第1回・第2回公演 感想まとめ等: http://togetter.com/li/568921
ベートーヴェン:ピアノソナタ全32曲連続演奏会(全8回)
~様式別・時代順のフォルテピアノ(古楽器)による~
淀橋教会・小原記念チャペル(東京都新宿区百人町1-17-8)
JR総武線・大久保駅「北口」下車徒歩1分、JR山手線・新大久保駅下車徒歩3分
3000円(全自由席) [3公演パスポート8000円 5公演パスポート13000円]
【お問合せ】 合同会社opus55 Tel 03(3377)4706 (13時~19時/水木休) Fax 03 (3377)4170 (24時間受付) http://www.opus55.jp/
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「ブルージュ古楽コンクールで、なぜか現代曲が予選課題になり、参加者が激減した」、という噂を聞いたのは3年前のことです。キャリアアップを放棄するほど現代曲が嫌いなのか、と残念に思いました。ところが今年夏、「ブルージュの予選曲が、ついに図形楽譜になった」と知り、コンクール当局の鼻息に驚きました。
噂の真偽を検証すべく、実際の参加者数を調べてもらいました。フォルテピアノ部門の推移は以下の通りです(カッコ内は日本人): 1992年30人(3人)、1995年26人(5人)、1998年29人(4人)、2001年33人(5人)、2004年52人(13人)、2007年41人(9人)、2010年24人(7人)、2013年30人(6人)。
確かに2010年で激減してました。この年に課題曲となったのは、ベルギー人作曲家アネリス・ファン・パレス(1975- )による委嘱新作。今年(2013年)は第2次予選で、あろうことか、クリスチャン・ウルフ(1934- )《一人、二人、あるいは三人のために》(1964)とコーネリアス・カーデュー(1936-1981)《メモリーズ・オブ・ユー》(1964)のいずれかを、5オクターヴの初期フォルテピアノで弾かせた由(ただし「約5分程度で」)。文章と図形の指示による不確定作品が指定される事は、現代音楽コンクールでも前代未聞ですが、「奏法がよく分からないものに挑む」という点で、古楽コンクールの予選課題にはぴったり、とも言えます。2010年にくらべて、2013年の参加人数がやや盛り返しているのも興味深い。
1964年創設、半世紀の歴史を誇る古楽コンクールで、現代曲が課題となったのは2009年のオルガン部門、ベルギー人作曲家フランク・ニュイツ(1957- )が初めてでした。もっとも、早くも1974年の時点で、G.リゲティへ委嘱する、という話はあったそうです。チェンバロ独奏のための《連続体(コンティヌウム)》は1968年作曲、1970年出版。クープラン《ティク・トク・ショク》とバッハ《幻想曲BWV572》の翻案とは言え、流石に古楽器学生には荷が重過ぎるでしょう。その後、1978年に書かれた《ハンガリー風ロック》《ハンガリー風パッサカリア》の二作は、ずっと取っ付き易い。ストラーチェやモンテヴェルディといった初期イタリア・バロックのチャコーナを模した、陽気な4小節単位のオスティナート音型(8分の2+2+3+2拍子)の上下に、技巧的なディミニューションが飛び交う前者はそこそこ厄介ですが、一方、中全音律における8つの純正な長3度と短6度の音程が、パッヘルベルのカノンと同様にパッサカリアとして繰り返される後者は、古楽学生にもuser-friendlyでしょう。
(※)オランダでは、「全て1960年以降に作曲された」現代曲に特化したチェンバロ演奏コンクールも既に存在しているそうです(http://www.admf.nl/NL/competition.html)。

5年前に京都で開催したベートーヴェン・シリーズでは、「各々のソナタを書いていたベートーヴェンと(ほぼ)同年齢」の若手作曲家に、「各々のソナタを書いた際にベートーヴェンが使用・想定していた型のフォルテピアノ」のための新作を委嘱しました。少年時代のベートーヴェンが親しんだ楽器は、まずはクラヴィコードやチェンバロ、それにオルガンを少しで、新発明のフォルテピアノに触れられたのは彼が10代半ばを過ぎてからです。フォルテピアノの音域・ペダル・アクションの変遷は、その都度ベートーヴェンに少なからぬ霊感を生ぜしめましたが、新作委嘱はその歴史的再現、というわけです。
