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大井浩明 連続ピアノリサイタル
ロベルト・シューマンの轍
Hiroaki OOI Klavierrezitals
Robert Schumanns Fußspuren

松山庵 (芦屋市西山町20-1) 阪急神戸線「芦屋川」駅徒歩3分
4000円(全自由席)
〔要予約〕 tototarari@aol.com (松山庵)

後援 一般社団法人 全日本ピアノ指導者協会(PTNA) [ ]

チラシ 

6月15日(日)《ロベルト・シューマンの轍》第1回公演 [2025/07/06 update]_c0050810_09564463.jpg

【第1回公演】2025年6月15日(日)15時開演(14時45分開場)

《アベッグ変奏曲 Op.1》(1829/30) 7分
 TEMA, Animato - Var.I - Var.II - Var.III - Cantabile, non troppo lento - FINALE alla Fantasia, Vivace
《蝶々 Op.2》(1829/30) 14分
 Introduzione, Moderato - 1. - 2. - 3. - 4. Presto - 5. - 6. - 7. Semplice - 8. - 9. Prestissimo - 10. Vivo / Piú lento - 11. - 12. Finale
《パガニーニの奇想曲による6つの練習曲 Op.3》(1832) 12分
 1. (カプリス第5番) - 2. (カプリス第9番) - 3. (カプリス第11番) - 4. (カプリス第13番) - 5. (カプリス第19番) - 6. (カプリス第16番)
《6つの間奏曲 Op.4》(1832) 19分
 1. Allegro quasi maestoso - 2. Presto a capriccio - 3. Allegro marcato - 4. Allegro semplice - 5. Allegro moderato - 6. Allegro

(休憩)

《変奏曲 ト長調 「神とともに」 Anh. F7》(1831/32) [遺作、未出版] 4分

《ヒンメル「アレクシスに貴女を送るわ」によるカノン WoO 4》(1832/33) 1分

《シューベルト:あこがれのワルツ D365-2 による変奏曲 Anh. F24》(1833/34) [遺作、2000年出版/A.ボイデ編] 7分
Maestoso (Scènes mignonnes) - Variation 1, L'istesso tempo - Ritornell 1, Piú lento - Variation 2 - Ritornell 2 - Variation 3, Burla - Ritornell 3 - Variation 4 - Ritornell 4 - Variation 5 - Thema

《パガニーニの奇想曲による6つの演奏会用練習曲 Op.10》(1833) 24分
 1. (カプリス第14番) - 2. (カプリス第6番) - 3. (カプリス第10番) - 4. (カプリス第4番) - 5. (カプリス第2番) - 6. (カプリス第3番)

  (休憩)

《ベートーヴェン:交響曲第7番第2楽章の主題による自由な変奏曲形式の練習曲 WoO 31》(1831/35) [遺作、1976年出版] 15分
 主題(F. カルクブレンナー編、1837) - C1 Un poco maestoso - C2 - C3 - C4 Molto Moderato - C5 - C6 Presto - C7 (第九) - A6 Passionato - A7 Idee aus Beethoven (田園) - A10 Prestissimo - A11 Legato teneramente - B4 - B5 Cantando - B7 - B3

《ショパン:夜想曲第6番 Op.15-3による変奏曲 Anh. F26》(1835/36) [遺作、1992年出版/J.ドラハイム編] 4分

《幻想小曲集 Op.12 + WoO 28》(1837) 26分
 I. 夕べに - II. 飛翔 - III. なぜ? - IV. 気まぐれ - V. 夜に - VI. 説話 - VII. 夢の縺れ - VIII. 歌の終わり - IX. (燃え盛って)

6月15日(日)《ロベルト・シューマンの轍》第1回公演 [2025/07/06 update]_c0050810_09561272.jpg


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〔予告〕
【第2回公演】11月9日(日)15時開演(14時45分開場)
《交響的練習曲 Op.13 + WoO 6》(1834/37)
《子供の情景 Op.15》(1838)
《アラベスク ハ長調 Op.18》(1838/39)
  
《花の曲 Op.19》(1839)
《フモレスケ Op.20》(1839)
《4つの夜曲 Op.23》(1839)
《君に捧ぐ Op.25-1 /S.566》(1840/48) [F.リスト編独奏版]

《ウィーンの謝肉祭の道化 Op.26》(1840)
《3つのロマンス Op.28》(1839)
《4つの小品 Op.32》(1838/39)
《アンダンテと変奏曲 Op.46》(1843) [T.キルヒナー編独奏版] 


【第3回公演】 2026年1月11日(日)15時開演(14時45分開場)
朗読:山村雅治(*) 
《4つのフーガ Op.72》(1845)
《密輸業者 Op.74-10》(1849) [C.タウジヒ編独奏版]
《4つの行進曲 Op.76》(1849)
《春の訪れ Op.79-19 /S.569》(1849/74) [F.リスト編独奏版]
《森の情景 Op.82》(1848/49)

《協奏的小品 Op.86》(1849/2025)[米沢典剛独奏版/初演]
《ただ憧れを知る者だけが Op.98-3 /S.569》(1849/74) [F.リスト編独奏版]
《色とりどりの小品 Op.99》(1836/49)
 
《スペインの愛の歌 Op.138》より「前奏曲」「間奏曲(国民舞曲)」(1849)[作曲者編独奏版] 
《美しきヘートヴィヒ Op.106》(1849)(*)
《3つの幻想的小曲 Op.111》(1851)
《2つのバラード Op.122》(1852/53)(*)
《アルバムの綴り Op.124》(1832/45)


【第4回公演】2026年3月22日(日)15時開演(14時45分開場)
《7つのフゲッタ形式によるピアノ曲 Op.126》(1853)
《朝の歌 Op.133》(1853)
《プロヴァンス地方の恋唄 Op.139-4/ S570》( 1852/1881) [F.リスト編独奏版]
《序奏と協奏的アレグロ Op.134》(1853/2025) [米沢典剛編独奏版/初演]
  
《ゲーテのファウストからの情景 WoO 3》序曲 (1853/82) [R.クラインミヒェル編独奏版]
《天使の主題による変奏曲 WoO24》(1854)
ブラームス:《シューマンの天使の主題による変奏曲 Op.23》(1861/78) [T.キルヒナー編独奏版]

6月15日(日)《ロベルト・シューマンの轍》第1回公演 [2025/07/06 update]_c0050810_14101043.jpg
6月15日(日)《ロベルト・シューマンの轍》第1回公演 [2025/07/06 update]_c0050810_16003446.jpg

# by ooi_piano | 2025-06-08 06:47 | シューマンの轍 | Comments(0)
《先駆者たち Les prédécesseurs IV》
4,000円(全自由席)
お問い合わせ poc@artandmedia.com (アートアンドメディア株式会社)

2025年3月29日(土)POC第56回公演 〈投機者II  ショスタコーヴィチ〉 [2025/03/16 update]_c0050810_00023343.jpg

