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リサイタル・シリーズ 《ピアノで弾くバッハ Bach, ripieno di Pianoforte》第3回公演
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2013年4月20日(土)15時開演 (14時半開場)
タカギクラヴィア松濤サロン (東京都渋谷区松濤1-26-4 Tel. 03-3770-9611)
最寄駅/JR・東横線・地下鉄「渋谷駅」より徒歩10分、京王井の頭線「神泉駅」より徒歩3分
■J.S.バッハ:六つのパルティータ BWV825-830 [NY Steinwayによる演奏]
第1番変ロ長調 BWV 825
前奏曲 - アルマンド - クーラント - サラバンド - メヌエット I & II - ジガ
第2番ハ短調 BWV826
シンフォニア - アルマンド - クーラント - サラバンド - ロンドー - カプリチオ
第3番イ短調 BWV827
ファンタジア - アルマンド - コレンテ - サラバンド - ブルレスカ - スケルツォ - ジーグ
第4番ニ長調 BWV828
序曲 - アルマンド - クーラント - アリア - サラバンド - メヌエット - ジーグ
第5番ト長調 BWV829
前奏曲 - アルマンド - コレンテ - サラバンド - テンポ・ディ・メヌエット - パスピエ - ジーグ
第6番ホ短調 BWV830
トッカータ - アルマンド - コレンテ - エアー - サラバンド - テンポ・ディ・ガヴォッタ - ジーグ

この10年ほど、バッハ主要鍵盤作品はピアノではなくチェンバロ・クラヴィコード・オルガンで演奏してきました。モーツァルト・ベートーヴェン・シューベルトについては各種フォルテピアノで嗜んだ結果、近現代曲以外をスタインウェイで弾きたいとは思わなくなりました。
一方、現代の平均的聴衆にとって、いまだにチェンバロよりピアノの音色のほうが、遥かに耳になじむようです。一昨年秋にクセナキス作品によるリサイタルを行った際、ピアノ曲で身を乗り出していた聴衆が、次のチェンバロ独奏曲(電気増幅付)で爆睡していたと聞き、がっくり来ました。武満徹《ノヴェンバー・ステップス》にしても、尺八と琵琶の響きを、その都度オーケストラ(ripieno)が解説するような造りでなければ、欧米であれほど評価されなかったのかもしれません。
ヒストリカルのクラヴィコードで《平均律》や《フーガの技法》を弾くのは至難ですが、しかしあくまでそれは「不可欠な努力」です。ところが、帯に短いのみならずタスキにも長すぎる現代のピアノでは、歴史上存在し得なかった「不必要な労苦」を強いられます。
古楽器奏者にとっては、現代のピアノは異形の詰め物(ripieno)に他なりません。交差弦の響きをさらに不如意に混濁させるペダル使用は避けたい、でも室内サロンだと音色に味もシャシャリも無くなる、素敵な装飾指定は生かしたいが減衰が遅いので身振りが鈍重になってしまう、古楽器を超える強弱差はつけたくないがそうすると平べったくなりがち、ゆっくりした短調楽章では激鬱に弾かないと音楽的と思ってもらえない、だからといってアレンジ系メシマズは絶対いや、等々、悩みは尽きません。「『女湯に入りたい』と思った瞬間から、男の子はもう入ってはいけない」、という喩えに倣えば、「ピアノでバッハを弾きたく無い奏者だけが、ピアノでバッハを弾く資格がある(でも弾きたくない)」、ということになるでしょうか。
“Clavier-Übung”(クラヴィーア練習曲集)全4巻は、生前のバッハが自費で世に送り出した唯一の大作です。バッハが世間に自分のことをどう思って欲しかったかを示唆する音楽、とも言えるでしょう。Clavierとは当時の鍵盤楽器一般を指す語で、Übungとは精神的な面までも含めた探求・修行を意味しています。
