(その1・その2・その3) 8/31公演・演奏曲目
(つづき)
メシアンがグレゴリオ聖歌や「デシ・ターラ」(インド音楽のリズム型)に好んで言及したことはよく知られている。これらは彼にとって時代を超越した不変=普遍の要素であり、鳥の歌もまたその一角をなしていた。メシアンは創作、教育、執筆という3つの活動を通して、これらの遺産をたえず言語化、体系化しようと試みた。パリ音楽院での約30年にわたる教育活動(和声、音楽美学および音楽哲学、分析そして作曲の教授として)、40年余りをかけて執筆された『総説』は、終生メシアンがその整理にどれほど情熱を傾けたかを物語っている。ここにみられる網羅性は、まさしく18世紀フランスの百科全書派が目ざしたものである。実際、メシアンはみずからをリズム研究家 rythmicien そして鳥類学者 ornithologue、いうなれば一種の音楽博物学者と定義した(註36)。『総説』の冗長な叙述は、メシアンと関心を共有しない者を排除するような秘教性すら具えている。たとえば、日本の鳥には約110ページが割かれているが(註37)、ウグイスの鳴き声「ホー、ホケキョ」で「ホケキョ」に当たる部分は、メシアンによれば「トルクルス」というネウマに相当するという。1962年夏に日本を訪れたメシアンは、軽井沢で別宮貞雄を通訳、端山貢明を虫除けスプレー散布係に随えて採譜を行っているが、このときメシアンが聴いたウグイスは「ホケキョ」の部分をヴァリアントで歌っていた。メシアンいわく、トルクルスが「スキャンディクス・フレクスス」および「ポルレクトゥス・フレクスス」になっていたのである(註38)。メシアンは鳥一つひとつについて、以上のような分析を丹念に行っている。
メシアンの作品に登場する鳥の種類は全部で357あり、登場する箇所をすべて数えると757になる(《鳥たちの目ざめ》以前の作品に現れる、特定されていない鳥の歌を除く)。メシアンが用いた鳥は、世界中に存在する種全体の3.6%、科では38%、目では47%に相当する。好んで用いられた鳥とその登場回数は、クロウタドリ(28)、ニワムシクイ(22)、サヨナキドリ(20)が挙げられる(註39)。鳥類学者は、世界中に存在するおよそ1万の種を、美しく歌う鳥、歌があまり美しくない鳥、歌わない鳥(カモメ、ダチョウ、ワシなど)の3つに大別しているが、メシアンの作品には歌わない鳥も登場する。《鳥のカタログ》第1巻第1曲〈キバシガラス(黄嘴鴉)〉に登場するイヌワシ、《ニワムシクイ》におけるツバメがその例である。前者では、次第に狭くなる音程によって、イヌワシが大空へ飛翔する様子が描写されている。また《鳥のカタログ》第6巻第10曲〈コシジロイソヒヨドリ(腰白磯鵯)〉では、ワシミミズクの雌雄が描き分けられている。雄は下行する和音とグリッサンドで表され、雌は低音の反復音型によって描かれる(註40)。先に触れた通り、《鳥のカタログ》は鳥だけでなく、鳥を含む生息地の景観全体を扱っているが、冒頭の〈キバシガラス〉では鳥よりも峻険な山並みが中心となっており、最後の〈ダイシャクシギ〉では同名の鳥が冒頭と末尾にしか登場しない。なお《アッシジの聖フランチェスコ》(1975-1983)には、ウグイス、ホトトギス(第6場でオンド・マルトノ3台によって奏される)、フクロウなど、オペラの題材とは直接関係のない日本の鳥が登場する。メシアンの採譜旅行は、1960年代以後はもはやロリオのルノーを必要としなくなり、その代わりメシアンはフランスを代表する作曲家として、各国で丁重なもてなしを受けるようになった。