【POC第56回公演】
2025年3月29日(土)17時開演(16時半開場) 松涛サロン
〈投機者Ⅱ ショスタコーヴィチ ~没後50周年記念

P.I.チャイコフスキー(1840-1893):《管弦楽組曲第1番 ニ短調 Op.43》より「フーガ」(1879/1886) [G.L.カトワール(1861-1926)による独奏版/日本初演] 4分
D.D.ショスタコーヴィチ(1906-1975): 24の前奏曲とフーガ Op.87 (1951)
 第1番 ハ長調 - 第2番 イ短調 - 第3番 ト長調 - 第4番 ホ短調  20分
 第5番 ニ長調 - 第6番 ロ短調 - 第7番 イ長調 - 第8番 嬰ヘ短調  27分
 第9番 ホ長調 - 第10番 嬰ハ短調 - 第11番 ロ長調 - 第12番 嬰ト短調  25分

  (休憩 15分)

鈴木悦久(1975- ):《ドミニサイド・ダンス Dominicide Dance》(2024、委嘱初演) 10分
D.D.ショスタコーヴィチ(1906-1975): 24の前奏曲とフーガ Op.87 (1951)
 第13番 嬰ヘ長調 - 第14番 変ホ短調 - 第15番 変ニ長調 - 第16番 変ロ短調  26分
 第17番 変イ長調 - 第18番 ヘ短調 - 第19番 変ホ長調 - 第20番 ハ短調  24分
 第21番 変ロ長調 - 第22番 ト短調 - 第23番 ヘ長調 - 第24番 ニ短調  27分

[使用エディション:ショスタコーヴィチ新全集版(2015)]


(※)2023年1月芦屋公演 https://ooipiano.exblog.jp/32821983/

(#)ショスタコーヴィチのフーガ作品等 演奏動画集 https://www.youtube.com/playlist?list=PLiLOOaD1cYsNXuSf0fkLeUVmFY78UTNLo
 交響曲第10番第2楽章 Op.93-2 (1953) [作曲者による連弾版]、映画音楽《忘れがたき1919年》より「クラスナヤ・ゴルカの攻略」Op.89a-5 (1951/2022) [米沢典剛編2台ピアノ版]、交響曲第13番《バビ・ヤール》第5楽章「出世」(1962/2022) [米沢典剛編独奏版]、オラトリオ《森の歌 Op.81》より第7曲「栄光」(1949/2021) [米沢典剛編独奏版)、オペラ《ムツェンスク郡のマクベス夫人 Op.29》より~第2幕第4場から第5場への間奏曲「パッサカリア」 (1932) [作曲者編独奏版]、《ピアノ五重奏曲 Op.57》より第2楽章「フーガ」(1940/2022) [米沢典剛編独奏版]、《弦楽四重奏曲第15番 Op.144》より第1楽章「エレジー」(1974/2020) [米沢典剛編独奏版]、《革命の犠牲者を追悼する葬送行進曲》(1918)

2025年3月29日(土)POC第56回公演 〈投機者II  ショスタコーヴィチ〉 [2025/03/16 update]_c0050810_00041453.jpg


鈴木悦久:《ドミニサイド・ダンス Dominicide Dance》(2024) 
2025年3月29日(土)POC第56回公演 〈投機者II  ショスタコーヴィチ〉 [2025/03/16 update]_c0050810_04431636.jpg
 矛盾を抱えたまま進めば、いずれ躓く。敬愛と忠誠は、やがて支配と従属へと変わり、脆い感情は憎しみに侵されていく。だが、バランスを取ることは簡単ではない。どちらかに傾いた天秤は、いずれ底を打ち、安定を求める。従属の居心地の良さを知りながらも、唯一の抗いは、振り切れた針の先に目盛りがないこと。その先には、計ることのできない関係の重みがある。
 誘惑の影を踏みながら踊る《ドミニサイドダンス》。その先に待つのは、陶酔した醜悪な夜明けだ。均衡が崩れるとき、壊れるのはどちらなのか。
 光と闇の境界線が、新たな救いを映し出す。だが、それを照らす者の正体を知らない今だけが、破綻せずにいられる瞬間なのかもしれない。(鈴木悦久)




2025年3月29日(土)POC第56回公演 〈投機者II  ショスタコーヴィチ〉 [2025/03/16 update]_c0050810_23554431.jpg鈴木悦久 Yoshihisa SUZUKI, composer
 1975年生まれ。昭和音楽大学で打楽器を、情報科学芸術大学院大学(IAMAS)で作曲を学ぶ。1998年から打楽器奏者として、2004年から作曲とメディアアートを主軸とした活動を展開。ISEA2004(フィンランド)、Sounding Taipei2004(台湾)、岐阜おおがきビエンナーレ2008(岐阜)、ノイケルン48時間(ドイツ)他にて作品発表。アルスエレクトロニカ2006デジタルミュージック部門入賞(オーストリア)。現在、名古屋学芸大学メディア造形学部映像メディア学科兼大学院メディア造形研究科准教授。JSSA先端芸術音楽創作学会会長。JSEM日本電子音楽協会理事。

【主要作品】
極東のうた (2003) [ヴィブラフォン二重奏]
Ring-Quartet (2003) [マリンバ四重奏]
Sein und Zeit#2 (2004) [コンピュータ, 打楽器ソロ] w/赤松正行
TeAshi (2004) [打楽器六重奏]
Marimba Pleasure (2008) [マリンバ二重奏]
Suite for Disklavier (2008) [コンピュータ, 自動演奏ピアノ]
Adagio for Disklavier (2009) [コンピュータ, 自動演奏ピアノ]
h-ear (2009) [ミキシングボード]
干渉 (2010) [ミキシングボード]
Etude (2012) [フィクストメディア音楽]
風の共鳴 (2013) [コンピュータ, フルート]
Feedback Trio (2014) [フィクストメディア音楽]
Grain Flakes (2016) [フィクストメディア音楽]
Grain (2017) [コンピュータ, カリンバ]
Grain #2 “Overlay” (2018) [コンピュータ, カリンバ, オーディオビジュアル]
ピアノ練習 (2019) [ピアノソロ]
スケーラブル カウンターライン - 打楽器奏者とコンピュータのための – (2019) [コンピュータ, 鍵盤打楽器ソロ]
review (2020) [コンピュータ, 打楽器ソロ]
Conversation (2020) [コンピュータ, 小太鼓, 自動演奏ピアノ]
ELEVEN (2020) [フィクストメディア音楽]
monologue for Percussionist (2021) [コンピュータ, 小太鼓]
極夜 – 白夜 (2021) [フィクストメディア音楽]
夜の地球儀 (2021) [フィクストメディア音楽]
Deastema 2 (2021) [コンピュータ, 打楽器, ピアノ] w/ 水野みか子
ピアノの庭遊び (2022) [コンピュータ, ピアノ]
トラックメイク (2023) [コンピュータ]
Improvisation from Today (2024) [モジュラーシンセサイザー]


