★第1回公演(6月16日、ケージ「ソナタとインタリュード」+「易の音楽」)感想集 http://togetter.com/li/322182
副島猛: ホオジロのいる風景 Emberiza cioides in the field (2012)
今日 (6/24)、京都の桂川に野鳥の調査に出かけたが、梅雨の晴れ間にホオジロはいたるところで囀っていた。ホオジロはどちらかと言うとありふれた鳥で、ベテランのバードウォッチャーたちは見向きもしない。しかし、「一筆啓上仕候」という聞きなしで知られた能天気な囀りの、微妙に変化を加えながらの執拗な繰り返しは、私を魅了し続けてきた。「カラスは黒い」や「スワンは白い」は間違っていたが、「ホオジロはミニマルミュージシャンである」は真実であり続けるのではないだろうか?
作曲にあたって、当初はこの囀りを何度も聞き直し波形の観察もして、その模倣に努めたが、それをそのままピアノで表現するのは難しいものを感じた。この機会にと、メシアンの「鳥のカタログ」も注意深く聴いてみたが、鳥の囀りの模倣という点からすれば、あまり参考にはならなかった。それよりは、一年前に「日本応用哲学会」のシンポジウムで聴いた (怪しい学会!)、夏田氏のフルート曲「春鶯」の方がはるかに本物に迫っていた。普通のピアノでは無理なのだろう。
そこで方向転換して、忠実な模倣ではなくて「何かホオジロ的なもの」を目指してアルゴリズムを考案することにした。ホオジロはケージに閉じ込めないで野に放ってやりたかったので、「白色光を放つ」ピッチクラスセット (フォート番号の 4-Z15 と 4-Z29) で表現された太陽と月の緩慢な運行 (金環日食付) に重ね合わせた。このようにホオジロと太陽と月が出会うことによって、おのずと音楽が組織されてゆき、曲はずいぶん「素敵な」結末へと向かう。「しかし」私はケージの精神にしたがって、それをそのまま受け入れることにした。使用したソフトウェアは Nyquist (作曲と試聴) と LilyPond (譜面作成) である。
このたび、大井氏から突然メールがあって新曲の打診があったのには、正直「本当に」驚いた。氏との縁は、学生の時に入っていた野村氏を中心とする音楽サークル「ラス (でよかったと思う、思い出すのに時間が掛かった)」絡みからではないかと思う。当時、私は彼らの不敵な活動を目のあたりにして、模範的な聴衆たらんと努めていたが、そのうち彼らの毒に当てられてしまう結果となった。今また一聴衆にすぎない私にとって、この委嘱は諸事情もあって断るしかないものだったが、「まともな曲じゃない方がいいんですけどー」という妙な説得により「どうなっても知らんぞ~」という気持ちで作り始めた。この曲もまた、前回の片岡氏の作品と同様、ささやかであれ「役に立つ音楽」になることを願っている。
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副島猛 Takeshi SOEJIMA, composer
1962年大阪生まれ、京都在住。専門は哲学、特に言語哲学と論理教育。大阪芸術大学、関西大学、関西学院大学、京都大学、神戸大学非常勤講師。日本野鳥の会京都支部、東亜天文学会会員。作曲は我流。
大井浩明 《ピアノ・アンバイアスト》 第2回公演 ~ジョン・ケージ生誕100周年記念(その2)
Hiroaki OOI - “Piano Unbiased”
Commemorating the 100th Anniversary of John Cage (1912-1992)
2012年7月14日(土)18時開演
山村サロン (JR芦屋駅前)
〒659-0093 芦屋市船戸町4-1-301 (ラポルテ本館3階)
[JR芦屋駅下車、改札を右折、直進して陸橋を渡る。その方向のままラポルテ本館に入り、エスカレーターを1階ぶんのぼった正面。所要時間2~3分]
全自由席 前売り¥2500 当日¥3000
予約/問い合わせ: 山村サロン 0797-38-2585 yamamura@y-salon.com
J.ケージ(1912-1992):南のエテュード集 第1巻(1974-75) ~第I曲
E.サティ(1866-1925):薔薇十字教団の最も大切な思想(1891)
J.ケージ:同 ~第II曲
E.サティ:グノシェンヌ第1番(1890)
J.ケージ:同 ~第III曲
E.サティ:グノシェンヌ第3番(1890)
J.ケージ:同 ~第IV曲
E.サティ:グノシェンヌ第5番(1889)
J.ケージ:同 ~第V曲
E.サティ:犬のための無気力な本当の前奏曲(1912、全3曲)
J.ケージ:同 ~第VI曲
H.カウエル(1897-1965):マノノーンの潮流(1917)
J.ケージ:同 ~第VII曲
H.カウエル:エオリアン・ハープ(1923)
J.ケージ:同 ~第VIII曲
副島猛(1962- ):ピアノ独奏のための《ホオジロのいる風景》(2012) 委嘱新作初演
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譚盾(1957- ):C-A-G-E- (1994)
J.ケージ(1912-1992):南のエテュード集 第2巻(1974-75) ~第IX曲
E.サティ:ジムノペディ第1番(1888)
J.ケージ:同 ~第X曲
E.サティ:ジムノペディ第2番(1888)
J.ケージ:同 ~第XI曲
E.サティ:ジムノペディ第3番(1888)
J.ケージ:同 ~第XII曲
E.サティ: いつも片目をあけて眠る見事に肥えた猿の王様を目覚めさせるためのファンファーレ(1921)
J.ケージ:同 ~第XIII曲
H.カウエル:ザ・バンシー(1925)
J.ケージ:同 ~第XIV曲
E.サティ:ジュ・トゥ・ヴ(1900)
J.ケージ:同 ~第XV曲
E.サティ:映画《本日休演》のための交響的間奏曲(1924)
J.ケージ:同 ~第XVI曲
副島猛: ホオジロのいる風景 Emberiza cioides in the field (2012)

作曲にあたって、当初はこの囀りを何度も聞き直し波形の観察もして、その模倣に努めたが、それをそのままピアノで表現するのは難しいものを感じた。この機会にと、メシアンの「鳥のカタログ」も注意深く聴いてみたが、鳥の囀りの模倣という点からすれば、あまり参考にはならなかった。それよりは、一年前に「日本応用哲学会」のシンポジウムで聴いた (怪しい学会!)、夏田氏のフルート曲「春鶯」の方がはるかに本物に迫っていた。普通のピアノでは無理なのだろう。
そこで方向転換して、忠実な模倣ではなくて「何かホオジロ的なもの」を目指してアルゴリズムを考案することにした。ホオジロはケージに閉じ込めないで野に放ってやりたかったので、「白色光を放つ」ピッチクラスセット (フォート番号の 4-Z15 と 4-Z29) で表現された太陽と月の緩慢な運行 (金環日食付) に重ね合わせた。このようにホオジロと太陽と月が出会うことによって、おのずと音楽が組織されてゆき、曲はずいぶん「素敵な」結末へと向かう。「しかし」私はケージの精神にしたがって、それをそのまま受け入れることにした。使用したソフトウェアは Nyquist (作曲と試聴) と LilyPond (譜面作成) である。

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副島猛 Takeshi SOEJIMA, composer
1962年大阪生まれ、京都在住。専門は哲学、特に言語哲学と論理教育。大阪芸術大学、関西大学、関西学院大学、京都大学、神戸大学非常勤講師。日本野鳥の会京都支部、東亜天文学会会員。作曲は我流。