その第1巻(1731年出版)にあたるのが、本日演奏する1段鍵盤楽器のための6つのパルティータ(組曲)です。舞曲構成、鍵盤書法、形式枠、様式間のコントラストなど、当時としては前衛的といって良いほどの大胆さを見せています。続く第2巻(1735年出版)は2段鍵盤のための「イタリア風協奏曲」と「フランス風序曲」、第3巻(1739年出版)がオルガンのための「ドイツ・オルガン・ミサ」(2段鍵盤+足鍵盤)、そして第4巻(1741年出版)が「ゴルトベルク変奏曲」です。
これらのバッハ作品を現代のピアノ(Klavier)で演奏することは、図らずも、正解の見つからない鍵盤修行(Clavier-Übung)と言えるかもしれません。
●お問い合わせ/(株)オカムラ&カンパニー tel 03-6804-7490(10:00~18:00 土日祝休) fax 03-6804-7489 info@okamura-co.com
http://okamura-co.com/ja/events/piano-axis/
※タカギクラヴィアに直接チケットを申し込むと、隣接のカフェ(http://www.cafetakagiklavier.com/cafe_f.html)のドリンク券がつきます
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【2012年度(終了)】
2012年4月21日(土)平均律クラヴィア曲集第1巻(全24曲)
2012年7月28日(土)平均律クラヴィア曲集第2巻(全24曲)
2012年11月3日(土)シュトックハウゼン:自然の持続時間(全24曲)
【2013年度予定】
2013年4月20日(土)15時 パルティータ全6曲
2013年7月27日(土)15時 ゴルトベルク変奏曲、フランス序曲、イタリア協奏曲
2014年1月25日(土)15時 イギリス組曲全6曲
【2014年度予定】
⑥フランス組曲全6曲
⑦4つのデュエット、インヴェンション、最愛の兄のカプリッチョ、半音階的幻想曲とフーガ他
⑧フーガの技法&音楽の捧げ物
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[批評] 大井浩明「ピアノで弾くバッハ」第1回・第2回
http://d.hatena.ne.jp/Gebirgsbach/20121203/
【第1回】
鍵盤楽器奏者の大井浩明は近年、18世紀以前の楽曲では古典鍵盤楽器を用いることを旨としてきた。このたびはそこから一歩踏み出し、ピアノでバッハに取り組む。この日は《平均律クラヴィーア曲集第1巻》。そこで展開されるのは19世紀的なバッハ演奏のおさらいではなく、18世紀音楽にとっては足枷である現代楽器でいかにバッハの「芯」に迫るか、という試みだ。
大井にかかるとそれは単なる抽象論ではなく、徹頭徹尾、具体的な演奏法として現れてくる。たとえば、同じ音型の繰り返しに句読点をきちんと付けていく。19世紀的な演奏ならそんな場面を一息で歌いきってしまおうとするだろう。句読点1つで大井は、18世紀と19世紀との間に横たわる「時間の分節感覚」の違いを表現した。
この日は室温や調律に思わぬトラブルも発生したようだが、今後の演奏会では楽器や環境も最適化されることだろう。このシリーズへの期待が否応なく高まる。(4月21日タカギクラヴィア松濤サロン) [初出:音楽現代 2012年7月号]
【第2回】
鍵盤楽器奏者・大井浩明のバッハ「平均律クラヴィーア曲集」と言えば、クラヴィコードでの演奏が良く知られている。このたびは、その対極とも言えるモダンピアノでバッハに取り組む。この日は第2巻の全曲演奏。4月の第1巻に続き、大井が「異形の詰め物」と呼ぶスタインウェイのグランドピアノで、18世紀音楽に迫る。
その成功を確かなものにしたのは第9番「ホ長調」から第12番「へ短調」へと続く4曲だ。ここでは、調和を重んじる16世紀のルネサンス様式から、感情の素直な発露を目指す18世紀の多感様式までが顔を出す。それらを彩るのはクラヴィコード、オルガン、チェンバロ、フォルテピアノの各楽器を思わせる多彩な書法だ。こうしたスタイルの歴史性、楽器の音色の多様性が演奏として花開いたのも、大井浩明とモダンピアノという取り合わせがあってこそ。作曲家・楽器・演奏者のもっとも現代的で価値ある出会いが実現した。(7月28日 タカギクラヴィア松濤サロン) [初出:モーストリー・クラシック 2012年10月号]