鈴木悦久作品プレイリスト
1. Electronic Garden for (sound) Object (2023) [コンピュータ, ブザー, ピアノ]
2. ピアノ練習 (2019) [ピアノソロ]
3. Eleven (2021) [フィクストメディア音楽]
4. Marimba Pleasure (2008) [マリンバ二重奏]
5. Yoshihisa Suzuki solo Performance @Berlin Gallery ZERO (2007) [No input mixing board]
6. 自動演奏ピアノのためのアダージオ (2009) [コンピュータ, 自動演奏ピアノ]
7. 自動演奏ピアノのための組曲 (2008) [コンピュータ, 自動演奏ピアノ]
8. クロマティスト - VS Version (2005) [コンピュータ, 自動演奏ピアノ]
9. 集・tsu-do-hi (2004) [ビブラフォン二重奏]
10. 環・カルテット (2003) [マリンバ四重奏]
11. 極東のうた (2003) [ビブラフォン二重奏]


2025年3月29日(土)POC第56回公演 〈投機者II  ショスタコーヴィチ〉 [2025/03/16 update]_c0050810_20142403.jpg



# by ooi_piano | 2025-03-14 20:14 | POC2024 | Comments(0)
3月23日(日)ジョアン・ミロ展コンサート@東京都美術館(2025/3/18 update)_c0050810_00501219.jpg

東京・春・音楽祭 SPRING FESTIVAL IN TOKYO
ミュージアム・コンサート
「ミロ展」記念コンサート Vol.3
2025年3月23日(日)14時開演(13時半開場)
東京都美術館 講堂 https://www.tobikan.jp/


【現代音楽とミロ ~ミロに影響を受けた二人の作曲家】

■ジョン・ケージ(1912-92):《易の音楽》(1951) [全4巻]
John Cage (1912–92) : Music of Changes (1951)

■武満徹(1930-1996):《クロッシング》(1962、独奏版世界初演
Toru Takemitsu (1930-1996) : Crossing for pianist(s) (1962, World Premiere of solo version)

■川島素晴(1972- ):《夢の迷宮 ~武満徹「ミロの彫刻のように」断片(1995)に基づく》(2025、委嘱新作/世界初演
Motoharu Kawashima (1972–) : "Labyrinth of Dreams - after Toru Takemitsu's 'Comme la sculpture de Miró' ” (2025, Commissioned work / World Premiere)

ピアノ:大井浩明
Piano : Hiroaki Ooi

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川島素晴:《夢の迷宮 ~武満徹「ミロの彫刻のように」断片(1995)に基づく》(2025、委嘱新作・世界初演)
 武満徹(1930-1996)は、亡くなる前年の1995年に、自身の別荘と同じ御代田の地に開館したメルシャン軽井沢美術館(2011年閉館)の最初の展覧会、「ミロ、夢の迷宮」展を鑑賞した。10月5日に癌の闘病から退院し、御代田の別荘に行ってから会期末11月19日まで約1ヶ月の間のどこかで、無理を押してでも観たのだ。そしてそこで観たミロ晩年の彫刻群に触発され、フルートとハープの二重協奏曲《ミロの彫刻のように》を作曲しはじめていた。「La lune(月)」と名付けられた第1楽章の冒頭、たった6小節しか存在しないが、衰えのない筆致で詳細がメモされており、卓抜で繊細なオーケストレーションの構想が垣間見える。その先を武満に成り代わって書き継ぐとすればおこがましいが、この断片から自由に夢想することなら許されよう。
 武満は前述の展覧会に接してエッセイ『晩年のミロの陰影』を遺しており、かねてよりミロに傾倒していた武満が、このときは「個体としての魅力を湛えたそれぞれの色彩が私が思っていたほど単純なものではなく、深い多義性を秘めた、なにか不可思議な有機体のように感じられた」とのこと。これはそのまま、武満の晩年の音楽が目指した姿に重なる。その他、明るさの中の翳りにも言及があり、恐らくは死を意識していたであろう武満自身の晩年をミロの晩年に重ねたこれら文章の全てをここに引用することはできないが、私自身はその全文を噛み締めながら、そして「ミロ、夢の迷宮」展のカタログを観ながら、音を紡いだ。
 なお、「迷宮」とは、ミロが晩年にマーグ財団の庭に創った、迷路のように無数の陶板や彫刻で満たされた空間である。一方、武満は、しばしば夢を自身の音楽構造になぞらえた。武満が観た展覧会名「夢の迷宮」は、そのまま、武満作品の音楽体験とも一致するだろう。武満が遺した断片にはじまり、迷宮に迷い込むかのように、夢想しつつ進む。(川島素晴)


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川島素晴 Motoharu Kawashima, composer
 東京芸術大学、同大学院修士課程にて作曲を近藤譲、松下功に師事。1992年秋吉台国際作曲賞、1996年ダルムシュタット・クラーニヒシュタイン音楽賞、1997年芥川作曲賞、2009年中島健蔵音楽賞、2017年一柳慧コンテンポラリー賞等を受賞。作品は国内外で演奏されており、2024年には多賀城創建1300年を記念した委嘱作品、オペラ《いしぶみの譜-多賀城創世記ー》を自らの指揮により初演した。「アンサンブル東風」の作曲/指揮メンバーとしての活動の他、指揮、ピアノ、打楽器、声等、自作や現代音楽作品を中心に、様々な演奏活動にも携わっている。「いずみシンフォニエッタ大阪」コンサート・アドバイザー等、現代音楽の企画・解説に数多く携わり、2016年9月にはテレビ朝日系列「タモリ倶楽部」の現代音楽特集にて解説者として登壇。以後、様々な番組に出演してきた。(一社)日本作曲家協議会副会長。(一社)日本音楽著作権協会正会員。




◆野々村禎彦《ジョン・ケージ素描》()(2012)


ジョン・ケージ《易の音楽》(1951)
 《易(えき)の音楽 Music of Changes》というタイトルは、古代中国の占辞集『易経』の英訳〈変化の本 Book of Changes〉の捩(もじ)りである。音/ノイズ、強弱、テンポ、持続、同時に起こる出来事(沈黙/単音/集合体/星座)の重なり具合、といった諸要素が、易に由来する図表と、三枚の硬貨(change)を同時に投げて裏の数から卦を立てる六爻占術の擲銭法によって、偶有的に作曲された。図表には、使い捨てされ流転する要素(変易/change)と、繰り返し使われる要素(不易)が含まれる。
 不確定性の先行例としては、ムジカ・フィクタ(半音階的変位)を奏者に委ねたJ.オケゲム《お好みの旋法によるミサ》や、作曲法を知らなくても無限に曲を生成出来る《音楽のサイコロ遊び》(モーツァルトK.516fはその一例)がある。ケージ自身は、個人の嗜好や芸術の文脈・伝統からの解放を宣言しているが、いわゆる結合術(ars combinatoria)を完全に度外視しているわけでは無い。
 1950年初頭、ケージがブーレーズ《第2ソナタ》の初演をしてくれる代役ピアニストを探していたところ、モートン・フェルドマンからデイヴィッド・チューダーを紹介された。1950年12月18日、ブーレーズのオリジナル自筆譜をケージが譜めくりする中、チューダーは《第2ソナタ》のアメリカ初演を行い、大きな反響を呼んだ。その翌年(1951年)の3月、クリスチャン・ウォルフから譲られた『易経』英語版を基に、ケージは《易の音楽》第1巻の作曲に着手する。「好きな音だけを選んでいると、ある種の甘さが出て来る事に気付きました・・・砂糖が多すぎるのです」「実際『易経』は、どうしても良い答えを得たいと思う人達には、全く悲しい運命を告げる。もし占筮によって不幸になったり、結果に満足出来ないとしても、少なくともそれを受け入れることによって自らを改め、自らを変える機会をもつことが出来る」。
 師カウエルの提案に従い、12台のラジオ受信機のための《心象風景第4番》の作曲を暫く平行させることで、ケージは容赦ない易の結果に耐えた。同年5月2日にニューヨーク・コロンビア大学で《心象風景第4番》が初演される。《易の音楽》第1巻はその直後、5月16日にニューヨークで完成した。ただちに献呈者チューダーによって、7月5日にコロラド州ボルダーで第1巻のみ初演。その翌週の13日の金曜日、ロサンゼルスで師シェーンベルクが他界する。第2巻は8月2日、第3巻は10月18日、第4巻は12月13日に脱稿。その19日後、1952年1月1日にニューヨーク・チェリーレーン劇場で、チューダーによる全曲初演が行われた。以降、チューダーとの協働作業が長く続くことになる。
 「演奏家は己を捨て、によって導かれた『フランケンシュタインの怪物』との非人間的な一体化を要請される」(1958年、ダルムシュタットでの講演)が、一方、「多くの箇所で記譜が不合理(irrational)と思われるだろう。その場合、奏者は自身の裁量(discretion)を行使してよい。」(1960年、Peters社出版譜序文)とケージは付記している。





