(増補)第1回~第5回公演 感想まとめ等: http://togetter.com/li/568921

ベートーヴェン:ピアノソナタ全32曲連続演奏会(全8回)
~様式別・時代順のフォルテピアノ(古楽器)による~
淀橋教会・小原記念チャペル(東京都新宿区百人町1-17-8)
JR総武線・大久保駅「北口」下車徒歩1分、JR山手線・新大久保駅下車徒歩3分
3000円(全自由席) [3公演パスポート8000円]
【お問合せ】 合同会社opus55 Tel 03(3377)4706 (13時~19時/水木休) Fax 03 (3377)4170 (24時間受付) http://www.opus55.jp/
英国から見るピアノ史 ――― 明石拓爾
英国は南ドイツ・ウィーンと並んで最初にピアノ文化が花開いた地域だった。その黎明期から1800年ごろまでのピアノ製作史を概観してみたい。
イギリスに最初にピアノフォルテが登場したのは1740年代と考えられている。音楽家チャールズ・バーニーが記録している一台は、イタリアから輸入されたもので、当時の音楽家、音楽愛好家、製作家の間で話題を呼んだが、まだ小さい動きだった。
1759年、長年英国音楽界に君臨したヘンデルが亡くなると、音楽界全体がひとつの転機を迎える。新しい趣味を代表する音楽家の一人が1762年にイタリアからやってきた大バッハの末の息子、ヨハン・クリスティアン・バッハである。J.C.バッハの到着を契機にイギリスでピアノフォルテの開発競争が始まった。
最初に成功を収めたのは、1766年にスクエアピアノを開発発売したヨハン・ツンペである。ごく単純なアクションを持ち、安価でコンパクトながら必要十分な音楽性能を備えたこの楽器は、有力な音楽家たちに支持され、音楽好きの淑女たちの間で爆発的な人気を得る。
イギリスで出版される鍵盤曲の楽譜では、それまでの「ハープシコードのための」という文言が、10年以内に軒並み「ハープシコードまたはピアノ・フォルテのための」に置き換わった。この場合「ピアノ・フォルテ」は明らかに四角くて小さいスクエアピアノを指しているのである。
一方グランドピアノの分野で最も成功したのはオランダ出身のアメリカス・バッカースである。1770年頃バッカースが新たに開発したエスケープメント付きアクションは、同時代に南ドイツでシュタインが開発した「ウィーン式アクション」と対比して「イギリス式グランドアクション」と呼ばれ、20世紀初頭まで100年以上にわたって愛用されることになる。
最初期のピアノフォルテ製作は、中小の製作工房による一種のベンチャー産業だった。スクエア型にしろグランド型にしろ、1780年代まで各工房により様々なアクションやストップが試みられ、多様で個性的な楽器が製作された。
ここにハープシコードのトップメーカー、ジョン・ブロードウッドが参入したのは1780年頃のことである。大工房ブロードウッドはよりシンプルで安価な独自仕様のスクエアピアノを発売し、また1785年頃からはバッカースのピアノベースにしたグランドピアノの生産を始め、大成功を収める。
1790年代に入るとグランドピアノはその仕様が急速に標準化され、各工房からはブロードウッドとほとんど見かけも性能も変わらないピアノが生産されるようになる。1800年頃の仕様は、5.5オクターブの音域、バッカースのアクションと一音あたり3本の弦、ダンパーペダルとウナコルダペダル、というものだった。今回のコンサートで使用されるジョーンズ・ラウンドもそうしたピアノの一つである。
スクエアピアノも標準化が進んだが、速度はより穏やかだった。ロンドン最大の総合音楽商社であったロングマン&ブロドリップ社はヨハン・ガイブ開発のエスケープメントアクション(1786年)など新技術を積極的に取り入れたスクエアピアノを発売し支持される。1800年頃には各工房でエスケープメントアクション、一音当たり2本の弦、5.5オクターブの音域とダンパーペダルという仕様にほぼ標準化される。しかしシンプルなツンペ・アクションも1810年ごろまで使用されていた。 ロングマン&ブロドリップ社は1798年破産、大ピアニストで作曲家のムツィオ・クレメンティが経営に乗り出し見事に再建し、クレメンティ社として独自の工房でピアノの生産を始める。
これまでイギリス、とくに古典派時代は音楽史に登場する機会の少ない地域だった。その独特の音楽文化は19世紀後半のロマン派的音楽観からは評価されず、時代地域ごと忘れ去られた。その結果クレメンティのような大作曲家でさえキャノンの枠からはずれ、今日に至るまでめったに顧みられない。しかし実際は18世紀を通じてイギリスは音楽的に際立ってホットな地域だった。ウィーン・ピアノと共に隆盛を極めたイギリスのピアノは、間違いなく18世紀後半のイギリスの豊かな音楽環境の中で生まれ育てられたものなのである。
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【次回公演】
■第7回 2014年2月14日(金)19時 ソナタ第27~29番 [作品90, 101, 106《ハンマークラヴィア》]
■最終回 2014年3月21日(金・祝)19時 ソナタ第30~32番 [作品109, 110, 111]
各回19時開演(18時半開場) 3000円(全自由席) [3公演パスポート8000円]
お問合せ/合同会社opus55 Tel 03(3377)4706 http://www.opus55.jp/
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【関連公演】
■2014年1月25日(土)15時 松濤サロン (渋谷区松濤1-26-4)
《ピアノで弾くバッハ Bach, ripieno di Pianoforte》 第5回公演
J.S.バッハ:イギリス組曲 Englische Suiten BWV806-811 (全6曲) (NYスタインウェイによる演奏)
お問合わせ/オカムラ&カンパニー tel 03-6804-7490
http://okamura-co.com/ja/events/piano-axis/
■2014年02月16日(日)15時 トリアギャラリー(杉並区西荻北5-8-5)
WINDS CAFE 206 【モーツァルトの四手ソナタ】
W.A.モーツァルト:連弾ソナタ K.19d (1765)、K.381 (1772)、K.358 (1774)、K. 501 (1786)、K.521(1787)
[w/上尾直毅、クラヴィコード連弾] http://www.st.rim.or.jp/~mal/Cafe/
■2014年3月5日(水)20時 カフェ・モンタージュ(京都)
《クラヴィコードによる1780年代》
L.v.ベートーヴェン:3つの選帝侯ソナタWoO47 (1782/83)、全ての長調にわたる2つの前奏曲 Op.39(1789)
C.P.E.バッハ:幻想曲嬰ヘ短調「C.P.E. バッハの情念」H300/Wq.67 (1787)
W.A.モーツァルト:幻想曲 ニ短調 KV397(385g) (1782)、ロンド イ短調 KV511 (1787)、アダージョ ロ短調 KV540 (1788)
福島康晴:〈楽興の時 第2番〉(2014、委嘱初演)
(以上クラヴィコード独奏)
お問合わせ/カフェ・モンタージュ tel 075-744-1070 http://www.cafe-montage.com/