※クラヴィコードによるバッハ:六つのパルティータ公演(2013年2月・京都)感想集
http://togetter.com/li/453542 http://dsch1906.exblog.jp/19251573/
リサイタル・シリーズ 《ピアノで弾くバッハ Bach, ripieno di Pianoforte》第3回公演
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2013年4月20日(土)15時開演 (14時半開場)
タカギクラヴィア松濤サロン (東京都渋谷区松濤1-26-4 Tel. 03-3770-9611)
最寄駅/JR・東横線・地下鉄「渋谷駅」より徒歩10分、京王井の頭線「神泉駅」より徒歩3分
■J.S.バッハ:六つのパルティータ BWV825-830 [NY Steinwayによる演奏]
第1番変ロ長調 BWV 825
前奏曲 - アルマンド - クーラント - サラバンド - メヌエット I & II - ジガ
第2番ハ短調 BWV826
シンフォニア - アルマンド - クーラント - サラバンド - ロンドー - カプリチオ
第3番イ短調 BWV827
ファンタジア - アルマンド - コレンテ - サラバンド - ブルレスカ - スケルツォ - ジーグ
第4番ニ長調 BWV828
序曲 - アルマンド - クーラント - アリア - サラバンド - メヌエット - ジーグ
第5番ト長調 BWV829
前奏曲 - アルマンド - コレンテ - サラバンド - テンポ・ディ・メヌエット - パスピエ - ジーグ
第6番ホ短調 BWV830
トッカータ - アルマンド - コレンテ - エアー - サラバンド - テンポ・ディ・ガヴォッタ - ジーグ

この10年ほど、バッハ主要鍵盤作品はピアノではなくチェンバロ・クラヴィコード・オルガンで演奏してきました。モーツァルト・ベートーヴェン・シューベルトについては各種フォルテピアノで嗜んだ結果、近現代曲以外をスタインウェイで弾きたいとは思わなくなりました。
一方、現代の平均的聴衆にとって、いまだにチェンバロよりピアノの音色のほうが、遥かに耳になじむようです。一昨年秋にクセナキス作品によるリサイタルを行った際、ピアノ曲で身を乗り出していた聴衆が、次のチェンバロ独奏曲(電気増幅付)で爆睡していたと聞き、がっくり来ました。武満徹《ノヴェンバー・ステップス》にしても、尺八と琵琶の響きを、その都度オーケストラ(ripieno)が解説するような造りでなければ、欧米であれほど評価されなかったのかもしれません。
ヒストリカルのクラヴィコードで《平均律》や《フーガの技法》を弾くのは至難ですが、しかしあくまでそれは「不可欠な努力」です。ところが、帯に短いのみならずタスキにも長すぎる現代のピアノでは、歴史上存在し得なかった「不必要な労苦」を強いられます。

“Clavier-Übung”(クラヴィーア練習曲集)全4巻は、生前のバッハが自費で世に送り出した唯一の大作です。バッハが世間に自分のことをどう思って欲しかったかを示唆する音楽、とも言えるでしょう。Clavierとは当時の鍵盤楽器一般を指す語で、Übungとは精神的な面までも含めた探求・修行を意味しています。
その第1巻(1731年出版)にあたるのが、本日演奏する1段鍵盤楽器のための6つのパルティータ(組曲)です。舞曲構成、鍵盤書法、形式枠、様式間のコントラストなど、当時としては前衛的といって良いほどの大胆さを見せています。続く第2巻(1735年出版)は2段鍵盤のための「イタリア風協奏曲」と「フランス風序曲」、第3巻(1739年出版)がオルガンのための「ドイツ・オルガン・ミサ」(2段鍵盤+足鍵盤)、そして第4巻(1741年出版)が「ゴルトベルク変奏曲」です。
