昨年8月のシュトックハウゼン:クラヴィア曲 第XIII 《ルシファーの夢》演奏時に使用した楽譜指定のロケットについて、製作者の田中裕行氏(大阪大学産業科学研究所)にアウトラインをまとめて頂きました。
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■演奏者のスイッチ操作に応じてロケットを爆発音と共に発射させるために必要なパーツ・機構は下記のとおり。
・ロケット
・発射のために必要な推進力発生機構(初速の調整ができることが望ましい)
・発射の方位と仰角を決めるランチャー(発射台)
・発音体及び発射動作との同期機構
・発射動作の遠隔操作機構
■リスク
推進力に火薬や圧縮ガスを用いたり、ロケットやランチャーの材質に金属類を用いることは避けるべき。
観客からのクレームや訴訟を避けるため、飛翔するロケットの材質は軟らかく軽いものとすべき。
飛翔速度が十分に減速しない段階で観客に到達するいわゆる直撃を避けるため、ロケットの設計と弾道の設定に十分気をつけるべき。
■ロケット
ロケットの材質は軽くて軟らかい必要があるので、発泡スチロールを選択した。ロケットの先端はロケットらしい流線型状にカッターで削った。楽天で直径30mm、長さ200mmの発泡スチロールを購入した。この程度の大きさと質量では、ピンポン球やバトミントンのシャトルコックのように初速が数百km/時であっても急速に減速し落下することが予想される。ロケット本体には推進力発生機構を設けていないので、ランチャーで得た初速が全てになるため、飛翔距離を伸ばすためには空気抵抗を減らす機構、つまり姿勢制御のための尾翼が必要になる。なお、尾翼のない鉛筆のような形状のまま発砲スチロールを発射すると、通常数m程度飛翔したところで木の葉のように姿勢が不安定になり急激に失速し落下してしまうようだ。さらに言えば、表面積(~断面積)/質量が小さくなれば飛翔距離が伸びるので、一般的により大きなロケットがより遠くに飛翔すると期待される。実際、前回のフェニックソホールでは、直径100mm、長さ500mmの円柱形発泡スチロールを使用した結果、ロケットがホールの天井に到達するのではないかというほど高く飛翔したり、2階席の観客に命中するほどの飛翔距離を出すことができた。もし、サイズを大きくせずに大きな飛翔距離を得たい場合は、ロケット母体の発泡スチロールのなかに適当な錘を仕込んでおくか、より重い材質で母体を作成し、安全のために先端の弾頭部分や表面を軟らかい材質で覆うのも有効であろう。
■推進力発生機構
作曲者の指示があるように、(輪)ゴムなどは、本数や長さを変更しやすいので、初速を調整するのに適している。観客に到達するときには十分に減速していることが望ましいので、推進力発生機構はランチャー側に備えるべきであろう。そのほうが機構の作成の難度が上がらないと思われる。
■ランチャー
ランチャーは、観客に直撃することを避けるために、円筒形の筒の中で加速・発射するようなタイプにした。なおカタパルト(パチンコ、ゴム銃)のような簡便なタイプでは、発射されない、あるいは、望まない方向に発射される可能性を恐れて採用しなかった。ガラスのような材質は万が一を考えて避けるべきであろう。今回は、ロケットの円柱部分が入る内径を有するアクリルパイプを採用した。推進力発生機構を内臓させるために、そのパイプにゴムのカタパルト機構を備えた。今回は、厚みは3mm以上あれば強度的に十分と思われる。
方位仰角は、できるだけ簡便にしたかったので、長方形のアクリル板の一箇所にパイプが引っかかりやすいように円形の窪み加工を施し透明のメンディングテープでパイプと固定した。ステージの床にも透明の養生テープで固定した。つまり、板とパイプの交差点、板と床側の接地点およびパイプの床側接地点の三箇所で固定できれば、三角形の3辺の長さが決まるので完全に固定できる。
■発音体と発射動作との同期機構
クラッカーは、紐を引っ張ることで爆発するため、この紐をカタパルトに結びつけ、クラッカー本体をランチャーの筒の部分にメンディングテープで固定すれば確実に発音とロケットの発射の同期をとることができる。
■発射動作の遠隔操作機構
カタパルトと動作、つまり、爆発音・ロケットの発射のトリガーの機構も、できるだけ簡便で安価にしたかったため、カタパルトのゴムを引いているテグス(材質はポリエチレン、PE、撚り合わせた紡績糸ではなく単繊維、5号、直径0.37mm、引っ張り強度は20kg以上もある)を加熱したニクロム線で切断する方式を採用した。つまり、演奏者が操作ボックス(リモートボックス、直列に1.2Vの電池を2本内臓)の押しボタンスイッチを押すとランチャー内のニクロム線に電流が流れ、直ちにニクロム線の温度が上昇し接触しているテグスを切断し、支えを失ったゴムが縮んでカタパルトが動きクラッカーの紐を引き爆発させ、さらに縮んで加速しロケットの発射に至るという仕掛けである。
具体的には、テグスは釣具店で購入できる。ニクロム線は、ホームセンターで販売している発泡スチロールカッターのヒーター線(直径0.2mmのニクロム線)である。半田をはじくニクロム線は半田付けできないので、有効な長さが約1cm程度になるように両端を、直径2mmで長さが1cm程度の銅線でクランプし、その上から気休めに半田を盛っている。抜け止めと次のケーブルへの半田付けの準備の意味がある。遠隔操作のためのリモートボックスから繋がっている2芯ケーブル(コンセントのケーブルでもよい、ただし許容電流が3A以上が望ましい)の先端に半田付けする。つまり、ニクロム線は直接ケーブルの導線に半田付けできないので、銅線でクランプしてなんとか半田付けするということである。なお代替案としてクランプやねじ止めや、石油ストーブの着火フィラメントでもよいと思われる。