ヨーロッパ以外では、日本(1962、1978)、アルゼンチン(1963)、アメリカ(1972)、ニューカレドニア(1975)、ギリシャ(1976)、イスラエル(1983、1984)、オーストラリア(1988)で採譜を行った。ニューカレドニアでの採譜は、《アッシジの聖フランチェスコ》で天使を扱う際の歌を探すという目的で行われた。これは、純粋に採譜だけを目的とする訪問という点で例外的な旅であり、それ以外の国では演奏会への臨席、講演や作曲講座、受賞式への出席などを並行して行っている。鳥類学者という肩書があくまで自称にすぎないことは、採譜地の選択がこのように場当たり的なものであること、論文および研究発表という媒体で鳥の歌の研究を発表したことが一度もないことから明らかである。
《鳥のカタログ》は、最初から明確な全体像を念頭において構想された作品ではない。フランス各地で採譜旅行を行い、種々の鳥をみずからの音楽に取り込んだ結果、演奏所要時間約2時間45分という過去に例をみない規模の大作が完成した。その意味で、本作はある種の長大な映画ないし紀行文学にたとえられる。採譜地はしかしフランスの辺境に限られない。1952年にドラマンのもとで最初の本格的な採譜を行ってから、メシアンはパリ近郊サン=ジェルマン=アン=レの近くにあるオルジュヴァルの森に通った。1952年と1953年には、ダルムシュタットの講習会の合間に時間を見つけて採譜した。パリ19区の自宅から聴こえる鳥も活用された。1953年10月にバーデン=バーデンの黒い森で行われたスケッチには、「ピアノ用」という見出しのもと、鳥の名が長々と列挙されている。《カタログ》の構想はこのころから徐々に練られていったものと思われる。全13曲が7つの巻 Livre に割り振られるという構成は、メシアンが素数を好んだことと無関係ではない(註41)。ひとつの巻に含まれる曲の数は3-1-2-1-2-1-3、すなわち第4巻を中心として対称的に配分されている。第1曲と第13曲が自然の険しさを描くのに対して、第2曲と第12曲はやや開放的で明るい情景を扱うというように、第7曲を軸とする曲のペアは共通の性質を具えている。第1曲、第5曲、第11曲はいずれもフランス南東部ドーフィネ地方を舞台とするが、ドーフィネに近いグルノーブルは、メシアンが4歳のころから5年間過ごした思い出の地である(註43)。またメシアンは1936年から最晩年(1991)まで毎年、アルプスの山々を望むドーフィネ地方プティシェの別荘でヴァカンスを過ごした。メシアンとロリオの墓は現在その別荘の近くにある。
第1巻第1曲〈キバシガラス〉(黄嘴鴉、〔仏〕ル・ショカール・デ・ザルプ(アルプスのチャフ)、〔羅〕ピュッロコラクス・グラクルス(ベニハシガラス=コクマルガラス))(註44)は、鳥よりもむしろその生息する山々の険しさを描いており、《まなざし》にも用いられたリズム人物 personnages rythmiques(註45)が現れる。
第1巻第2曲〈ニシコウライウグイス〉(西高麗鶯、〔仏〕ル・ロリオ(コウライウグイス)、〔羅〕オリオルス・オリオルス(黄金色の小さな鳥))は、頭や腹が黄色、羽と尾が黒色の鳥で、その歌は下行9度を2回続けて繰り返す点に特徴がある。
第1巻第3曲〈イソヒヨドリ〉(磯鵯、〔仏〕ル・メルル・ブル(青いツグミ)、〔羅〕モンティコラ・ソリタリウス(孤独な山の民))は全身がもっぱら青の鳥で、ここでは南仏の地中海の海の青が同時に喚起され、青紫(第2旋法第1転回形)、青と緑(第3旋法第3転回形)などが使われる。地中海に面した丘を舞台とする。
第2巻第4曲〈カオグロサバクヒタキ〉(顔黒砂漠鶲、〔仏〕ル・トゥラケ・スタパザン(スタパザンのサバクヒタキ)、〔羅〕オエナンテ・ヒスパニカ(スペインのオエナンテ〔註46〕))も地中海に面したワイン畑が舞台である。その歌はごつごつとして乾いた感じであるが、ここではむしろメジロモリムシクイが主役を演じている。