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# by ooi_piano | 2025-03-12 19:57 | コンサート情報 | Comments(0)


Hiroaki Ooi Matinékoncertek
Liszt Ferenc nyomában, látomásai és vívódásai

松山庵 (芦屋市西山町20-1) 阪急神戸線「芦屋川」駅徒歩3分
4000円(全自由席)
〔要予約〕 tototarari@aol.com (松山庵)

後援 全日本ピアノ指導者協会(PTNA) []

チラシ 



【第4回公演】2025年3月9日(日) 15時開演(14時45分開場)

交響詩《前奏曲》 S.511a (1855/85) [作曲者/K.クラウザー編独奏版] 17分
 [ I.星辰 - II.愛 - III.嵐 - IV.田園画 - V.勝利 ]

ハンガリー狂詩曲第12番 S.244-12 (1847) 10分
 [ Introduzione, Mesto - Allegro zingarese - Stretta, Vivace ]

パガニーニ《ラ・カンパネラ》による華麗な大幻想曲 S.420 (1832) 15分
 [ Excessivement lent - Tema, Allegretto - Variations à la Paganini - Finale di bravura / Ritornello ]

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ベッリーニ《ノルマ》の回想 S.394 (1841) 16分
 [ 第1幕第1場 ドルイド教徒の合唱「ノルマが来るぞ」 - オロヴェーゾ「あの丘へ登れ、おおドルイド教徒たちよ」 - 同「御身の予言の力を」 - 第2幕第3場 ノルマ「ああ!あの子らを犠牲にしないで下さい」 - ノルマ「あなたが裏切った心が」 - ノルマ「父上 泣いておられるのですか?」 - 第2幕第2場 ノルマ「戦だ、戦だ!」 ]

マヌエル・ガルシア《計算高い詩人》の「密輸業者の私は」による幻想的ロンド S.252 (1836、ジョルジュ・サンドに献呈) 11分
 [ Rondo, molto animato quasi presto - Maggiore - Con moto - Adagio fantastico ]

マイアベーア《預言者》の再洗礼派のコラール「我らに救いを求めし者たちに(アド・ノス、アド・サルタレム・ウンダム)」による幻想曲とフーガ S.259 (1850/97) [ブゾーニ編独奏版] 25分
 [ I. 幻想曲 - II. アダージョ - III. フーガ ]

 ---
オベール《ポルティチの唖娘》による華麗なるタランテラ S.386 (1869) 10分
 [ 導入部 - 第3幕「タランテラ」 - 第4幕終曲「Allegro marziale」 - Stretta, vivace assai ]

メンデルスゾーン《真夏の夜の夢》の「結婚行進曲」と「妖精の踊り」 S.410 (1850) 10分

ハンガリー狂詩曲第15番 「ラコッツィ行進曲」 S.244-15 (1853) 6分
 [ Allegro animato, tumultuoso - Tempo di marcia animato - Un poco meno allegro ]

ピアノ協奏曲第2番(独奏用初期稿) S.524a (1839) 19分
 [ Lento assai, Adagio - Presto agitato assai - Stretto ]


[使用エディション:新リスト全集 (1972/2019、ミュジカ・ブダペシュト社)]


3月9日(日)《フランツ・リストの轍》第4回公演 (2025/03/03 update)_c0050810_08140718.jpg


リストと交響詩―――山村雅治

 フランツ・リストは19世紀最高のピアニストとして名高い。同時にピアノ音楽に超絶技巧を用いた作曲家としても。大きな手をもち、力に充ちたな演奏とすぐれた技術で聴衆の心を鷲づかみにする彼の演奏会にはいつもあふれるほど人が押し寄せ、偶像的な存在だった。1848年からはワイマール宮廷楽長に就任した。リストはワイマールで作曲に専念した。ヴィルトゥオーゾ・ピアニストとしてのキャリアを終え、指揮活動と作曲に専念するようになった。ワイマール時代は作曲家としては最も活躍した時代だ。ほとんどの交響曲や交響詩など管弦楽、合唱のための作品の大部分はこの時代に作られている。過去に作った作品を大規模に改訂することも多かった。
 ベルリオーズが《幻想交響曲》で表現した標題音楽をさらに凝縮した交響詩を創始し、ワーグナーらとともに新ドイツ派と呼ばれた。音楽史における進歩主義的発想と、音楽と文学の相互関係を力説した。彼らはよく本を読んだ。神話や聖書、ギリシャ・ローマの古典からシェイクスピア、またゲーテをはじめとする彼らの時代の文学まで。 
 「交響詩」という形式は音楽史上リストが初めて提唱した。1854年4月19日の《タッソー》上演パンフレットでその語が使われた。それまでの「交響曲」に対し、管弦楽曲にそれに対応する詩を結びつけ、詩の形式と音楽の形式を融合させることで、作曲家の想念が聴き手により正確に伝わるようになるとリストは考えた。リストが創始した交響詩は、その後もスメタナやリヒャルト・シュトラウスをはじめとする多くの作曲家によってさまざまな作品が花開くジャンルとなった。