モダン・チェンバロとは隔絶した音色を持つヒストリカル・モデルのチェンバロが登場したのが1950年代前半、フォルテピアノやクラヴィコードはそれに遅れること20~30年、奏法開拓やコンセンサスの拡がりにはさらにタイムラグがあり、まだまだ「美しい古楽器の音色」が人口に膾炙しているとは言えません。フォルテピアノのための新作をお願いした作曲家の方々にとっても、例えばシュタインやワルターの玲瓏たる音色は、当時のベートーヴェンと同様、「未知」のものだったようです。未知の響きであるがゆえに、ベートーヴェンはモーツァルト・ハイドン的書法と遠慮なく手を切ることが出来ました。現代作品初演の現場で、作曲家からのリクエストを実現するために、古楽奏法のあの手この手を援用したことはありましたが、意外にも、委嘱作曲家の何人かは「モダン・ピアノより初期フォルテピアノの音色のほうが好き(になった)」、と漏らしておられました。
もっとも、フォルテピアノはそれでもモダン・ピアノと相当似通っているので、まだアプローチがしやすい方かもしれません。私の三弦の師匠は、往時に膨大な量の「12音」の曲をやらされウンザリしたそうで、「楽器のことが分かっているのは牧野由多可 と小山清茂だけだ」、と述懐なさってました(是々非々)。私の笙のお師匠さんは、某現代曲について「笙が嫌がって悲鳴をあげている」、と形容しておられました。ことほどさように、古楽器/伝統楽器の扱いは難儀です。
フォルテピアノのための新作を書くにあたり、注目に値するアプローチを見せてくれたのが鈴木光介さんです。ベートーベンと違うタイプの曲を目指し、ある種の「箸休め的」な音楽を作るより、ベートーベンと同じベクトルで切り結ぶような関係が作れないか。自分はアカデミックな作曲法を知らない、ベートーベンのような音楽をゼロから作ることは出来ない。自分で考えるフレーズには限界がある。ということを踏まえて、なにか、自動的に不思議なフレーズを作りたい。しかも、「現代音楽っぽい」ものにしたくない。もっとポップなものにしたい。素材はいわば何でも良かったので、ベートーベンの偉業をひとまず借用することにした。今は便利な時代で、「ベートーベン ピアノソナタ MIDI」で検索すれば、MIDIデータが簡単に手に入る。それを用いて、ソナタのフレーズを自由に編集することで新たな音楽を模索してみた、・・・と。
手法としてはコラージュあるいはカットアップと呼ばれるものですが、切り刻み方と編集手法が容赦無いため(そこにこそ独創性が現れる)、中々にユニークな結果となりました。小道を散歩してたら、いつの間にか既視感を感じつつ変な場所に出てきてしまった鬼胎。まさに現代日本文化の面目躍如です。この鈴木光介作品を練習中に、余りの複雑さに目の焦点が合わなくなり、防音スタジオの分厚い扉の取っ手で小指を押し潰しそうになりました。「ベートーヴェン以外の原料は一切使用してない」こともあり、是非、ブルージュでも活用して頂きたいところです。(H.O.)
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【次回公演予告】
2013年(平成25年)------------------
■第4回 11月4日(月・祝)19時 ソナタ第12~15番 [作品26《葬送》、27-1《幻想曲風》、27-2《月光》、28《田園》]
■第5回 12月6日(金)19時 ソナタ第16~18、21番 [作品31-1, 31-2《テンペスト》, 31-3, 53《ワルトシュタイン》]
2014年(平成26年)------------------
■第6回 1月17日(金)19時 ソナタ第22~26番 [作品54, 57《熱情》、78《テレーゼ》、79《かっこう》、81a《告別》]
■第7回 2月14日(金)19時 ソナタ第27~29番 [作品90, 101, 106《ハンマークラヴィア》]
■最終回 3月21日(金・祝)19時 ソナタ第30~32番 [作品109, 110, 111]
各回19時開演/18時30分開場
3000円(全自由席) [3公演パスポート8000円 5公演パスポート13000円]
お問合せ 合同会社opus55 http://www.opus55.jp/
Tel 03(3377)4706 (13時~19時/水木休) Fax 03 (3377)4170 (24時間受付)
【関連公演】
■2014年3月5日(水)20時 カフェ・モンタージュ(京都) 《クラヴィコードによる1780年代》
L.v.ベートーヴェン:3つの選帝侯ソナタWoO47 (1782/83)、全ての長調にわたる2つの前奏曲 Op.39(1789)
C.P.E.バッハ:幻想曲嬰ヘ短調「C.P.E. バッハの情念」H300/Wq.67 (1787)
W.A.モーツァルト:幻想曲 ニ短調 KV397(385g) (1782)、ロンド イ短調 KV511 (1787)、アダージョ ロ短調 KV540 (1788)
(以上クラヴィコード独奏)
お問い合わせ: カフェ・モンタージュ tel 075-744-1070 www.cafe-montage.com
