|||||||||||||||||||||||||||||| ホリガー作品解説 ||||||||||||||||||||||||||||||
《ソナチネ》+《夜の音楽》
1958年2月作曲、2004年出版。バルトークの助手を務めリゲティ・クルタークらを教えた後、1949年にスイスに亡命し、ベルン音楽院で長く教鞭を執ったハンガリー人作曲家、シャーンドル・ヴェレシュ(1907-1992)の強い影響下に書かれた、自称「若気の過ち」。当時のピアノ教師であったブルガリア人、サヴァ・サヴォフに献呈。第1楽章アレグロ、第2楽章コラール、第3楽章アレグロ・モルトからなり、第2楽章の代わりとして翌年書かれた小品《夜の音楽》は、ソナチネ全3楽章の後奏曲として演奏可能、とある。
《エリス - 三つの夜曲》
オーストリアの象徴派詩人、ゲオルク・トラークル(1887-1914)による、夢と死の間の「天国のように」純粋な存在、エリスの物語に基づく。第1曲《死の告知》…「エリスよ、ツグミが暗い森で叫ぶとき/お前は世を去る。」(『幼きエリスに』)、第2曲《死の恐怖と恩寵》…「青い鳩が/夜飲む凍みた汗は/エリスの水晶の額から滲み出たもの」(『エリス II』)、第3曲《昇天》…「金色の小舟(Kahn)は/さびしい空で、エリス、お前の心を揺り動かす」(『エリス I』)。
使用されるデーシー・ターラ(諸地方のターラ)は、第1曲「チャンドラ・ターラ」(月のターラ)・「チャンドラ・カラー」(月輪の1/16、各々は女神によって擬人化される)・「ヴィジャヤ」(勝利)、第2曲「カンカーラ」(骸骨)、第3曲「ラクシュミーシャー」(吉祥天)・「リーラー」(遊戯)・「トゥランガ・リーラー」(馬の遊戯)・「プラターパ・シェーカラ」(威力の絶頂)等。
曲集《こどものひかり》より〈黒白のヨーデル二重唱〉、〈ブルクドルフのブギウギ〉、〈ウサギとハリネズミ〉
原題《Chinderliecht(ヒンダーリーェヒト)》は、「こどものひかり」ならびに「こども用の小品」の両義を掛けたスイス方言である。副題は、「小さな、あるいは大きな子供のための小品集、語り・歌入り、2手独奏・4手連弾用」。ラッヘンマン《こどものあそび》と同じく、クルターク《あそび》のような体系的・教育的な曲集ではない。幾つかの曲で用いられている歌詞は、ベルン出身のチェロ奏者、トーマス&パトリック・デメンガ兄弟の姪であるミレーヴァ・デメンガが、幼少時代(6歳~10歳頃)に作ったものである(彼女は昨年バーゼル大学で哲学の学位を取ったとの由)。
〈黒白のヨーデル二重唱〉…左手が白鍵、右手が黒鍵でのんびりとヨーデルを歌う。その変奏〈中国人の羊飼いが聞こえましたか?-いいえ!-ではもう一回!〉では、左手は「雪山のアルペンホルンのように」、右手は「黒いパゴダの王女の踊りのように」、拍子をずらして奏される。〈ブルクドルフのブギウギ -またはブルガリアのブルクドルフ?〉…ブルクドルフはベルン市北東20kmにある町の名前。R(レ)・S(ミ♭)・C(ド)・H(シ)[=ロベルト・シューマン]+Mi(ミ)・D(レ)[=ミレーヴァ・デメンガ]の6音が、ブルガリア風の8分の5拍子上で駆け巡る。〈ウサギとハリネズミ〉…傲慢なウサギを智恵でやり込めるハリネズミ夫婦のグリム童話に基づく。作曲者の出身地、ランゲンタール(ベルンとバーゼルのほぼ中間)あたりの方言による弾き語り。曲の最後に、マーラー《巨人》の葬送行進曲が「ジャック・カロ風に」一瞬引用される。
《パルティータ》