 《レ・プレリュード》は、リストが作曲した13曲の交響詩のなかで最も演奏される機会の多い曲。『レ・プレリュード』は日本では「前奏曲」と訳される。フランス語の原題は〈Les Préludes〉であり、複数形(単数ならLe Prélude)。この理由は、冒頭に掲げた標題の一部のように、リストは「人生は死後に対する前奏曲である」と捉え、数あまたの人生をあらわしているからだ。正式名称として「ラマルティーヌの詩による交響詩《レ・プレリュード》」と記している。アルフォンス・マリー・ルイ・ド・プラ・ド・ラマルティーヌ(Alphonse Marie Louis de Prat de Lamartine、1790年10月21日 - 1869年2月28日)は、フランスの詩人、著作家、政治家。ロマン派の代表的詩人で、フランスにおける近代抒情詩の祖といわれ、ヴェルレーヌや象徴派にも大きな影響を与えている。また2月革命前後に政治家としても活躍した。
 作曲の経緯はすこし複雑だった。もともとは交響詩としてではなく、フランスの詩人ジョゼフ・オートラン(1813-1877)の詩に基づく男声合唱曲《四大元素》の序曲として作曲された。《四大元素》は「北風」、「大地」、「波」、「星々」の四部からなる合唱曲で、それらには歌詞がついていた。たとえば、《レ・プレリュード》の冒頭に登場し、最も重要な主題は《四大元素》の「星々」にもみられ、「hommes pars sur ce globe qui roule(この回転する地球上に散らばっている人間たち)」という歌詞が対応している。ところが、リストは何らかの理由でこの序曲を《レ・プレリュード》という独立した交響詩として発表した。標題もオートランの詩からではなく、オートランの師にあたるアルフォンス・ド・ラマルティーヌの詩から着想を得て、自身で新しく書き直したものだ。
 《四大元素》は男声合唱に、ピアノまたはオーケストラによる伴奏を伴う。交響詩《前奏曲》の原型が聴こえる。もちろん異なる旋律も多いが、全体的には交響詩《前奏曲》の合唱曲版という感がある。交響詩《前奏曲》も、人生を4つの時期に分けて描き出すような作品だ。静かな導入、嵐、憩い、勝利。オートランとラマルティーヌ。作詞者もタイトルも異なるが、リストの作曲の目的は、人生、あるいは世界といったものを構成する要素をそれぞれ音楽で表現し、統一的な世界観を描き出すことだった。

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 《レ・プレリュード》はリスト自身の記した標題に基づき、「緩・急・緩・急」と続く4部からなる。以下のそれぞれの部の冒頭に、標題の対応する部分を示す。

第1部 人生のはじまり─愛
 「─われわれの人生とは、その厳粛な第1音が死によって奏でられる未知の歌への前奏曲にほかならないのではないか? 愛はあらゆる存在の夜明けの光である」。
 弦楽器の疑問符のようなピチカートに続き、重要な主題が弦楽器のユニゾンで示される。この主題は全曲を通してさまざまなかたちに変奏されていく。初めは生まれたてのように少し不安げに聞こえるが、だんだんと跳躍の幅を広げて緊張を増していき、頂点で12/8拍子に移行して低音楽器群の朗々とした歌へと引き継がれる。
 そののち、冒頭の主題が穏やかなかたちに変形されてチェロ、ホルンに現れ、人生のはじまりの暖かい時期を示すようだ。続いてヴィオラとホルンが奏でる愛のテーマもやはり冒頭の主題の変形である。これは《四大元素》の「大地」でも歌われる。

第2部 嵐
 「─しかしどんな運命においても、嵐によって、幸せな幻影はそのひと吹きで吹き飛ばされ、祭壇は雷でこわされてしまう」。
 チェロによって弱音で冒頭の主題が奏でられるが、ここでは嵐を予感させる仄暗い色である。弦楽器のトレモロや半音階での昇降、減七の和音が嵐への緊張感を高める。
 嵐がはじまるとトロンボーンが大きな風圧をもって冒頭の主題を鳴らし、たたきつける雨粒や雷のような鋭い音型も各楽器に現れる。そして、ホルン、トランペットがファンファーレのような音型を奏し、嵐の激しさは頂点に達する。

第3部 田園
 「─嵐によって深く傷つけられた魂は、田園の静かな生活の中で過ぎ去った嵐の記憶を慰めようとする」。
 嵐が収まり、穏やかにオーボエとヴァイオリンがテーマを再現する。そして6/8拍子となりホルンから木管楽器群へと素朴な旋律があらわれ、愛のテーマも再び登場してともにうたい、のどかな田園風の音楽となる。

第4部 戦い
 「─しかし人は自然の懐に抱かれる静けさにいつまでも浸っていることに耐えられず、『トランペットの警笛』が鳴れば危険な戦いの地へと赴き、自己の意識と力を取り戻す」。
 第3部の田園風の穏やかな気分は徐々に高揚していき、トランペットによるファンファーレが現れるのをきっかけに音楽は前進する勢いをもって、2/2拍子の行進曲へ移行する。テーマがいずれも行進曲風のリズムに変形されて登場し、第1部の12/8拍子が再現されてクライマックスを迎える。

 リストが全編を書いた標題の冒頭部分さえラマルティーヌが書いたものではない。ラマルティーヌの「瞑想詩集」(Méditations poétiques)の原文は、全12章375行からなる長大な詩だ。そのうち、リストが引用したのは、自身が符をつけた「トランペットが警報を発する」という、たった1行だけだ。
 リストは、1855年に発表した「ベルリオーズと彼のハロルド交響曲」という論文の中で次のように述べている。「芸術における形式とは精神的内容の器、想念をおおうもの、魂にとっての肉体なのだから、形式はきわめて繊細に、内容とぴったり合っていなければならない」。交響詩《レ・プレリュード》はこのようなリストの理想を具現化したもので、標題と密接に結びついた見事な変奏は、次々とあざやかな景色を描くのにとどまらず、リストの精神的な理想をも反映した壮大な作品である。初演は1854年2月23日、ワイマールでリスト指揮によっておこなわれた。

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 リストは交響詩を13曲書いた。12曲まではツィクルスとして書かれた。「詩的素材」「音楽内在的な構造要素」ともに堅固な構造をもつツィクルスとして。