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■演奏者のスイッチ操作に応じてロケットを爆発音と共に発射させるために必要なパーツ・機構は下記のとおり。
・ロケット
・発射のために必要な推進力発生機構(初速の調整ができることが望ましい)
・発射の方位と仰角を決めるランチャー(発射台)
・発音体及び発射動作との同期機構
・発射動作の遠隔操作機構
■リスク
推進力に火薬や圧縮ガスを用いたり、ロケットやランチャーの材質に金属類を用いることは避けるべき。
観客からのクレームや訴訟を避けるため、飛翔するロケットの材質は軟らかく軽いものとすべき。
飛翔速度が十分に減速しない段階で観客に到達するいわゆる直撃を避けるため、ロケットの設計と弾道の設定に十分気をつけるべき。
■ロケット
ロケットの材質は軽くて軟らかい必要があるので、発泡スチロールを選択した。ロケットの先端はロケットらしい流線型状にカッターで削った。楽天で直径30mm、長さ200mmの発泡スチロールを購入した。この程度の大きさと質量では、ピンポン球やバトミントンのシャトルコックのように初速が数百km/時であっても急速に減速し落下することが予想される。ロケット本体には推進力発生機構を設けていないので、ランチャーで得た初速が全てになるため、飛翔距離を伸ばすためには空気抵抗を減らす機構、つまり姿勢制御のための尾翼が必要になる。なお、尾翼のない鉛筆のような形状のまま発砲スチロールを発射すると、通常数m程度飛翔したところで木の葉のように姿勢が不安定になり急激に失速し落下してしまうようだ。さらに言えば、表面積(~断面積)/質量が小さくなれば飛翔距離が伸びるので、一般的により大きなロケットがより遠くに飛翔すると期待される。実際、前回のフェニックソホールでは、直径100mm、長さ500mmの円柱形発泡スチロールを使用した結果、ロケットがホールの天井に到達するのではないかというほど高く飛翔したり、2階席の観客に命中するほどの飛翔距離を出すことができた。もし、サイズを大きくせずに大きな飛翔距離を得たい場合は、ロケット母体の発泡スチロールのなかに適当な錘を仕込んでおくか、より重い材質で母体を作成し、安全のために先端の弾頭部分や表面を軟らかい材質で覆うのも有効であろう。
■推進力発生機構
作曲者の指示があるように、(輪)ゴムなどは、本数や長さを変更しやすいので、初速を調整するのに適している。観客に到達するときには十分に減速していることが望ましいので、推進力発生機構はランチャー側に備えるべきであろう。そのほうが機構の作成の難度が上がらないと思われる。
■ランチャー
ランチャーは、観客に直撃することを避けるために、円筒形の筒の中で加速・発射するようなタイプにした。なおカタパルト(パチンコ、ゴム銃)のような簡便なタイプでは、発射されない、あるいは、望まない方向に発射される可能性を恐れて採用しなかった。ガラスのような材質は万が一を考えて避けるべきであろう。今回は、ロケットの円柱部分が入る内径を有するアクリルパイプを採用した。推進力発生機構を内臓させるために、そのパイプにゴムのカタパルト機構を備えた。今回は、厚みは3mm以上あれば強度的に十分と思われる。
方位仰角は、できるだけ簡便にしたかったので、長方形のアクリル板の一箇所にパイプが引っかかりやすいように円形の窪み加工を施し透明のメンディングテープでパイプと固定した。ステージの床にも透明の養生テープで固定した。つまり、板とパイプの交差点、板と床側の接地点およびパイプの床側接地点の三箇所で固定できれば、三角形の3辺の長さが決まるので完全に固定できる。
■発音体と発射動作との同期機構
クラッカーは、紐を引っ張ることで爆発するため、この紐をカタパルトに結びつけ、クラッカー本体をランチャーの筒の部分にメンディングテープで固定すれば確実に発音とロケットの発射の同期をとることができる。
■発射動作の遠隔操作機構
カタパルトと動作、つまり、爆発音・ロケットの発射のトリガーの機構も、できるだけ簡便で安価にしたかったため、カタパルトのゴムを引いているテグス(材質はポリエチレン、PE、撚り合わせた紡績糸ではなく単繊維、5号、直径0.37mm、引っ張り強度は20kg以上もある)を加熱したニクロム線で切断する方式を採用した。つまり、演奏者が操作ボックス(リモートボックス、直列に1.2Vの電池を2本内臓)の押しボタンスイッチを押すとランチャー内のニクロム線に電流が流れ、直ちにニクロム線の温度が上昇し接触しているテグスを切断し、支えを失ったゴムが縮んでカタパルトが動きクラッカーの紐を引き爆発させ、さらに縮んで加速しロケットの発射に至るという仕掛けである。
具体的には、テグスは釣具店で購入できる。ニクロム線は、ホームセンターで販売している発泡スチロールカッターのヒーター線(直径0.2mmのニクロム線)である。半田をはじくニクロム線は半田付けできないので、有効な長さが約1cm程度になるように両端を、直径2mmで長さが1cm程度の銅線でクランプし、その上から気休めに半田を盛っている。抜け止めと次のケーブルへの半田付けの準備の意味がある。遠隔操作のためのリモートボックスから繋がっている2芯ケーブル(コンセントのケーブルでもよい、ただし許容電流が3A以上が望ましい)の先端に半田付けする。つまり、ニクロム線は直接ケーブルの導線に半田付けできないので、銅線でクランプしてなんとか半田付けするということである。なお代替案としてクランプやねじ止めや、石油ストーブの着火フィラメントでもよいと思われる。