1999年作曲。2001年9月12日(アメリカ同時多発テロ事件の翌日)、第51回ベルリン祝祭週間でアンドラーシュ・シフにより献呈初演。第1曲「前奏曲(内なる声)」…シューマン《フモレスケ 作品20》中盤に書き込まれた、演奏されない音符「内なる声(Innere Stimme)」が、ここでは無音で押さえられた鍵盤による倍音として、影のように寄り添う。第2曲「フーガ」…バッハやバルトークの無伴奏ヴァイオリン・ソナタと同様に、前奏曲の直後に置かれた3声のフーガ。第3曲「舟歌」…8分の12拍子でゆったりと開始した舟歌が、徐々に解体される。スコア劈頭にはヘルダーリン『ムネーモシュネー』の一節、「[われらは前のほうも後ろの方をも/見ようとはしない。] 波の動きに身をゆだねて/海に浮かんでゆらぐ小舟(Kahn)に乗っているように。」、曲の中盤には「ランボーと彼の『酔いどれ船』へのオマージュ」、と書き付けられている。第4曲「Sch.のためのスフィンクス(間奏曲1)」/第6曲「Sch.のためのスフィンクス(間奏曲2)」…シューマン(SCHumAnn)《謝肉祭~4つの音符による滑稽譚(SCHwAnk) 作品9》第9曲の前に置かれた無音のミ♭・ド・シ・ラ(あるいはラ♭・ド・シ)らしき音型が、内部奏法により切れ切れに聴こえる。第5曲「小さな『執拗なチャルダーシュ』」…フランツ・リストの後期作品と同様、目まぐるしくアナグラムされる7連符上で、軽やかな8連符が飛び跳ねる。第7曲「単一リズムのチャッコーナ」…16分の24拍子(3x2+4x3+6等)のリズムによるチャッコーナ(シャコンヌ)。
《7月14日の小玉花火》
ショット社長ペーター・ハンザー=シュトレッカーの70歳を記念して、26ヶ国・70人の所属作曲家に「我々の時代の舞曲」をテーマに新作ピアノ曲を委嘱した、《ペトルーシュカ・プロジェクト》の一環として作曲。なお、邦人作曲家への委嘱は、湯浅譲二《サーカス・ヴァリエーションから「ワルツ」》、一柳慧《ワルツ - 鹿爪》、細川俊夫《「舞」 - 日本の古代舞曲》、梁邦彦《詩的な舞曲》、権代敦彦《このキスを全世界に》の五人である。ハンザー=シュトレッカー社長の誕生日、7月14日はフランスの建国記念日(パリ祭)でもあり、景気の良い花火で祝われる。

1958年2月作曲、2004年出版。バルトークの助手を務めリゲティ・クルタークらを教えた後、1949年にスイスに亡命し、ベルン音楽院で長く教鞭を執ったハンガリー人作曲家、シャーンドル・ヴェレシュ(1907-1992)の強い影響下に書かれた、自称「若気の過ち」。当時のピアノ教師であったブルガリア人、サヴァ・サヴォフに献呈。第1楽章アレグロ、第2楽章コラール、第3楽章アレグロ・モルトからなり、第2楽章の代わりとして翌年書かれた小品《夜の音楽》は、ソナチネ全3楽章の後奏曲として演奏可能、とある。
《エリス - 三つの夜曲》
オーストリアの象徴派詩人、ゲオルク・トラークル(1887-1914)による、夢と死の間の「天国のように」純粋な存在、エリスの物語に基づく。第1曲《死の告知》…「エリスよ、ツグミが暗い森で叫ぶとき/お前は世を去る。」(『幼きエリスに』)、第2曲《死の恐怖と恩寵》…「青い鳩が/夜飲む凍みた汗は/エリスの水晶の額から滲み出たもの」(『エリス II』)、第3曲《昇天》…「金色の小舟(Kahn)は/さびしい空で、エリス、お前の心を揺り動かす」(『エリス I』)。
使用されるデーシー・ターラ(諸地方のターラ)は、第1曲「チャンドラ・ターラ」(月のターラ)・「チャンドラ・カラー」(月輪の1/16、各々は女神によって擬人化される)・「ヴィジャヤ」(勝利)、第2曲「カンカーラ」(骸骨)、第3曲「ラクシュミーシャー」(吉祥天)・「リーラー」(遊戯)・「トゥランガ・リーラー」(馬の遊戯)・「プラターパ・シェーカラ」(威力の絶頂)等。
曲集《こどものひかり》より〈黒白のヨーデル二重唱〉、〈ブルクドルフのブギウギ〉、〈ウサギとハリネズミ〉