〈第1番〉 人、山上にて聞きしこと
 ヴィクトル・ユーゴーの詩に基づいている。詩人は山のなかで二つの声を聴く。ひとつは広大な、力強く秩序のある自然の声であり、もうひとつは苦悩と慟哭に充ちた人間の声だ。二つの声は闘いのうちに、ついに神聖な歌のなかに解消される。
〈第2番〉 タッソー、悲劇と勝利
 ゲーテの戯曲による。ヴェネチアの船頭の歌からとられたタッソーの主題が中心となり、タッソーの悲劇をあらわした第一部から、後半の第二部には高らかな勝利が謳いあげられる。
〈第3番〉 前奏曲 上記の通り。
〈第4番〉 オルフェウス
  最初はグルックの歌劇の序曲として作曲された。交響詩としての序文にリストは書いている。
  「過去と同様に今日においても、人間性自体には、残忍、野蛮、肉欲という本能が認められるが、それを和らげ、穏やかにし、気高くすることが芸術の使命である。オルフェウス、すなわち芸術は、メロディーと和音が織りなす波長を発していなければならない。それは互いに傷つけあい、個人の心と社会の内部で血を流しあうような対立するものに対して、やわらかく抗しがたい光のように響く。。オルフェウスはエウリディーチェのために泣いた。彼女は悪と不幸によって無と帰された理想の象徴だ。……彼は彼女を地上に連れて帰ることはできなかった! われわれは二度と野蛮な時代を目の当たりにすることがないように!」。
〈第5番〉 プロメテウス
  プロメテウスは人類に火をもたらしたことでゼウスの怒りをかい、罰を受けたギリシャの神だ。  
リストは1835年に著作「芸術家の立場と社会的身分」を出した。芸術家がもつべき社会的使命の具体例としてゼウスの秩序に縛られつつも、天界の火を人間社会に与えたプロメテウスをあげている。この曲の序文では「耐えることで勝利に至る深い痛みこそがこの作品を形成する」。
〈第6番〉マゼッパ
  ヴィクトル・ユーゴーの詩を標題にもつ。不義ゆえに裸のまま暴れ馬にくくりつけられて野に放たれたマゼッパは生きのびて、ウクライナのコサック兵になり、やがて首長にまでのぼりつめる。第二部では、マゼッパを困難に立ち向かう詩人に置き換えて、その勝利を謳いあげる。
〈第7番〉 祭典の響き
  シラーの戯曲「芸術への忠誠」が上演されたときに序曲として書かれた。しかし、標題は書かれていない。一説によれば同棲していたヴィトゲンシュタイン伯爵夫人と正式に結婚することを想定し、そのための祝典音楽として書いた、という。
〈第8番〉 英雄の嘆き
  1830年、フランスで7月革命に接して「革命交響曲」を書こうとして実現しなかった。1850年になって、第一楽章をもとにして「英雄の嘆き」が完成した。長大な葬送行進曲。
〈第9番〉 ハンガリー
  1840年にピアノのために「ハンガリー風英雄行進曲」を書いた。そのなかの二つの主題をもとにして1854年に「ハンガリー」が完成した。かつての「ハンガリー狂詩曲」がより深まった哀しみの詠嘆と離れた国を愛する情熱が讃歌に結晶していく。
〈第10番〉 ハムレット
  もともとは1856年にシェイクスピアの戯曲上演の序曲として作曲された。交響詩として完成されたのは1858年。リストは「ハムレットを優柔不断ではなく、周到に機会を待つ才能ある王子として読み、オフィーリアは不安ゆえに狂気へ至った女性として読んだ。凱旋する終結部ではなく、葬送のモデラートで閉じられる。
〈第11番〉 フン族の戦い
  カウルバッハの絵「フン族の戦い」に刺激を受けて音楽であらわした。アッティラが率いるフン族とキリスト教徒の戦い。激しい戦争の騒乱に対比される敬虔なグレゴリオ聖歌。戦いが終わるとオルガンが響き、キリスト教徒の勝利を謳いあげる。
〈第12番〉 理想
  1857年にワイマールに建てられたゲーテとシラーの像の除幕式のために書かれた。同時に初演された「ファウスト交響曲」はゲーテのために。「理想」はシラーの詩に基づいている。多感な青年の生涯が描かれているもので、リストは「躍進」「幻滅」「希求」「礼賛」と副題をつけている。
〈第13番〉 揺篭から墓場まで
  この曲だけはかなり遅れて1882年にローマで作曲されている。リストの生前には演奏されることがなかった。リストの弟子、ズィヒー・ミハーイ伯爵の絵に基づいて作曲された。薄いテクスチュアや和声などがワイマール時代とは異なる晩年の様式を示している。「揺りかご」「存在のための闘争」「墓へ、未来の命の揺りかご」の三つの部分からなる。
  

  生きる苦しみから戦いを経て、解放へ。「詩的素材」が交響詩全曲に通底するのは「闇から光」へ導かれて歩む人間の姿であり、リストの音楽は「本質として宗教的」なのだった。
 

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# by ooi_piano | 2025-02-26 02:58 | コンサート情報 | Comments(0)

《先駆者たち Les prédécesseurs IV》
4,000円(全自由席)
お問い合わせ poc@artandmedia.com (アートアンドメディア株式会社)

2025年2月22日(土)POC第55回公演 〈投機者Ⅰ ヒンデミット〉 [2025/02/20 update]_c0050810_15314521.jpg


【POC第55回公演】 2025年2月22日(土)18時開演(17時半開場)
〈投機者Ⅰ ヒンデミット〉

P.ヒンデミット(1895-1963):
《3章の練習曲 Op.37-1》(1924/25) 10分
 I. Schnelle Viertel, durchaus sehr markiert zu spielen - II. Langsame Viertel / Prestissimo - III. Rondo, Äußerst lebhaft

《自動ピアノのためのトッカータ》(1925/2023) [米沢典剛編独奏版、世界初演]  3分

交響曲《画家マティス》(1934/2016) [作曲者/米沢典剛編独奏版、世界初演] 28分
 I. 天使の合奏 - II. 埋葬 - III. 聖アントニウスの誘惑

《C.M.v.ウェーバーの主題による交響的変容》より「トゥーランドット」(1943/2020) [米沢典剛編独奏版、世界初演] 7分

根本卓也(1980- ):《歩哨兵の一日 Ein Tag von einer Schildwache》(2024、委嘱初演) 6分

 (休憩)

《ルードゥス・トナーリス(調の手習い) ~対位法・調性およびピアノ奏法の演習》(1943、全25曲) 55分
 I. 前奏曲 / II. 第1フーガ(ハ調) - III. 第1間奏曲 / IV. 第2フーガ(ト調) - V. 第2間奏曲 / VI. 第3フーガ(ヘ調) - VII. 第3間奏曲 / VIII. 第4フーガ(イ調) - IX. 第4間奏曲 / X. 第5フーガ(ホ調) - XI. 第5間奏曲 / XII. 第6フーガ(変ホ調) - XIII. 第6間奏曲 / XIV. 第7フーガ(変イ調) - XV. 第7間奏曲 / XVI. 第8フーガ(ニ調) - XVII. 第8間奏曲 / XVIII. 第9フーガ(変ロ調) - XIX. 第9間奏曲 / XX. 第10フーガ(変ニ調) - XXI. 第10間奏曲 / XXII. 第11フーガ(ロ調) - XXIII. 第11間奏曲 / XXIV. 第12フーガ(嬰ヘ調) - XXV. 後奏曲

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 東京藝術大学大学院修士課程(指揮)及び、国立リヨン高等音楽院古楽科(通奏低音)修了。新国立劇場他、国内の主要オペラ団体で音楽スタッフとして業界を支えつつ、バロック·チェロ奏者山本徹とのデュオ「ジュゴンボーイズ」を中心にチェンバロ奏者としても活動。オルガンのための連弾作品《Thème et Variations》(2010)が出版(Editions Delatour)されたのを機に、本格的に作曲に取り組む。近作に、オペラ《景虎》(2018、妙高文化振興事業団委嘱)、カンタータ《お前は俺を殺した》(2020、低音デュオ委嘱)、モノオペラ《寡婦アフロディシア》(2021、清水華澄委嘱)、舞台音楽《ばらの騎士》(2024、静岡県舞台芸術センター(SPAC))等。

