)、2つのノクターンOp.62 (1846) [ポーランド・ナショナル・エディション最新版(2010年)使用]、J.J.フローベルガー:《ローマ王フェルディナンド4世陛下の崩御を悼む哀歌》、《憂鬱をやり過ごすためにロンドンで書かれた嘆き歌》、《来たるべき我が死を弔う黙祷》、《ブランシュロシュ君の墓前に捧げる誄詞》、《神聖ローマ皇帝フェルディナント3世陛下の痛切なる死に寄せる追悼曲》 (ピアノ独奏)
■8/31(金)20時 G.マーラー:交響曲第7番ホ短調《夜の歌 Lied der Nacht》(1905) (全5楽章/A.カゼッラによる4手連弾版、日本初演) [w/法貴彩子(pf)] (1905年製NYスタインウェイ使用)
「カフェ・モンタージュ」は、ヴィンテージのスタインウェイとチェンバロを備えた、劇場型カフェです。ピアノが併設されているクラシック系カフェ、ということでは、京都では20年前に堀川丸太町に存在した喫茶「ハイドン」以来では無いでしょうか。
オープニング・シリーズの一環で幾つか公演を製作させて頂くにあたり、夏の夜の御所界隈に立ち込める、高雅かつ神秘的な雰囲気に沿った選曲をしてみました。バロック・ヴァイオリンの坂本卓也さん(クープラン「王宮のコンセール」集)、ヴィオラ・ダ・ガンバの頼田麗さん(バッハ「ガンバ・ソナタ」集+マラン・マレ)はかねてよりの友人で、多方面で活躍なさっておられます。私はチェンバロで通奏低音を担当します。
8月29日公演では、ショパンの夜想曲(ノクターン)約20曲のうち、主要12曲を取り上げます。さまざまなフィグーラに満ちたショパンの流麗な譜面は、いわゆる「古楽奏法」(音楽修辞学と当時の演奏慣習に基づく解釈)を適用してみるには、格好の実験台と言えるでしょう。今回は、ポーランド・ナショナル・エディション最新版(2010年)を使用致します。
8月31日のマーラー=カゼッラ編:交響曲第7番《夜の歌》(4手連弾版、日本初演)で共演して頂くパブロ・エスカンデ氏は、アルゼンチン生まれの作曲家/ピアニストでありながら、古楽/チェンバロもアムステルダムで学ばれた方で、このところ京都も拠点の一つとなさってます。舘野泉氏がCD録音のほかに頻繁に公演でも作品を取り上げておられ、年末の東京文化会館でのリサイタルでは、塩見允枝子氏への委嘱新作(朗読:柴田暦氏)初演とともに、エスカンデ氏の連作が演奏されるようです。[エスカンデ氏の御事情により御出演キャンセルとなりました]では、京都出身でパリで学ばれた注目の若手、法貴彩子さんと共演致します。使用楽器は、「夜の歌」と同年(1905年)に製作されたNYスタインウェイです。
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7/17(火)に、神戸大学発達科学部(鶴甲キャンパス)でレクチャーを致します。13時20分~16時40分(2コマ) 「楽譜に書かれていること/書かれていないこと ~バッハ《平均律》からジョン・ケージまで」 外部者聴講可(無料)。 問い合わせ/田村研究室 http://www.edu.kobe-u.ac.jp/hudev-bunsay/
【6月16日(土)公演について】 (曲目詳説は6月13日(水)頃アップロード予定)

通常は、音楽ホール所蔵の楽器で内部奏法・特殊奏法を行うのは、日本国内では厳禁されております(すなわち、それだけ生演奏に触れる機会が少ない)が、今回、ケージ生誕100周年ということで、山村サロン様の特別の御許可を頂き、実現の運びとなりました。言うまでもなく、ハンブルク・スタインウェイのような銘器をこそプリペアドして、初めて生まれる音色、というものが御座いますので、是非ご期待下さい。(因みに、「易の音楽」にも、幾つかの特殊奏法が突発的に現れます。)
そもそも、プリペアド・ピアノというのは、上記の通り、弦の間に異物を挟みますので、通常の鍵盤奏法よりは音量は抑えた表現となります。この点で、サロンくらいのキャパがちょうど音色の繊細な差異を聞き取るのに適切と言えるでしょう。ジョン・ケージが「ソナタとインタリュード」の解説演奏を、メシアン・ブーレーズをはじめとするパリの音楽家たちの前で行ったのは、芸術擁護者のサロンででした。

片岡祐介氏の新作《カラス》は、この「ソナタとインタリュード」のプリパレーション状態を前提としつつ、彼独自の創意が発揮されるものです。氏とは、一昨年東京での塩見允枝子個展でパフォーマンスをお願いして以来のコラボレーションです。
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【7月14日(土)+7月17日(火)公演について】