原題《Chinderliecht(ヒンダーリーェヒト)》は、「こどものひかり」ならびに「こども用の小品」の両義を掛けたスイス方言である。副題は、「小さな、あるいは大きな子供のための小品集、語り・歌入り、2手独奏・4手連弾用」。ラッヘンマン《こどものあそび》と同じく、クルターク《あそび》のような体系的・教育的な曲集ではない。幾つかの曲で用いられている歌詞は、ベルン出身のチェロ奏者、トーマス&パトリック・デメンガ兄弟の姪であるミレーヴァ・デメンガが、幼少時代(6歳~10歳頃)に作ったものである(彼女は昨年バーゼル大学で哲学の学位を取ったとの由)。
〈黒白のヨーデル二重唱〉…左手が白鍵、右手が黒鍵でのんびりとヨーデルを歌う。その変奏〈中国人の羊飼いが聞こえましたか?-いいえ!-ではもう一回!〉では、左手は「雪山のアルペンホルンのように」、右手は「黒いパゴダの王女の踊りのように」、拍子をずらして奏される。〈ブルクドルフのブギウギ -またはブルガリアのブルクドルフ?〉…ブルクドルフはベルン市北東20kmにある町の名前。R(レ)・S(ミ♭)・C(ド)・H(シ)[=ロベルト・シューマン]+Mi(ミ)・D(レ)[=ミレーヴァ・デメンガ]の6音が、ブルガリア風の8分の5拍子上で駆け巡る。〈ウサギとハリネズミ〉…傲慢なウサギを智恵でやり込めるハリネズミ夫婦のグリム童話に基づく。作曲者の出身地、ランゲンタール(ベルンとバーゼルのほぼ中間)あたりの方言による弾き語り。曲の最後に、マーラー《巨人》の葬送行進曲が「ジャック・カロ風に」一瞬引用される。

1999年作曲。2001年9月12日(アメリカ同時多発テロ事件の翌日)、第51回ベルリン祝祭週間でアンドラーシュ・シフにより献呈初演。第1曲「前奏曲(内なる声)」…シューマン《フモレスケ 作品20》中盤に書き込まれた、演奏されない音符「内なる声(Innere Stimme)」が、ここでは無音で押さえられた鍵盤による倍音として、影のように寄り添う。第2曲「フーガ」…バッハやバルトークの無伴奏ヴァイオリン・ソナタと同様に、前奏曲の直後に置かれた3声のフーガ。第3曲「舟歌」…8分の12拍子でゆったりと開始した舟歌が、徐々に解体される。スコア劈頭にはヘルダーリン『ムネーモシュネー』の一節、「[われらは前のほうも後ろの方をも/見ようとはしない。] 波の動きに身をゆだねて/海に浮かんでゆらぐ小舟(Kahn)に乗っているように。」、曲の中盤には「ランボーと彼の『酔いどれ船』へのオマージュ」、と書き付けられている。第4曲「Sch.のためのスフィンクス(間奏曲1)」/第6曲「Sch.のためのスフィンクス(間奏曲2)」…シューマン(SCHumAnn)《謝肉祭~4つの音符による滑稽譚(SCHwAnk) 作品9》第9曲の前に置かれた無音のミ♭・ド・シ・ラ(あるいはラ♭・ド・シ)らしき音型が、内部奏法により切れ切れに聴こえる。第5曲「小さな『執拗なチャルダーシュ』」…フランツ・リストの後期作品と同様、目まぐるしくアナグラムされる7連符上で、軽やかな8連符が飛び跳ねる。第7曲「単一リズムのチャッコーナ」…16分の24拍子(3x2+4x3+6等)のリズムによるチャッコーナ(シャコンヌ)。
《7月14日の小玉花火》
ショット社長ペーター・ハンザー=シュトレッカーの70歳を記念して、26ヶ国・70人の所属作曲家に「我々の時代の舞曲」をテーマに新作ピアノ曲を委嘱した、《ペトルーシュカ・プロジェクト》の一環として作曲。なお、邦人作曲家への委嘱は、湯浅譲二《サーカス・ヴァリエーションから「ワルツ」》、一柳慧《ワルツ - 鹿爪》、細川俊夫《「舞」 - 日本の古代舞曲》、梁邦彦《詩的な舞曲》、権代敦彦《このキスを全世界に》の五人である。ハンザー=シュトレッカー社長の誕生日、7月14日はフランスの建国記念日(パリ祭)でもあり、景気の良い花火で祝われる。