根本卓也:《歩哨兵の一日》(2024、委嘱初演)
 ヒンデミットは1918年、第一次世界大戦末期に従軍している。最初は軍楽隊員だったが、後に歩哨兵として前線にも配備された。ラヴェルもそうだったが、人々は当時こぞって愛国心から戦地へと赴いた。彼の《クープランの墓》は、戦死した知人の墓碑銘だし、すでに末期の直腸癌だったドビュッシーは、最晩年の作品《家なき子のクリスマス》(”Noël des enfants qui n'ont plus de maison”)で、「フランスの子どもたちに勝利を与え給え!」と自作の詞を締めくくっている。シェーンベルクは42歳にして従軍しているし、アルバン・ベルクも丁度《ヴォツェック》の作曲中に入隊している。
 日本人にとって、第一次世界大戦はあまり印象が強くないが、ヨーロッパ人にとっては(ナチス・ドイツのそれとは全く別の意味で)真のトラウマを残した戦争だったようだ。『ロード・オブ・ザ・リング』三部作のピーター・ジャクソン監督によるドキュメンタリー、『彼らは行きていた』(”They Shall Not Grow Old”)などを見ると、「塹壕戦」という未知の世界へのイメージが、多少なりとも持てるかもしれない。

 They shall grow not old, as we that are left grow old;
 残された我々は老いていくが
 Age shall not weary them, nor the years condemn.
 彼らは歳月に疲れ果て、衰えゆくこともない
 At the going down of the sun and in the morning
 陽が沈み、また昇るたび
 We will remember them.
 彼らを思い起こそう
 (Lawrence Binyon ”For the fallen”(1914)より)
 
 ヒンデミットがアルザスでバスドラムを叩いている頃に完成させたのが、《弦楽四重奏曲第2番 Op.10》だ。第2楽章は「主題と変奏」と題されているが、その半ばほどに「遅いマーチのテンポで―遠くから聞こえてくる音楽のように」と指示された変奏がある。チェロがドラム風のリズムでピッツィカートを奏する上で、軍楽隊のパロディであろう明るいメロディが聞こえてくる。やがて彼はフランドルの塹壕で地獄を見ることになる。

 「おれはこの頭の中に戦争を捕まえたんだ。そいつはいまだってこの頭の中に閉じ込めてある。」(ルイ=フェルディナン·セリーヌ『戦争』)


《兵士の告白》(2020、詩:谷川俊太郎)[Ms, Pf]
 1.大小 - 2.死 - 3.誰が… - 4.兵士の告白 - 5.くり返す
《智恵子抄》(2023、詩:高村光太郎)[S, B, Pf]
 1、梅酒 - 2、レモン哀歌 - 3、間奏曲 - 4、亡き人に
《見舞い》(2022、詩:谷川俊太郎)[S, T, Pf]
《そのあと》(2023、詩:谷川俊太郎)[Ms, 2Vn, b.c.(Fg, Vc, Cb, Cemb, barock Harp)]
《歌》(2019)[箏]
《死の遁走~パウル・ツェランの詩に寄せて》(2014) [4面の25絃箏]
《チャコーナ》(2018) [Vn, Vc, Cemb]
《アリア》(2019)[Vn, Vc, Cemb]
《春の臨終》(2014/2019、詩:谷川俊太郎)[Ms, Vc, b.c.(Cemb)]
《願い》(2015/2019、詩:谷川俊太郎)[Ms, b.c.(Vc, Cemb)]
《あなた》(2016、詩:谷川俊太郎)[S, Cemb, コンテンポラリーダンス]
《…後》(2020、詩:根本卓也)[S]
《島》(2017、詩:岸井大輔)[演技と語りを伴うCemb]
《お前は俺を殺した》(2019、詩:佐々木治己)[B、Tu]




パウル・ヒンデミット素描――野々村禎彦

2025年2月22日(土)POC第55回公演 〈投機者Ⅰ ヒンデミット〉 [2025/02/20 update]_c0050810_15274004.jpg
 戦間期ドイツを代表する作曲家=ヴィオラ奏者パウル・ヒンデミット(1895-1963)は、フランクフルト近郊ハーナウで生まれ育った。父は画家を目指したが果たせず、その技術を活かして装飾職人になった人物で、子供たちを芸術家にして夢を継がせようとした。パウルを長男とする三兄弟は音楽を選び、家庭内合奏(弦楽三重奏)で腕を磨いた。フランクフルトのホッホ音楽院(現在はフランクフルト音楽・舞台芸術大学)に進んで引き続きヴァイオリンを学び、1916年にはフランクフルト歌劇場管弦楽団のコンサートマスターに就いた。また同年からヴァイオリンの師アドルフ・レブナーの弦楽四重奏団の第2ヴァイオリン奏者(後にヴィオラ奏者)になった。同音楽院では作曲と指揮もアルノルト・メンデルスゾーンとベルンハルト・ゼクレスに学んだ。メンデルスゾーンは大作曲家フェリックスの親類であり、ゼクレスは多くの弟子を育て、指揮者ロスバウトは同期、社会学者=音楽評論家アドルノは後輩にあたる。作曲と指揮の師ふたりともユダヤ人であり、ユダヤ人音楽家との縁は当時から深い。なお、弟のルドルフ(1900-74)もホッホ音楽院に進み、チェロ奏者=作曲家として活動を続けた。



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 彼のフランクフルトでの本格的な活動は、第一次世界大戦後に始まった。作曲家としてはまず、《殺人者、女たちの望み》(1919)、《ヌシュ・ヌシ》(1920)、《聖スザンヌ》(1921)という表現主義的な小オペラ(いずれも1幕物)に集中的に取り組んだ。職人の父が望んだ通り子供たちは芸術家になったが、あくまで職人気質の芸術家であり、自分の書きたいものを追求するよりも時流に沿って技術を発揮する道を選んだ。また演奏家としてはヴィオラに専念することを決め、ヴァイオリンとヴィオラに同じ重みで独奏曲を書いて(ヴァイオリンにはソナタ4曲と無伴奏ソナタ3曲、ヴィオラにはソナタ3曲と無伴奏ソナタ4曲)自らのレパートリーを増やした。さらに1921年、ドナウエッシンゲン音楽祭が室内音楽祭として始まり、彼は弦楽四重奏曲第3番(1920)を出品したが演奏を拒否され、初演のために自ら弦楽四重奏団を結成した。ベルリンフィルのコンサートマスターを務めていたリッコ・アマールを第1ヴァイオリンに迎え、自身がヴィオラ、弟のルドルフがチェロを弾くアマール四重奏団である。1922年に常設団体になると1933年に解散するまで約500公演を行った(ただしルドルフは1927年、彼も1929年に退団)。ヒンデミット作品は重要なレパートリーであり、《ミニマックス》(1923)や《保養所の二流楽団が朝7時に湯治場で初見演奏した「さまよえるオランダ人」序曲》(1925)のような冗談音楽もこの団体のために書かれた。自作に限らず同時代音楽を積極的に取り上げており、ヴェルディの弦楽四重奏曲やバルトーク第2番を初録音したのは彼らである。