ベートーヴェン:ピアノソナタ全32曲連続演奏会(全8回)
~様式別・時代順のフォルテピアノ(古楽器)による~
淀橋教会・小原記念チャペル(東京都新宿区百人町1-17-8)
JR総武線・大久保駅「北口」下車徒歩1分、JR山手線・新大久保駅下車徒歩3分
3000円(全自由席) [3公演パスポート8000円]
【お問合せ】 合同会社opus55 Tel 03(3377)4706 (13時~19時/水木休) Fax 03 (3377)4170 (24時間受付) http://www.opus55.jp/
第六回公演
2014年1月17日(金)19時/淀橋教会・小原記念チャペル
使用楽器
1802年ブロードウッド 68鍵 イギリス式シングルエスケープメントアクション (#)
1814年ブロードウッド(スクエア・ピアノ) 68鍵 イギリス式シングルエスケープメントアクション (※)
[1/6ヴァロッティ不等分律]
調律 深町研太/太田垣至
〈告別 - 不在 - 再会、
ピアノフォルテのためのソナタ、
ルドルフ・フォン・エスターライヒ大公閣下へ、
L.v.ベートーヴェンにより献呈〉
FB イベントページ
《演奏曲目》
ソナタ第22番ヘ長調Op.54(1804) (#)
In Tempo d'un Menuetto - Allegretto
ソナタ第23番ヘ短調Op.57「熱情(Appassionata)」(1804/05) (#)
Allegro assai - Andante con moto - Allegro ma non troppo /Presto
ソナタ第24番嬰ヘ長調Op.78「テレーゼ(À Thérèse)」(1809) (※)
Adagio cantabile /Allegro ma non troppo - Allegro vivace
【休憩10分】
ソナタ第25番ト長調Op.79(1809) 「かっこう(Kuckuck)」(ソナチネ) (※)
Presto alla tedesca - Andante - Vivace
ソナタ第26番変ホ長調Op.81a「告別(Das Lebewohl)」(1809) (#)
Ⅰ.「告別」Das Lebewohl (Les Adieux) Adagio -Allegro
Ⅱ.「不在」Abwesenheit (L'Absence) Andante espressivo, In gehender Bewegung, doch mit viel Ausdruck
Ⅲ.「再会」Das Wiedersehen (Le Retour) Vivacissimamente, Im lebhaftesten Zeitmasse
英国から見るピアノ史 ――― 明石拓爾