第3巻第5曲〈モリフクロウ〉(森梟、〔仏〕ル・シュエット・ユロット(鳴くフクロウ)、〔羅〕ストリクス・アルコ(フクロウ=ミミズク)は、メシアンにとって夜の闇の恐ろしさを喚起する鳥であり、その叫びは同音反復と下行3度の組み合わせからなる。この曲集では唯一セリー的な書法に依拠した作品である。
第3巻第6曲〈モリヒバリ〉(森雲雀、〔仏〕ラルエット・リュリュ(ルルと鳴くヒバリ)、〔羅〕ルッルラ・アルボレア(木のルル鳴き鳥))は、透明感のある高い声で下行音程を繰り返す。フランス語名は、その歌が「ルル、ルル……」と聞こえることに由来する。
30分近い演奏時間を要する第4巻第7曲〈ヨーロッパヨシキリ〉(葭切、〔仏〕ラ・ルスロル・エファルヴァット(ヨシキリ)、〔羅〕アクロケファルス・スキルパケウス(頭蓋骨の出っ張ったスキルパケウス))は、午前0時から翌朝午前3時までの池のほとりを扱っている。メシアンはこの鳥を聴くために、ソローニュ地方の私有地を特別に借り切ったという。
第5巻第8曲〈ヒメコウテンシ〉(姫告天子、〔仏〕ラルエット・カランドレル(コウテンシヒバリ)、〔羅〕カランドレッラ・ブラキダクティラ(短指のヒバリ))は、プロヴァンスの暑く乾いた砂漠のような土地で、突如として短い歌を聴いたメシアン自身の経験にもとづく。途中、9度の音程を特徴とするカンムリヒバリとの二重唱が聴かれる。
第5巻第9曲〈ヨーロッパウグイス〉(鶯、〔仏〕ラ・ブスカルル(茂みを好む鳥)、〔羅〕ケッティア・ケッティ〔註47〕)の声は金属的で、時の流れを止めるほどの威力をもつとメシアンは言う。ここには《まなざし》でも用いられたリズム・カノン canon rythmique が出てくる。
第6巻第10曲〈コシジロイソヒヨドリ〉(腰白磯鵯、〔仏〕ル・メルル・ドゥ・ロシュ(岩のツグミ)、モンティコラ・サクサティリス(岩間の山の民))は切り立った崖の上で歌う青とオレンジの美しい鳥。中央部では、32の半音階の持続を置換した経過的な和音が現れるが、これらは死んだ女性を運ぶ幽霊たちの行列を表しており、メシアンはここでマックス・エルンストの作品を想起している。
第7巻第11曲〈ヨーロッパノスリ〉(鵟、〔仏〕ラ・ビューズ・ヴァリアブル(さまざまな色のノスリ)、〔羅〕ブテオ・ブテオ(ノスリ=ノスリ))はタカの一種で、ドーフィネの山々の上を円を描いて飛ぶ様がレントのピアニシモで表される。
第7巻第12曲〈クロサバクヒタキ〉(黒砂漠鶲、〔仏〕ル・トゥラケ・リウール(笑うサバクヒタキ)、〔羅〕オエナンテ・レウクラ(白い尾のオエナンテ))は崖の上で輝かしく愉快な歌を聴かせる。歓喜の爆発で曲を終えるというメシアンの慣行はこの作品に現れている。
曲集を締めくくる第7巻第13曲〈ダイシャクシギ〉(大杓鷸、〔仏〕ル・クルリ・サンドレ(灰白色のダイシャクシギ)、〔羅〕ヌメニウス・アルクアタ(弧形の新月))の舞台はヨーロッパ最西端に位置するブルターニュのウェサン島。半音を主とするグリッサンドのような鳴き声は悲哀に満ちているとメシアンは言う。
