
シュパーリンガー《エクステンズィオーン》(結局我々は70分ノンストップで弾いていたらしい)では、ピアノ全音域の内部奏法および鍵盤を、極限まで迅速に行き来しながら演奏しなければなりません。鍵盤上では黒鍵・白鍵に分けられているので一目瞭然なものが、ピアノ内部となるとどこにどの音があるのか全く見当が付きません。メーカーやモデルによっても個々に場所が違ってきます。鍵盤上の指を見ていた目がピアノ内部へ移って、0.4秒以内に「どこにどの音があるか」を確認するための、幾つかの手法を御紹介致します(=Ex-plikation!)。

★それぞれの楽器の金属枠が、どの音とどの音の間にあるかを、面倒でも頭に叩き込みましょう。せいぜい3箇所です。スタインウェイC型では、E-F、cis2-d2、g3-as3の間です。その隣接する長2度までは瞬時に確保出来ます。楽器中央の2音の弦(例えばg-asの間)にスキマが設けられていることがあります。これもチェック。最低音域では3本弦が2本弦に変わる境界(E1-F1など)もポイントです。勿論、最低音(A2)や最高音(c5)からの距離感も重要。
★弦を軽く触れて打鍵し倍音を発生させるハーモニクス奏法では、倍音ポイントをチョークやテプラやサインペン(!)でマークするのが通例のようですが、弦楽器奏者のように「手のリーチ感」(とダンパーや金属枠からの「目視」)で行ったほうが、ヒットする確率が高いように思います。チェンバロの調律において、チューナーを使うよりも耳でやってしまったほうが正確かつ迅速であるのと似ているかもしれません。
なお、内部奏法のために立ち上がったり座ったりした時に、ズボンがずり下がらないよう注意しましょう。
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小道具類について。


《エクステンズィオーン》はスタインウェイB型のために書かれていますので、京都ドイツ文化センター所蔵のスタインウェイC型では演奏不可能の箇所も多々ありました(その場合の解決方法については別の機会に)。作曲者にいちいち細かく講釈してもらわないと奏法が不明瞭、というのは危険な話だと思います。

ご質問頂いた様々な引用ネタ元について。譜面にはいちいち書いてありませんが気付いた範囲では、デュファイ、バッハのオルゲルビュヒライン、ベートーヴェン作品110、ショパン第3ソナタと前奏曲第23番、リスト死の舞踏、「サティ氏の有名なソナタ」(――生まれつき陰気なこれらの無柄眼類は断崖に開いた横穴などに棲み世間を避けながら暮らしている――ってなもんか)、シェーンベルクop.9とop.23、ブーレーズ第2ソナタ第2楽章、メシアン異国の鳥達(顔から火が出る)、エアハルト・カルコシュカ(作曲者の師匠)、ライリーInC、ケージ0'00''など。譜面のあちこちにベケットやヘダリーンの隻句が書き散らしてあるのは、西村朗氏が分類するところの「インテリ向け現代音楽」であるノーノ・ラッヘンマン・ホリガー路線と言うよりは、案外クルタークに近いかも。
《(...)1つ1つの楽想自体が同時に提示部であり展開部であるべきであり、関係システムはただちにすべての方向へ同時に爆発的に拡張する。だが全てのものにとっての秩序とはもはや秩序ではない。全面的関連性とは、その連鎖反応にも似た増大と自滅によってのみ達成される。(...)」(訳:清水穣)という作曲者の言葉は、今回のレクチャーコンサートの企画者による例の「ACTION MUSIC」同様、行き場の無い閉塞感とともに見事にリアライズされていると言えるでしょう。それが「意味の消失点」になっているかはともかく。シュパーリンガーはカルコシュカ弟子だけあって、ノーテーションだけはしっかりしていましたが、この点でも似た者同士ですね。
それにしてもクセナキスを「引用」する人っていませんねー。晩年の作曲者自身と弟子(「東洋・西洋」の遅回しとか)と、あとは松平頼暁氏くらいかな。

野平氏の弦楽四重奏曲には
短くクセナキスの引用がある(そうです)
チェロ奏者デ・サラーム氏の指摘です
短くクセナキスの引用がある(そうです)
チェロ奏者デ・サラーム氏の指摘です
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なお、extensionの最後に現れる音型は、「甲斐説宗作品の引用」では無いと思います。。