イギリスに最初にピアノフォルテが登場したのは1740年代と考えられている。音楽家チャールズ・バーニーが記録している一台は、イタリアから輸入されたもので、当時の音楽家、音楽愛好家、製作家の間で話題を呼んだが、まだ小さい動きだった。
1759年、長年英国音楽界に君臨したヘンデルが亡くなると、音楽界全体がひとつの転機を迎える。新しい趣味を代表する音楽家の一人が1762年にイタリアからやってきた大バッハの末の息子、ヨハン・クリスティアン・バッハである。J.C.バッハの到着を契機にイギリスでピアノフォルテの開発競争が始まった。

イギリスで出版される鍵盤曲の楽譜では、それまでの「ハープシコードのための」という文言が、10年以内に軒並み「ハープシコードまたはピアノ・フォルテのための」に置き換わった。この場合「ピアノ・フォルテ」は明らかに四角くて小さいスクエアピアノを指しているのである。
一方グランドピアノの分野で最も成功したのはオランダ出身のアメリカス・バッカースである。1770年頃バッカースが新たに開発したエスケープメント付きアクションは、同時代に南ドイツでシュタインが開発した「ウィーン式アクション」と対比して「イギリス式グランドアクション」と呼ばれ、20世紀初頭まで100年以上にわたって愛用されることになる。
最初期のピアノフォルテ製作は、中小の製作工房による一種のベンチャー産業だった。スクエア型にしろグランド型にしろ、1780年代まで各工房により様々なアクションやストップが試みられ、多様で個性的な楽器が製作された。
ここにハープシコードのトップメーカー、ジョン・ブロードウッドが参入したのは1780年頃のことである。大工房ブロードウッドはよりシンプルで安価な独自仕様のスクエアピアノを発売し、また1785年頃からはバッカースのピアノベースにしたグランドピアノの生産を始め、大成功を収める。
1790年代に入るとグランドピアノはその仕様が急速に標準化され、各工房からはブロードウッドとほとんど見かけも性能も変わらないピアノが生産されるようになる。1800年頃の仕様は、5.5オクターブの音域、バッカースのアクションと一音あたり3本の弦、ダンパーペダルとウナコルダペダル、というものだった。今回のコンサートで使用されるジョーンズ・ラウンドもそうしたピアノの一つである。

これまでイギリス、とくに古典派時代は音楽史に登場する機会の少ない地域だった。その独特の音楽文化は19世紀後半のロマン派的音楽観からは評価されず、時代地域ごと忘れ去られた。その結果クレメンティのような大作曲家でさえキャノンの枠からはずれ、今日に至るまでめったに顧みられない。しかし実際は18世紀を通じてイギリスは音楽的に際立ってホットな地域だった。ウィーン・ピアノと共に隆盛を極めたイギリスのピアノは、間違いなく18世紀後半のイギリスの豊かな音楽環境の中で生まれ育てられたものなのである。
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【次回公演】
■第7回 2014年2月14日(金)19時 ソナタ第27~29番 [作品90, 101, 106《ハンマークラヴィア》]
■最終回 2014年3月21日(金・祝)19時 ソナタ第30~32番 [作品109, 110, 111]
各回19時開演(18時半開場) 3000円(全自由席) [3公演パスポート8000円]
お問合せ/合同会社opus55 Tel 03(3377)4706 http://www.opus55.jp/
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【関連公演】

《ピアノで弾くバッハ Bach, ripieno di Pianoforte》 第5回公演
J.S.バッハ:イギリス組曲 Englische Suiten BWV806-811 (全6曲) (NYスタインウェイによる演奏)
お問合わせ/オカムラ&カンパニー tel 03-6804-7490
http://okamura-co.com/ja/events/piano-axis/
■2014年02月16日(日)15時 トリアギャラリー(杉並区西荻北5-8-5)
WINDS CAFE 206 【モーツァルトの四手ソナタ】
W.A.モーツァルト:連弾ソナタ K.19d (1765)、K.381 (1772)、K.358 (1774)、K. 501 (1786)、K.521(1787)
[w/上尾直毅、クラヴィコード連弾] http://www.st.rim.or.jp/~mal/Cafe/
■2014年3月5日(水)20時 カフェ・モンタージュ(京都)
《クラヴィコードによる1780年代》
L.v.ベートーヴェン:3つの選帝侯ソナタWoO47 (1782/83)、全ての長調にわたる2つの前奏曲 Op.39(1789)
C.P.E.バッハ:幻想曲嬰ヘ短調「C.P.E. バッハの情念」H300/Wq.67 (1787)
W.A.モーツァルト:幻想曲 ニ短調 KV397(385g) (1782)、ロンド イ短調 KV511 (1787)、アダージョ ロ短調 KV540 (1788)
福島康晴:〈楽興の時 第2番〉(2014、委嘱初演)
(以上クラヴィコード独奏)
お問合わせ/カフェ・モンタージュ tel 075-744-1070 http://www.cafe-montage.com/