部分初演は1957年3月30日、サル・ガヴォーで開かれたドメーヌ・ミュジカルの演奏会でロリオによって行われた。このとき演奏されたのは、演奏順に第1曲〈キバシガラス〉、第6曲〈モリヒバリ〉、第5曲〈モリフクロウ〉、第2曲〈ニシコウライウグイス〉、第8曲〈ヒメコウテンシ〉、第13曲〈ダイシャクシギ〉である。第7曲〈ヨーロッパヨシキリ〉はこのときすでに完成しており、プログラムにも載っていたが、演奏は行われなかった。当初演奏時間17分だった本作品は、1957年夏に全面的な書き換えが行われ、当初のほぼ2倍におよぶ長さとなった。6月に行われた地中海沿岸での採譜は、第3曲〈イソヒヨドリ〉、第4曲〈カオグロサバクヒタキ〉、第12曲〈クロサバクヒタキ〉の素材を提供した。1958年1月25日には〈ヨーロッパヨシキリ〉第2稿が初演され、1959年4月15日、同じくドメーヌ・ミュジカルのメシアン生誕50周年記念演奏会で、ロリオが全曲初演(休憩1回、合計約3時間)を行った。出版は、それまでメシアンの主要作品を出版してきたデュランではなくルデュックから行われた。デュランは、《鳥たちの目ざめ》の初演が不評に終わったことから、鳥をテーマとする作品の出版に慎重な姿勢をとっていた。1957年、メシアンはついにデュランとの契約を破棄し、以後はもっぱらルデュックに出版を委ねるようになる(註48)。
■《鳥のカタログ》に登場する鳥の名称一覧 (クリックすると拡大表示されます)


(つづき)

メシアンの作品に登場する鳥の種類は全部で357あり、登場する箇所をすべて数えると757になる(《鳥たちの目ざめ》以前の作品に現れる、特定されていない鳥の歌を除く)。メシアンが用いた鳥は、世界中に存在する種全体の3.6%、科では38%、目では47%に相当する。好んで用いられた鳥とその登場回数は、クロウタドリ(28)、ニワムシクイ(22)、サヨナキドリ(20)が挙げられる(註39)。鳥類学者は、世界中に存在するおよそ1万の種を、美しく歌う鳥、歌があまり美しくない鳥、歌わない鳥(カモメ、ダチョウ、ワシなど)の3つに大別しているが、メシアンの作品には歌わない鳥も登場する。《鳥のカタログ》第1巻第1曲〈キバシガラス(黄嘴鴉)〉に登場するイヌワシ、《ニワムシクイ》におけるツバメがその例である。前者では、次第に狭くなる音程によって、イヌワシが大空へ飛翔する様子が描写されている。また《鳥のカタログ》第6巻第10曲〈コシジロイソヒヨドリ(腰白磯鵯)〉では、ワシミミズクの雌雄が描き分けられている。雄は下行する和音とグリッサンドで表され、雌は低音の反復音型によって描かれる(註40)。先に触れた通り、《鳥のカタログ》は鳥だけでなく、鳥を含む生息地の景観全体を扱っているが、冒頭の〈キバシガラス〉では鳥よりも峻険な山並みが中心となっており、最後の〈ダイシャクシギ〉では同名の鳥が冒頭と末尾にしか登場しない。なお《アッシジの聖フランチェスコ》(1975-1983)には、ウグイス、ホトトギス(第6場でオンド・マルトノ3台によって奏される)、フクロウなど、オペラの題材とは直接関係のない日本の鳥が登場する。メシアンの採譜旅行は、1960年代以後はもはやロリオのルノーを必要としなくなり、その代わりメシアンはフランスを代表する作曲家として、各国で丁重なもてなしを受けるようになった。ヨーロッパ以外では、日本(1962、1978)、アルゼンチン(1963)、アメリカ(1972)、ニューカレドニア(1975)、ギリシャ(1976)、イスラエル(1983、1984)、オーストラリア(1988)で採譜を行った。ニューカレドニアでの採譜は、《アッシジの聖フランチェスコ》で天使を扱う際の歌を探すという目的で行われた。これは、純粋に採譜だけを目的とする訪問という点で例外的な旅であり、それ以外の国では演奏会への臨席、講演や作曲講座、受賞式への出席などを並行して行っている。鳥類学者という肩書があくまで自称にすぎないことは、採譜地の選択がこのように場当たり的なものであること、論文および研究発表という媒体で鳥の歌の研究を発表したことが一度もないことから明らかである。