ベートーヴェン:ピアノソナタ全32曲連続演奏会(全8回)
~様式別・時代順のフォルテピアノ(古楽器)による~
淀橋教会・小原記念チャペル(東京都新宿区百人町1-17-8)
JR総武線・大久保駅「北口」下車徒歩1分、JR山手線・新大久保駅下車徒歩3分
3000円(全自由席) [3公演パスポート8000円 5公演パスポート13000円]
【お問合せ】 合同会社opus55 Tel 03(3377)4706 (13時~19時/水木休) Fax 03 (3377)4170 (24時間受付) http://www.opus55.jp/
第三回公演
2013年10月14日(月・祝)19時/淀橋教会・小原記念チャペル
使用楽器 アントン・ヴァルター(1790年頃、FF-f3)
[A=430Hz、1/6ヴァロッティ不等分律]
調律 太田垣至
〈ピアノ=フォルテのための大ソナタ、
ロシア帝国陸軍旅団准将デ・ブロウネ伯爵閣下へ、
ルイ・ヴァン・ベートーヴェンにより作曲献呈、作品22〉
[演奏曲目]
■ ソナタ第19番ト短調Op.49-1(1797)[全2楽章](ソナチネ)
Andante - Rondo: Allegro
■ ソナタ第20番ト長調Op.49-2(1796)[全2楽章](ソナチネ)
Allegro, ma non troppo - Tempo di Menuetto
■ ソナタ第9番ホ長調Op.14-1(1798)[全3楽章]
Allegro - Allegretto - Rondo: Allegro comodo
(休憩15分)
■ ソナタ第10番ト長調Op.14-2(1799)[全3楽章]
Allegro - Andante - Scherzo: Allegro assai
■ ソナタ第11番変ロ長調Op.22(1799/1800)[全4楽章]
Allegro con brio - Adagio con molta espressione - Menuetto - Rondo: Allegretto
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噂の真偽を検証すべく、実際の参加者数を調べてもらいました。フォルテピアノ部門の推移は以下の通りです(カッコ内は日本人): 1992年30人(3人)、1995年26人(5人)、1998年29人(4人)、2001年33人(5人)、2004年52人(13人)、2007年41人(9人)、2010年24人(7人)、2013年30人(6人)。
確かに2010年で激減してました。この年に課題曲となったのは、ベルギー人作曲家アネリス・ファン・パレス(1975- )による委嘱新作。今年(2013年)は第2次予選で、あろうことか、クリスチャン・ウルフ(1934- )《一人、二人、あるいは三人のために》(1964)とコーネリアス・カーデュー(1936-1981)《メモリーズ・オブ・ユー》(1964)のいずれかを、5オクターヴの初期フォルテピアノで弾かせた由(ただし「約5分程度で」)。文章と図形の指示による不確定作品が指定される事は、現代音楽コンクールでも前代未聞ですが、「奏法がよく分からないものに挑む」という点で、古楽コンクールの予選課題にはぴったり、とも言えます。2010年にくらべて、2013年の参加人数がやや盛り返しているのも興味深い。
1964年創設、半世紀の歴史を誇る古楽コンクールで、現代曲が課題となったのは2009年のオルガン部門、ベルギー人作曲家フランク・ニュイツ(1957- )が初めてでした。もっとも、早くも1974年の時点で、G.リゲティへ委嘱する、という話はあったそうです。チェンバロ独奏のための《連続体(コンティヌウム)》は1968年作曲、1970年出版。クープラン《ティク・トク・ショク》とバッハ《幻想曲BWV572》の翻案とは言え、流石に古楽器学生には荷が重過ぎるでしょう。その後、1978年に書かれた《ハンガリー風ロック》《ハンガリー風パッサカリア》の二作は、ずっと取っ付き易い。ストラーチェやモンテヴェルディといった初期イタリア・バロックのチャコーナを模した、陽気な4小節単位のオスティナート音型(8分の2+2+3+2拍子)の上下に、技巧的なディミニューションが飛び交う前者はそこそこ厄介ですが、一方、中全音律における8つの純正な長3度と短6度の音程が、パッヘルベルのカノンと同様にパッサカリアとして繰り返される後者は、古楽学生にもuser-friendlyでしょう。
(※)オランダでは、「全て1960年以降に作曲された」現代曲に特化したチェンバロ演奏コンクールも既に存在しているそうです(http://www.admf.nl/NL/competition.html)。