副島猛氏は京大哲学科出身で、1992年に山村サロンで初リサイタルを行った際に新作委嘱をさせて頂いて以来です。バード・ウォッチングが最近の趣味、とのことなので、「小鳥たちのために」書いて下さることになりました(ホオジロザメの事ではありません!)。
ケージと並ぶアメリカ実験主義の巨匠、モートン・フェルドマンの晩年の大作《バニタ・マーカスのために》は、1時間を超えるゴブラン織りのような繊細極まる変容が宗教的な感動を呼び起こす傑作です。東洋人で現代音楽というと、武満・細川・高橋の諸氏のように「小柄」「痩躯」「寡黙」というイメージが強い、と言われがちでしたが、そのたびに、「でもフェルドマンがいるから!」と反論して参りました(フェルドマンは巨躯の肥満体)。ヒストリカル・クラヴィコードで微音の特訓はバッチリ重ねて来ましたので、このたび番外編として敢行する次第です。
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【8月25日(土)公演について】

シャリーノのピアノ・ソナタ全5曲中でも饒舌さで知られる第2番・第3番、同じくファーニホウの最も真っ黒な譜面《レンマ・イコン・エピグラム》、それに勝るとも劣らない情熱的な尹伊桑・姜碩煕・陳銀淑の代表作を対比させてみました。
横島浩氏の作品を演奏させて頂くのは、今回が初めてです。これで、個人委嘱的にも、テンプス・ノヴム(作曲家グループ)は同人全員制覇ということになります。プログラミング上の括りとしては、陳銀淑と同様に1961年のお生まれ、という格好です。新作は「パレストリーナのトータル・セリー風」との事ですが、横島さん御自身がピアノの名手でもいらっしゃるので、譜面が届くのが今から戦々恐々です。
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■6/20(水)20時 F.クープラン:王宮のコンセール(全曲) [w/坂本卓也(バロック・ヴァイオリン)] http://ooipiano.exblog.jp/17938426/
■7/17(火)20時 M.フェルドマン:バニタ・マーカスのために(ピアノ独奏、約70分)
■7/18(水)20時 J.S.バッハ:ヴィオラ・ダ・ガンバのためのソナタ(全曲) BWV1027~1029、M.マレ:《人間の声》《夢見る女》《ロンドー》《スペインのフォリア》 [w/頼田麗(ヴィオラ・ダ・ガンバ)]
■8/29(水)20時 F.ショパン:3つのノクターンOp.9 (1831)、3つのノクターンOp.15 (1832)、2つのノクターンOp.27 (1835)、2つのノクターンOp.48 (1841)、2つのノクターンOp.62 (1846) [ポーランド・ナショナル・エディション最新版(2010年)使用]、J.J.フローベルガー:《ローマ王フェルディナンド4世陛下の崩御を悼む哀歌》、《憂鬱をやり過ごすためにロンドンで書かれた嘆き歌》、《来たるべき我が死を弔う黙祷》、《ブランシュロシュ君の墓前に捧げる誄詞》、《神聖ローマ皇帝フェルディナント3世陛下の痛切なる死に寄せる追悼曲》 (ピアノ独奏)
■8/31(金)20時 G.マーラー:交響曲第7番ホ短調《夜の歌 Lied der Nacht》(1905) (全5楽章/A.カゼッラによる4手連弾版、日本初演) [w/法貴彩子(pf)] (1905年製NYスタインウェイ使用)
「カフェ・モンタージュ」は、ヴィンテージのスタインウェイとチェンバロを備えた、劇場型カフェです。ピアノが併設されているクラシック系カフェ、ということでは、京都では20年前に堀川丸太町に存在した喫茶「ハイドン」以来では無いでしょうか。
オープニング・シリーズの一環で幾つか公演を製作させて頂くにあたり、夏の夜の御所界隈に立ち込める、高雅かつ神秘的な雰囲気に沿った選曲をしてみました。バロック・ヴァイオリンの坂本卓也さん(クープラン「王宮のコンセール」集)、ヴィオラ・ダ・ガンバの頼田麗さん(バッハ「ガンバ・ソナタ」集+マラン・マレ)はかねてよりの友人で、多方面で活躍なさっておられます。私はチェンバロで通奏低音を担当します。
8月29日公演では、ショパンの夜想曲(ノクターン)約20曲のうち、主要12曲を取り上げます。さまざまなフィグーラに満ちたショパンの流麗な譜面は、いわゆる「古楽奏法」(音楽修辞学と当時の演奏慣習に基づく解釈)を適用してみるには、格好の実験台と言えるでしょう。今回は、ポーランド・ナショナル・エディション最新版(2010年)を使用致します。
8月31日のマーラー=カゼッラ編:交響曲第7番《夜の歌》(4手連弾版、日本初演)
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7/17(火)に、神戸大学発達科学部(鶴甲キャンパス)でレクチャーを致します。13時20分~16時40分(2コマ) 「楽譜に書かれていること/書かれていないこと ~バッハ《平均律》からジョン・ケージまで」 外部者聴講可(無料)。 問い合わせ/田村研究室 http://www.edu.kobe-u.ac.jp/hudev-bunsay/