第1巻第2曲〈ニシコウライウグイス〉(西高麗鶯、〔仏〕ル・ロリオ(コウライウグイス)、〔羅〕オリオルス・オリオルス(黄金色の小さな鳥))は、頭や腹が黄色、羽と尾が黒色の鳥で、その歌は下行9度を2回続けて繰り返す点に特徴がある。
第1巻第3曲〈イソヒヨドリ〉(磯鵯、〔仏〕ル・メルル・ブル(青いツグミ)、〔羅〕モンティコラ・ソリタリウス(孤独な山の民))は全身がもっぱら青の鳥で、ここでは南仏の地中海の海の青が同時に喚起され、青紫(第2旋法第1転回形)、青と緑(第3旋法第3転回形)などが使われる。地中海に面した丘を舞台とする。
第2巻第4曲〈カオグロサバクヒタキ〉(顔黒砂漠鶲、〔仏〕ル・トゥラケ・スタパザン(スタパザンのサバクヒタキ)、〔羅〕オエナンテ・ヒスパニカ(スペインのオエナンテ〔註46〕))も地中海に面したワイン畑が舞台である。その歌はごつごつとして乾いた感じであるが、ここではむしろメジロモリムシクイが主役を演じている。
第3巻第5曲〈モリフクロウ〉(森梟、〔仏〕ル・シュエット・ユロット(鳴くフクロウ)、〔羅〕ストリクス・アルコ(フクロウ=ミミズク)は、メシアンにとって夜の闇の恐ろしさを喚起する鳥であり、その叫びは同音反復と下行3度の組み合わせからなる。この曲集では唯一セリー的な書法に依拠した作品である。
第3巻第6曲〈モリヒバリ〉(森雲雀、〔仏〕ラルエット・リュリュ(ルルと鳴くヒバリ)、〔羅〕ルッルラ・アルボレア(木のルル鳴き鳥))は、透明感のある高い声で下行音程を繰り返す。フランス語名は、その歌が「ルル、ルル……」と聞こえることに由来する。

第5巻第8曲〈ヒメコウテンシ〉(姫告天子、〔仏〕ラルエット・カランドレル(コウテンシヒバリ)、〔羅〕カランドレッラ・ブラキダクティラ(短指のヒバリ))は、プロヴァンスの暑く乾いた砂漠のような土地で、突如として短い歌を聴いたメシアン自身の経験にもとづく。途中、9度の音程を特徴とするカンムリヒバリとの二重唱が聴かれる。
第5巻第9曲〈ヨーロッパウグイス〉(鶯、〔仏〕ラ・ブスカルル(茂みを好む鳥)、〔羅〕ケッティア・ケッティ〔註47〕)の声は金属的で、時の流れを止めるほどの威力をもつとメシアンは言う。ここには《まなざし》でも用いられたリズム・カノン canon rythmique が出てくる。
第6巻第10曲〈コシジロイソヒヨドリ〉(腰白磯鵯、〔仏〕ル・メルル・ドゥ・ロシュ(岩のツグミ)、モンティコラ・サクサティリス(岩間の山の民))は切り立った崖の上で歌う青とオレンジの美しい鳥。中央部では、32の半音階の持続を置換した経過的な和音が現れるが、これらは死んだ女性を運ぶ幽霊たちの行列を表しており、メシアンはここでマックス・エルンストの作品を想起している。
第7巻第11曲〈ヨーロッパノスリ〉(鵟、〔仏〕ラ・ビューズ・ヴァリアブル(さまざまな色のノスリ)、〔羅〕ブテオ・ブテオ(ノスリ=ノスリ))はタカの一種で、ドーフィネの山々の上を円を描いて飛ぶ様がレントのピアニシモで表される。
第7巻第12曲〈クロサバクヒタキ〉(黒砂漠鶲、〔仏〕ル・トゥラケ・リウール(笑うサバクヒタキ)、〔羅〕オエナンテ・レウクラ(白い尾のオエナンテ))は崖の上で輝かしく愉快な歌を聴かせる。歓喜の爆発で曲を終えるというメシアンの慣行はこの作品に現れている。
曲集を締めくくる第7巻第13曲〈ダイシャクシギ〉(大杓鷸、〔仏〕ル・クルリ・サンドレ(灰白色のダイシャクシギ)、〔羅〕ヌメニウス・アルクアタ(弧形の新月))の舞台はヨーロッパ最西端に位置するブルターニュのウェサン島。半音を主とするグリッサンドのような鳴き声は悲哀に満ちているとメシアンは言う。

■《鳥のカタログ》に登場する鳥の名称一覧 (クリックすると拡大表示されます)