これらのバッハ作品を現代のピアノ(Klavier)で演奏することは、図らずも、正解の見つからない鍵盤修行(Clavier-Übung)と言えるかもしれません。
●お問い合わせ/(株)オカムラ&カンパニー tel 03-6804-7490(10:00~18:00 土日祝休) fax 03-6804-7489 info@okamura-co.com
http://okamura-co.com/ja/events/piano-axis/
※タカギクラヴィアに直接チケットを申し込むと、隣接のカフェ(http://www.cafetakagiklavier.com/cafe_f.html)のドリンク券がつきます
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【2012年度(終了)】
2012年4月21日(土)平均律クラヴィア曲集第1巻(全24曲)
2012年7月28日(土)平均律クラヴィア曲集第2巻(全24曲)
2012年11月3日(土)シュトックハウゼン:自然の持続時間(全24曲)
【2013年度予定】
2013年4月20日(土)15時 パルティータ全6曲
2013年7月27日(土)15時 ゴルトベルク変奏曲、フランス序曲、イタリア協奏曲
2014年1月25日(土)15時 イギリス組曲全6曲
【2014年度予定】
⑥フランス組曲全6曲
⑦4つのデュエット、インヴェンション、最愛の兄のカプリッチョ、半音階的幻想曲とフーガ他
⑧フーガの技法&音楽の捧げ物
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[批評] 大井浩明「ピアノで弾くバッハ」第1回・第2回
http://d.hatena.ne.jp/Gebirgsbach/20121203/
【第1回】
鍵盤楽器奏者の大井浩明は近年、18世紀以前の楽曲では古典鍵盤楽器を用いることを旨としてきた。このたびはそこから一歩踏み出し、ピアノでバッハに取り組む。この日は《平均律クラヴィーア曲集第1巻》。そこで展開されるのは19世紀的なバッハ演奏のおさらいではなく、18世紀音楽にとっては足枷である現代楽器でいかにバッハの「芯」に迫るか、という試みだ。
大井にかかるとそれは単なる抽象論ではなく、徹頭徹尾、具体的な演奏法として現れてくる。たとえば、同じ音型の繰り返しに句読点をきちんと付けていく。19世紀的な演奏ならそんな場面を一息で歌いきってしまおうとするだろう。句読点1つで大井は、18世紀と19世紀との間に横たわる「時間の分節感覚」の違いを表現した。
この日は室温や調律に思わぬトラブルも発生したようだが、今後の演奏会では楽器や環境も最適化されることだろう。このシリーズへの期待が否応なく高まる。(4月21日タカギクラヴィア松濤サロン) [初出:音楽現代 2012年7月号]
【第2回】
鍵盤楽器奏者・大井浩明のバッハ「平均律クラヴィーア曲集」と言えば、クラヴィコードでの演奏が良く知られている。このたびは、その対極とも言えるモダンピアノでバッハに取り組む。この日は第2巻の全曲演奏。4月の第1巻に続き、大井が「異形の詰め物」と呼ぶスタインウェイのグランドピアノで、18世紀音楽に迫る。
その成功を確かなものにしたのは第9番「ホ長調」から第12番「へ短調」へと続く4曲だ。ここでは、調和を重んじる16世紀のルネサンス様式から、感情の素直な発露を目指す18世紀の多感様式までが顔を出す。それらを彩るのはクラヴィコード、オルガン、チェンバロ、フォルテピアノの各楽器を思わせる多彩な書法だ。こうしたスタイルの歴史性、楽器の音色の多様性が演奏として花開いたのも、大井浩明とモダンピアノという取り合わせがあってこそ。作曲家・楽器・演奏者のもっとも現代的で価値ある出会いが実現した。(7月28日 タカギクラヴィア松濤サロン) [初出:モーストリー・クラシック 2012年10月号]
※クラヴィコードによるバッハ:六つのパルティータ公演(2013年2月・京都)感想集
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