2025年2月22日(土)POC第55回公演 〈投機者Ⅰ ヒンデミット〉 [2025/02/20 update]_c0050810_15280689.jpg 彼は程なく新即物主義に作風を転じ、《室内音楽》シリーズ(1922-27)が最初の代表作になった。ドイツ圏の音楽における表現主義は新ウィーン楽派の無調書法と密接な関連があり、それへの反発から第一次世界大戦後にラテン圏の音楽では新古典主義が台頭した。新即物主義はドイツ圏の音楽における新古典主義の対応物であり、ヒンデミットの歩みは節操がなく見えてしまうが、表現主義も新即物主義も音楽にとどまらない広がりを持った概念であり、ドイツ圏における新即物主義概念の出発点は建築だった。建築においては表現主義も新即物主義もモダニズムの一部であり、鉄筋コンクリートとガラスという新素材の使い方の違いにすぎない。モニュメンタルな建築において伝統的素材では実現できない斬新な構造を実現するために使うのが表現主義、集合住宅などにおいてシンプルな構造美と機能性を求めて使うのが新即物主義であり、同じ建築家が表現主義から新即物主義に移行する例も少なくなかった。ヒンデミットの場合もこれと同様で、拡張された調性をオペラの感情表現に使う場合は表現主義、小編成アンサンブルに使う場合は新即物主義という使い分けの結果であり、職人気質の作風と矛盾はない。作風転換後のオペラでも、《カルディヤック》(1926)のような表現主義的な題材にはそれにふさわしい音楽を付け、《今日のニュース》(1928-29)のような軽い時事オペラでようやく全面的に新即物主義に振り切っている。ただし、どちらの路線とも時流に合わせた背伸びの部分はあり、過渡期に書かれた歌曲集《マリアの生涯》(1922-23) の穏やかな対位法表現が彼の本領だろう。


2025年2月22日(土)POC第55回公演 〈投機者Ⅰ ヒンデミット〉 [2025/02/20 update]_c0050810_15281619.jpg
 彼は1927年にベルリン高等音楽院作曲科教授に任命されてベルリンに活動の中心を移すが、これにはプロイセン科学文化教育省音楽部部長レオ・ケステンベルクが深く関わっている。ケステンベルクは1925年にシェーンベルクをプロイセン芸術アカデミー作曲マスタークラス教授に任命し、生活の安定が創作の充実に直結した稔り多いベルリン時代を生んだ立役者だが、ヒンデミットを任命した背景は全く異なっている。ケステンベルクはエリート音楽家の選抜に特化した旧来の音楽教育を改革し、民衆自身が主体的に音楽に関わる共同体を作ろうとしていた。「実用音楽」に関わり始めたヒンデミットには、その旗振り役を期待していたのである。「実用音楽」はドイツに特有の概念であり、固有の目的を持つ音楽のことで、それを持たない「芸術音楽」が美学的に格上だとする考え方へのアンチテーゼとして持ち出される。ドナウエッシンゲン音楽祭の常連になったヒンデミットは、1923年から企画側に回り、1926年には「機械音楽」特集として自動演奏楽器のための音楽を集めた。今回生楽器版が取り上げられる《自動ピアノのためのトッカータ》(1926)はこのために制作された。同音楽祭は翌1927年から保養地バーデン・バーデンでの開催に変更され、「実用音楽」の演奏指導を通じて音楽共同体を作ろうとする指導者組織「音楽ギルド」の首脳会議「全国指導者週間」と同地で共同開催されることになった。両組織の考え方の隔たりは大きく、共同開催は翌1928年限りで終わったが、「音楽ギルド」の人々のために彼が書いたさまざまな実用音楽(Op.43-45, 1926-29)は、組織内では一定の評価は受けた。ヒンデミットの試行はその後も続き、1929年のバーデン・バーデン音楽祭では聴衆参加の《教育劇》(1929)をブレヒトと共作した。彼が参加したブレヒトの教育劇には、音楽をヴァイルと共作した《リンドバーグの飛行》(1929)もあるが、「芸術活動と社会主義活動は同じもの」だと考えるブレヒトと、あくまで音楽と政治は切り離して考える彼の溝は埋まらなかった。


2025年2月22日(土)POC第55回公演 〈投機者Ⅰ ヒンデミット〉 [2025/02/20 update]_c0050810_15284125.jpg 1930年の書簡で彼は「ここ数年、私はコンサート音楽からはほとんど離れてしまっていて、もっばらアマチュアや子供、ラジオあるいは機械楽器などのための音楽を書いてきました。私はこうした活動を、コンサートのための音楽より重要だと考えています。なぜなら後者はプロの音楽家向けの技術訓練以上のものではありませんし、音楽の発展にはほとんど寄与しないからです」と書いている。実用音楽の重要性を自らに言い聞かせるような文面である。少なくとも、1932年6月20日にプレーン城で1日がかりで開かれたアマチュア音楽ワークショップのための音楽を丸ごと作曲した《プレーン音楽の日》(1932)までは、実用音楽が彼の創作活動の中心になっていた。このような場にも彼は指揮者やヴィオラ奏者として参加したが、この時期にヴィオラ奏者としては、ヴォルフスタール(後にゴールドベルクに交代)、フォイアーマンとの弦楽三重奏団が評判になっていた(フランクフルトで結成したアマール四重奏団は1929年に脱退)。オペラ《画家マティス》(1933-35)は久々の伝統的形式の大作であり、16世紀ドイツの画家マティアス・グリューネヴァルト(本名マティス・ゴートハルト・ナイトハルト)が筆を置いてドイツ農民戦争に加わるが、幻滅して再び筆を取る姿を描いており、実用音楽に身を投じた数年間を投影しているかのようだ。その素材を用いた交響曲版(1934)はナチス政権下でも初演時には高く評価されたが、本体はオペラだと告知されると状況は一変した。《聖スザンナ》《今日のニュース》など旧作オペラの「不道徳性」や、ユダヤ人音楽家と弦楽三重奏団を組んでいることなど、新作とは無関係な音楽外の諸問題で批判が始まり、オペラの上演は禁止された。交響曲版の初演も指揮したベルリン国立歌劇場音楽監督フルトヴェングラーの抗議文が火に油を注ぎ、結局フルトヴェングラーは解任され、ヒンデミットも大学を追われてトルコに移住し、スイスを経て1940年に米国に亡命した。

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 彼の実用音楽はシンプルゆえに尖った室内楽が中心だが、その後は一種諦めたかのような穏やかな書法の大編成作品が中心になる。亡命生活に入ってもこの傾向は変わらず、《気高い幻想》(1938)や《ウェーバーの主題による交響的変容》(1943)は特によく知られる。実用音楽の探求が一段落すると彼は独自の音楽理論の開発に取り組み、《ルードゥス・トナーリス》(1942)はその集大成にあたる。J.S.バッハの平均律クラヴィーア曲集を意識しており、彼の理論では長短調は区別しないのでフーガ12曲で全調性が尽くされ、12曲の並びはCに始まりG (3/2) ー F (4/3) ー A (5/3) ー E (5/4) …と徐々に不協和度が上がってゆき、最後に三全音のF#が来る。性格小品11曲がフーガの間に挟まれ、前奏曲と後奏曲(前奏曲の反逆行形)が全体を包む。この大作は、オラトリオ《遅咲きのライラックが前庭に咲いたとき》(1946)と並ぶ米国時代の代表作である。



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# by ooi_piano | 2025-02-19 21:24 | POC2024 | Comments(0)

11/9(日)15時《シューマンの轍》第2回公演


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