5年前に京都で開催したベートーヴェン・シリーズでは、「各々のソナタを書いていたベートーヴェンと(ほぼ)同年齢」の若手作曲家に、「各々のソナタを書いた際にベートーヴェンが使用・想定していた型のフォルテピアノ」のための新作を委嘱しました。少年時代のベートーヴェンが親しんだ楽器は、まずはクラヴィコードやチェンバロ、それにオルガンを少しで、新発明のフォルテピアノに触れられたのは彼が10代半ばを過ぎてからです。フォルテピアノの音域・ペダル・アクションの変遷は、その都度ベートーヴェンに少なからぬ霊感を生ぜしめましたが、新作委嘱はその歴史的再現、というわけです。
モダン・チェンバロとは隔絶した音色を持つヒストリカル・モデルのチェンバロが登場したのが1950年代前半、フォルテピアノやクラヴィコードはそれに遅れること20~30年、奏法開拓やコンセンサスの拡がりにはさらにタイムラグがあり、まだまだ「美しい古楽器の音色」が人口に膾炙しているとは言えません。フォルテピアノのための新作をお願いした作曲家の方々にとっても、例えばシュタインやワルターの玲瓏たる音色は、当時のベートーヴェンと同様、「未知」のものだったようです。未知の響きであるがゆえに、ベートーヴェンはモーツァルト・ハイドン的書法と遠慮なく手を切ることが出来ました。現代作品初演の現場で、作曲家からのリクエストを実現するために、古楽奏法のあの手この手を援用したことはありましたが、意外にも、委嘱作曲家の何人かは「モダン・ピアノより初期フォルテピアノの音色のほうが好き(になった)」、と漏らしておられました。
もっとも、フォルテピアノはそれでもモダン・ピアノと相当似通っているので、まだアプローチがしやすい方かもしれません。私の三弦の師匠は、往時に膨大な量の「12音」の曲をやらされウンザリしたそうで、「楽器のことが分かっているのは牧野由多可 と小山清茂だけだ」、と述懐なさってました(是々非々)。私の笙のお師匠さんは、某現代曲について「笙が嫌がって悲鳴をあげている」、と形容しておられました。ことほどさように、古楽器/伝統楽器の扱いは難儀です。

手法としてはコラージュあるいはカットアップと呼ばれるものですが、切り刻み方と編集手法が容赦無いため(そこにこそ独創性が現れる)、中々にユニークな結果となりました。小道を散歩してたら、いつの間にか既視感を感じつつ変な場所に出てきてしまった鬼胎。まさに現代日本文化の面目躍如です。この鈴木光介作品を練習中に、余りの複雑さに目の焦点が合わなくなり、防音スタジオの分厚い扉の取っ手で小指を押し潰しそうになりました。「ベートーヴェン以外の原料は一切使用してない」こともあり、是非、ブルージュでも活用して頂きたいところです。(H.O.)
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【次回公演予告】
2013年(平成25年)------------------
■第4回 11月4日(月・祝)19時 ソナタ第12~15番 [作品26《葬送》、27-1《幻想曲風》、27-2《月光》、28《田園》]
■第5回 12月6日(金)19時 ソナタ第16~18、21番 [作品31-1, 31-2《テンペスト》, 31-3, 53《ワルトシュタイン》]
2014年(平成26年)------------------
■第6回 1月17日(金)19時 ソナタ第22~26番 [作品54, 57《熱情》、78《テレーゼ》、79《かっこう》、81a《告別》]
■第7回 2月14日(金)19時 ソナタ第27~29番 [作品90, 101, 106《ハンマークラヴィア》]
■最終回 3月21日(金・祝)19時 ソナタ第30~32番 [作品109, 110, 111]
各回19時開演/18時30分開場
3000円(全自由席) [3公演パスポート8000円 5公演パスポート13000円]
お問合せ 合同会社opus55 http://www.opus55.jp/
Tel 03(3377)4706 (13時~19時/水木休) Fax 03 (3377)4170 (24時間受付)
【関連公演】
■2014年3月5日(水)20時 カフェ・モンタージュ(京都) 《クラヴィコードによる1780年代》
L.v.ベートーヴェン:3つの選帝侯ソナタWoO47 (1782/83)、全ての長調にわたる2つの前奏曲 Op.39(1789)
C.P.E.バッハ:幻想曲嬰ヘ短調「C.P.E. バッハの情念」H300/Wq.67 (1787)
W.A.モーツァルト:幻想曲 ニ短調 KV397(385g) (1782)、ロンド イ短調 KV511 (1787)、アダージョ ロ短調 KV540 (1788)
(以上クラヴィコード独奏)
お問い合わせ: カフェ・モンタージュ tel 075-744-1070 www.cafe-montage.com