内部奏法についてのコメント。
昔大学生だった頃、学校の研修旅行で浜松に行きカワイのピアノ製造工場を見学した時、最後の質問意見の場で、僕はそこの工場の偉い部長さんに必死で訴えました。
「現代音楽では内部奏法がすでに多くの場で使われているが、現在のピアノでは内部の弦がどの音なのか見た目ではとっさに対応できない。現在は各奏者がシールなどを貼って対処しているが、全製品共通の外見として、ぜひカワイさんには内部弦の識別を標準化することをご検討いただきたい。たとえばダンパーはすべて黒に塗ってあるが、これを鍵盤と同じように白黒で塗り分けるとか、さらにハープと同じようにドの弦は赤、ソは黒で塗るとか」などと延々と述べたわけです。大学の引率の先生は「またイマホリが現代音楽などと訳のわからんことを抜かしおって・・・」とでも言いたげな苦々しい表情でしたが、カワイの部長さんは真摯に聞いてくださったことを覚えております。しかしその後ダンパーが白黒に塗り分けられたというニュースはついぞ聞きませんが。
社会科見学の一学生だけの意見では無理でも、現代音楽界で一丸となって訴えれば、ダンパーの塗り分けも実現するかもしれません。・・・無理かなぁ。
昔大学生だった頃、学校の研修旅行で浜松に行きカワイのピアノ製造工場を見学した時、最後の質問意見の場で、僕はそこの工場の偉い部長さんに必死で訴えました。
「現代音楽では内部奏法がすでに多くの場で使われているが、現在のピアノでは内部の弦がどの音なのか見た目ではとっさに対応できない。現在は各奏者がシールなどを貼って対処しているが、全製品共通の外見として、ぜひカワイさんには内部弦の識別を標準化することをご検討いただきたい。たとえばダンパーはすべて黒に塗ってあるが、これを鍵盤と同じように白黒で塗り分けるとか、さらにハープと同じようにドの弦は赤、ソは黒で塗るとか」などと延々と述べたわけです。大学の引率の先生は「またイマホリが現代音楽などと訳のわからんことを抜かしおって・・・」とでも言いたげな苦々しい表情でしたが、カワイの部長さんは真摯に聞いてくださったことを覚えております。しかしその後ダンパーが白黒に塗り分けられたというニュースはついぞ聞きませんが。
社会科見学の一学生だけの意見では無理でも、現代音楽界で一丸となって訴えれば、ダンパーの塗り分けも実現するかもしれません。・・・無理かなぁ。

さらにどうでもいい話ですが、その時に浜松で浜納豆といういわゆる干し納豆をおみやげに買ったのですが、ご飯に乗せて食べるのに良く合い、とてもおいしかったです。コンクールなどを聞きに行く機会があったら(当面なさそうですが)、また買ってきて食べたいなぁと思っています。


ちなみにピックは僕が心斎橋で購入しました。「指にはめるピック」は、「サムピック」と言って、親指専用なのですよ、本来。それを人差し指にはめてちょうど良い大井氏の指とは一体・・・。(と言いつつ、僕も「4つの小品」の演奏で当日別のものを使いましたけど。大井氏用に購入したもののおこぼれで。。。)「どこにでもある」とはまあ、ひとの苦労を知らないで!これでも一応、適切と思える何種類ものピックを探して、京都での練習後に閉店間際の3店舗をかけ回って調達しました。(ちなみに、サムピックを全く置いていない店舗もありました。)

なお、フィンガーシンバルの代用にしたティースプーンは、100円ショップで、これも僕が購入。こういう探し物は、とりあえず100円ショップを回ってみる、そして次に東急ハンズ、という感じが板についてきた。。。
引用元ネタについては、他にヴァイオリンパートにex-pressionという部分でラッヘンマンの「pression」が引用されております。
それから、ceintureさんにひとこと。「ダンパーの塗り分け」を提言する前に、まずは、「内部奏法が市民権を得る」ことの方が先かと。。。大井氏もおっしゃるように、内部奏法でいちいちクレームがつくという日本の状況は、世界的に見ても異常なわけで、この状態が解消されない限り、おっしゃるような提言は、聞く耳をもたれないことでしょう。
引用元ネタについては、他にヴァイオリンパートにex-pressionという部分でラッヘンマンの「pression」が引用されております。
それから、ceintureさんにひとこと。「ダンパーの塗り分け」を提言する前に、まずは、「内部奏法が市民権を得る」ことの方が先かと。。。大井氏もおっしゃるように、内部奏法でいちいちクレームがつくという日本の状況は、世界的に見ても異常なわけで、この状態が解消されない限り、おっしゃるような提言は、聞く耳をもたれないことでしょう。